第二章 #12【長い1日の夜】
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#12【長い1日の夜】
「2人とも!抱きつくの、禁止ですっ!!」
私はなんとか二人の拘束から逃れ、説教モードに移行していた。
「「そんな~っ!!ぐすん」」
「うっ」
う、上目遣いで、しかもダブルで目を潤ませるのは反則だあ~っ!
軽いデジャヴを感じた・・・
そ、そんなものには屈しないぞ~っ!!
「ま、まあ程々にするならいいよ」
あれ?
「「わーい♪」」
ムギュッ
「ふにゃぁーっ!!?」
私のバカぁーっ!!
―とにかくいろいろあったが、
私はクロスチョップを発動することで、どうにか事態を収集した。
頭をさする二人には悪いけど、正当防衛だからね、これは。
「お姉ちゃん、強く叩きすぎだよ・・・」
「痛いです~・・・」
「はぁ・・・何かどっと疲れたよ」
今の手刀をアリアはともかく、雪音に避けられなかったのが幸をそうしたな。
実は祖父の影響で、雪音も剣道を習っている。こちらは泉流剣術ではないのだが、雪音は反射神経がいいので、私でさえ時々攻撃を避けられることがあるほどだ。
今回は私に抱きついていたから当てれたが、普段なら無理だろうな。
暴走状態に陥ったときの雪音の対策を考えていると、ふと雪音がこう言った。
「と、とりあえず、正宏さんに連絡すれば?」
「そうね。雪音の話だと正宏に大分心配かけちゃったみたいだし」
今、家の電話は壊れているから、携帯電話で・・・
・・・あっ。
そういえば携帯電話は何処!!?
「雪音・・・。携帯電話、戦闘後の記憶ないから・・・なくしたかも」
「なくした!?どういうことお姉ちゃん!!?」
妹に怒られ落ち込んでいると、頭の痛みからようやく復帰したアリアが、驚くべき発言をした。
「心配しなくていいですよ。すべて回収して、今は私中にあります」
「そうそう、回収済み・・・って、えーーっ!!?」
アリア、私の携帯電話、持ってるの!?
「えっと、どういうことですかアリアさん?」
「説明します。私中には魔術で造られた無限収納スペースがあるのです。先の戦闘後、全てそこに回収しました。ちなみにお嬢様の意思で、取り出したり収納したり出来ます。取り出したい物をイメージすれば、それのみ取り出すことが可能です」
「へぇ~、アリアさんには、そんな昨日もついているんだ」
エッヘンと胸を反らすアリア。
「それを早く言ってよ!!」
「言うタイミングがなかったんです~・・・」
「はあ・・・」
まあ、でも確かにそれは便利だな。夜中の収納で困っている奥様方には大うけしそうだ。
「そういえば、このワンピースはお姉ちゃんの私物じゃないよね?」
と言って、私達にあの白地のワンピースを見せる雪音。
「そうよね・・・」
目が覚めたら勝手に着ていたし。
「それはおそらく、お嬢様の魔術で造られた服です。イメージによる物質創造ですね」
「“おそらく”って、アリアが造ったんじゃないの?」
「私ではないです。お嬢様の意思で造られた物なのですよ」
そういえば、あの時に出会った今の俺にそっくりな少女もこんな格好をしてたっけ。あの娘の仕業かな?
「お姉ちゃん、心当たりがあるの?」
「う~ん・・・分からないや」
まだ確信はないし、そもそもあの少女は何者だろうか?
「お姉ちゃん、そういえば下着は?」
「え・・・」
「それは可愛い下着を着けていらっしゃいましたよ、お嬢様!!」
目をキラキラさせてそう語るアリア。
しかし、顔を真っ赤にしている私はそれどころではない。
お、男が女の子の下着を履いているとか・・・今なら恥ずかしさのあまりに死ねるのでは?
「あはは・・・三途の川だ・・・」
「お、お姉ちゃん、落ち着いて!!」
「そっちに行ってはなりません、お嬢様!!」
慌てて止めるアリアと雪音。
2人によってなんとか意識が現実に戻った私は、まだ取り乱しながらもアリアにその少女の事を聞いたが、知らないということなので、結局分からずじまいだった。
「ま、まあ、とにかく今は携帯電話。えっと、取り出したい物をイメージすればいいんだよね」
話題転換して下着のことを忘れることにした私は、手を前に突きだして目を閉じ、自分の携帯電話をイメージした。
カタッ
目を開けると、手のひらにその携帯電話があった。
「すご~い。手品みたい!」
見た感じは壊れてなさそうだ。
「アリア、変声のサポート、たのむ」
「了解です」
私は電話をかけた状態でアリアに手渡す。
アリアはそれを受け取ると自分の口元にもっていった。
・・・よし。
ツルルル・・・
「はい、木内ですが」
私の耳に入ってくるのはアリアとの部分的なユニゾンによって、アリアが受話器から聞いている正宏の声。
つまり、アリアが聞いているものを私が聞いているということだ。
ちなみに、通信先は正宏の家の固定電話だ。
「直人だ」
驚いて目を見開いているのは雪音。
だって、アリアから‘俺’の声が出ているんだもん。
アリアを介さないとこの魔術は使えないらしいが、なかなか使える。
「直人!お前、今何処にいるんや!」
「ごめんごめん。実は携帯電話の電池がなくてさ、今家にいるんだけど少し充電してようやくかけれるようになったんだよ」
まあ、電話が繋がらない状態にあったのは確かだからね。
「それにしても、あの後どないしたんや?」
正宏のいう“あの後”とは、私が正宏に陣内(美琴)が気を失っていることをメールで伝えた後のことだろう。
「いや、あの、実は・・・」
う~ん・・・魔術とか何やらは言わない方がいいよね。
「爆発音のする方へ向かったはずが、知らない道に出てしまって・・・携帯の電源も切れてしまって。それで連絡とれなかったんだよ」
「ああ・・・ほんならしゃあないな。自分結構方向音痴やからな」
「ごめんな心配かけて」
「いやいや、無事ならそれでええ」
“無事”って・・・まあ、‘俺’的には無事ではないのだが。
「そうそう、雪音ちゃんにもメールで連絡つかないって伝えてしもたから、ちゃんと説明しときや」
「ああ、雪音はもう家に帰っているぜ。ちゃんと説明したから大丈夫だ」
「さいか。ほなら明日な」
「おう」
プツッ
電話が切れると、私はアリアとの部分的なユニゾンを解いた。
「はあ・・・うまく誤魔化せたよ」
「まあ、本当の事を話しても・・・ね」
私が疲れたようにそう言うと、雪音も仕方ないよというふうにそう言った。
「で、今一番の問題は・・・」
時計を見ると、9時を過ぎていた。
「「お爺ちゃんだね」」
§ §
カチャッ
「はあ・・・やれやれ、一時はどうなるかと思ったよ」
固定電話の受話器を戻し、僕は安堵の溜め息をついた。
直人の無事も確認出来たし、魔術に関わってしまったのではないなら一安心だ。
魔術と関わることは、この平和な日本でさえも死と隣り合わせの生活を送ることとなる。
化学世界に在住している魔術師のほとんどが僕の父、木内 才が統括する組織‘旧魔法政府軍’に所属している。
そして、ルーファス=ヴェリス。それは父がかつて魔法世界にいたとき名前だ。
父から魔術師としての才能を受け継いだ僕は、父から魔術や魔法世界の存在を教えてもらい、さらに彼の生い立ちや特にこの世界へ逃れる切っ掛けとなった‘魔王戦争’についても詳しく聞かされた。
魔術は魔法世界において、必要不可欠な存在となっているが、使い方を誤れば容易に人を殺めてしまうモノだ。
つまりそれは、時に凶器と成りうるということ。
それ故にさらに強力なちからを求めようとする魔術師も少なくなく、魔術を苦手とする剣術師もより強力な武器を必然的に求めるようになる。
そしてそれが戦いを生み、より危険な世界へと足を踏み込むこととなるのだ。
―親友の直人だけは、この危険な世界に関わって欲しくないと思っている正宏―
―しかし、そのねがいを欺くかのように直人の時は動き出す・・・―
§ §
「雪音、私は爺ちゃんにはこのことを黙っておこうと思っているの」
「どうして?」
「単に関わって欲しくないからよ」
私達は居間にて今後の対策案を練っていた。
「私もお嬢様の意見に賛成です。魔術を知ることは、危険を伴います」
「そう・・・だね。って!私はどうなの!」
「・・・・・」
「アリアさん、目を反らさないでください!」
「雪音には悪いけど、私達と共に行動してもらう必要があるの・・・―
―それは風呂場での騒ぎの少し前、丁度夕飯を食べ終えた時のこと。
私はアリアが台所で何かを調べているような仕草をしているのに気付き、アリアに話し掛けた。
「アリア?なにしてるの。もう食器洗いは終わらせたじゃない」
「はい・・・お嬢様、お嬢様のご家族もしくはこの家を訪れた人で、魔術師、もしくは魔術を使える方はいらっしゃいましたか?」
え?魔術師?
「あ、アリア?質問の意図が分からないのだけれど」
「この台所で料理をしていたときからですが・・・微少ながら魔力反応があります。つまり、この場所によくいる者は魔術師かもしくは魔術師の資質があると思われます」
「それって・・・私の家族の中に魔法使いがいるってこと!?」
「おそらく」
台所・・・
一番可能性に上げられるのは、家事全般を任している雪音だけど・・・
「う~ん。でもそれって、信憑性あるの?」
「そうですね・・・あらゆる可能性を考えると、およそ80%ですね」
意外と高いよ、それ!!
「そ、そうなんだ・・・」
まあ、この問題は雪音が帰ってからにするか・・・―
―ということがあったのよ」
「つまり、私も魔術が使えるってこと?」「はい、おそらく」
そして、そこが問題なのである。
「今までの話から推測するに、私達は追われていると仮定していいと思う。そして私の妹が魔術を使えると知られたら、雪音、貴女まで狙われてしまうわ。私は雪音に、魔術に関わって欲しくない・・・」
「しかし成り行き上、雪音様には魔術のことを知られてしまいました・・・」
「私は雪音の意志を尊重するよ」
少しの静寂の後、口を開いたのは雪音だった。
「私、お姉ちゃんの・・・直人兄の力になりたい、私にも魔術を教えて!!」
「雪音・・・」
本当はこんな危ない世界に来て欲しくなかった。
でも、それが雪音の答えなら・・・!!
「分かった。よろしく頼むよ!」
§ §
お姉ちゃんについて行く・・・
それが私の答え。
確かにお姉ちゃんの話を聞く限り、魔術の世界は恐ろしいと理解できた。
でも私はお姉ちゃんの|姉(兄)妹として、お姉ちゃんの味方でいたい!!
「分かった。よろしく頼むよ!」
そう言って、手を握ってくれたお姉ちゃん。
その暖かい温もりが、私の決意をより一層固めてくれた。
「・・・あの。二人とも、重大なこと忘れていませんか」
「「え・・・・・」」
ガラガラガラ
「帰ったぞい」
玄関の戸が開く音と、祖父の声。
あ、お爺ちゃん、帰ってきたんだ。
・・・って!!
隣で固まっているお姉ちゃんに私は祖父に聞こえないように小声で話かけた。
「(お姉ちゃん!!)」
「(あ・・・ああ!!アリア、‘直人’に変身して!私は二階に隠れるから、それからユニゾンする!それまでなんとか誤魔化して!)」
「(は、はいっ!!)」
石化から復活したお姉ちゃんはそうアリアに告げると、猛ダッシュで、しかもなるべく音を立てずに二階へと上がる階段へと走っていく。
お姉ちゃん、早くっ!
「おう、こんなところにいたのか」
「「!!」」
・・・間一髪、祖父が私達のいる居間に入ってくるのと、アリアの変身とお姉ちゃんが階段で二階へと消えて見えなくなった瞬間がが重なり、祖父にバレずにすんだ。
「いやあ、隣の植田の婆さんの話が長くての。その話が・・・ん?お主達、何故そこに突っ立っているのじゃ」
「「な、なんでもありません!!」」
ハモる挙動不審な私達の声。
「そ、そうか。ならいいんじゃが。2人とも、明日から学校じゃろ。早う寝なさい」
そう言うと、祖父は一階の自分の部屋へと入っていった。
「・・・はあ」
私達は安堵のあまり、その場に座り込んでしまった。
「っ・・・雪音、どうにかなったみたいだな。ユニゾンする意味なかったかも」
どうやら今の‘直人’はお姉ちゃんがユニゾンしているらしい。
「そうね・・・あははは、そうかも」
乾いた笑い声を上げる私。
どっと疲れたよ・・・
「・・・雪音」
「なに、お兄ちゃん」
「とりあえず、・・・ありがとな」
「うん!」
直人兄に変身したアリアに頭を撫でられる私。
何だかさっきの疲れが吹き飛んだ気がする。
確かに今は本当の直人兄ではないかもしれないけれど・・・
その暖かみと感謝の気持ちは偽物ではないと、私は思った。
to be continued...