第二章 #11【芹沢家の一騒動】
今回もネタ回です。
#11【芹沢家の一騒動】
「あれ、直人兄。家にいるの?」
芹沢直人の妹である私、雪音は、夏休みの最後の日を友達の家で過ごし、夕飯まで頂いてしまい、友達の両親にお礼を述べつつ、急いで家へと向かった。
というのも、直人兄の友達である正宏さんからのメールが、直人兄と連絡が取れないという内容だったので、心配になって早めに帰ることにしたのだ。
・・・すると、玄関の灯りが点いていた。
「あれ?」
もしかして、直人兄は家に帰ってきているの?
私は玄関の戸を開けて、そろそろと中に入っていった。
しかし、兄の靴はない。
靴をなくしたのかな?
私は靴を脱いで居間の方へ向かうと、突然音がした。
カタン
「!!」
それは家の奥からの音で、風呂場からの音だった。
少し怖くなり、私は忍び足で行くことにした。
直人兄は風呂場の中にいるのだろうか・・・
「ゆき・・・ね・・・」
「!!?」
弱々しく私を呼ぶ声が聞こえる。
私は忍び足を止め、急いで風呂場へ向かう。
磨り硝子から灯りが漏れ、人影が見える。
私は直人兄が裸でいるかもしれないことを忘れ、急いで扉を開けた。
ガラガラッ
「はあ・・・はあ・・・お兄ちゃん!いるの!!?って・・・」
あ・・・れ?
そこには直人兄・・・ではなく、白銀の髪の少女と、その少女を後ろから抱きついている女性がいた。
「どなた・・・ですか?」
もしかして、不法侵入者!!?
この状況に呆然としていると、白銀の髪の少女が目に涙をうっすら浮かべてこっちを見ていた。
か、可愛いっ!!
その可愛い涙目に不覚にもときめいてしまった私は、裸のままこっちに走ってきた彼女の行動を認知するのが遅れてしまった。
「ゆきね~~っ!!」
「ふえっ!?」
突然私に抱きついてくる少女。私は何がなんだか分からずに、服が彼女によって濡れるにも関わらずされるがままだった。
「えっと・・・とりあえず、放してくれるかな」
数秒後、なんとか我に返った私はようやく彼女に話しかけることが出来た。
コクッと頷いた彼女はまだ目に涙を浮かべつつ、風呂場にいる謎の女性から逃げるように私の後ろに隠れた。
何が起きているか分からないが、私はこの少女があの謎の女性に脅えているのを見て、謎の女性は敵だと判断した。
「ちょっとそこのあなた、誰なんですか!?この子が脅えているではないですか!」
「えっと・・・これはですね」
おろおろしているその女性に、私は睨みつつそう言った。
この人、幼気な少女を泣かすし、私より胸大きいしスタイルよさそうだし・・・やっぱり敵!(最後の方は羨ましさで。)
ズリッ
すると、後ろに隠れていた少女が私の服を握っていた感覚がなくなっていた。
「大丈夫だからね・・・って、ええっ!!?」
なんとその少女は、なぜかその女性を見て石化していた。
カタン
「!!?」
と思ったら、今度はさっきまで風呂場に居たはずの女性が・・・
消えていた(・・・・・)。
§ §
「・・・あれ・・・?」
目を覚ますと、私は居間にあるソファーの上で寝かされていた。
「あ・・・起きたかな?貴女いきなり倒れたのよ」
だからこんなところで寝かされていたのか。
「あ、この服・・・」
よく見ると、私はワンピースではない服を着せられていた。
「私のお古だけど・・・貴女この服しか持ってなさそうだったから」
そう言って目の前でひらひらさせる私のワンピース。確かに昔、雪音が着ていた服だ。
というか・・・!!
「雪音、帰ってたの!!?」
「え!?う、うん。覚えてないの?」
「え?」
私は顎に手を当て考えた。
そういえば・・・倒れる直前の記憶が曖昧で、はっきりとは覚えてない。
たしか、アリアに風呂場へと連行されて。
そして、アリアに風呂場で抱きつかれて。
そして・・・
何があったっけ?
何があったか思い出せないでいる私は、コクッと頷くしかなかった。
「その話をしたら、貴女が誰か教えてくれるかな」
「!!」
そういえば・・・今の私、‘直人’じゃないんだった!
しかたない・・・とりあえず、話を聞かないと。
何か悪いことが起きた気がする・・・
§ §
「えーーっ!?雪音に抱きついたって!!?」
「あ、うん」
何故か落ち込む少女。抱きついたのが私だったからかな?
悲しくなってきたよ・・・
そんなことを思っていると、突然、少女が驚きの発言をした。
「ああ、兄として情けないよ・・・」
あれ・・・?
今この子、‘兄’って言った?
泣きそうになっていたことも忘れ、私は彼女に恐る恐る問いかけた。
「‘兄’って・・・まさか」
ありえないことだけど・・・
「直人兄・・・なの?」
しかし、彼女はそれを肯定するかのようにその言葉にビクッとした。
「え・・・?」
ドウイウコトデスカ?
すると彼女は一度深呼吸をし、決心したかのように話し始めた。
「そう。私は雪音の兄、芹沢直人。何故こうなっているかを今から話すよ」
―彼女は今日の摩訶不思議な出来事や‘魔術’について話してくれた。
§ §
私の話が長かったにも関わらず、雪音はしっかりと聞いてくれた。
さすが私の妹。(シスコンではないですよ。)
「そんなことがあったんだ・・・。大変だったんだね、お姉ちゃん」
「そうなんだよ~って、お姉ちゃん?」
「だってそうでしょ?今は女の子なんだから」
そういわれればそうかもしれないけど・・・お、お姉ちゃんって。
「駄目・・・かな?」
必殺‘泣き落とし’という感じで目をうるうるさせられれば、断れないではないですか!!
「分かったよ・・・いいよ、お姉ちゃんで」
「お姉ちゃんっ!!」
「わっ!?」
了承した瞬間、今度は雪音に抱きつかれてしまった。
抱きつかれやすい傾向があるのだろうか、この体は。
ぐずっ
と、そういうわけではなさそうだ。
「私・・・お姉ちゃんと連絡つかないって正宏さんが言ってたから、心配で、心配で・・・」
「そうか・・・ごめんね、雪音。心配かけて」
私は優しく雪音の頭を撫でてやった。
少しして泣き止んだ雪音の涙を拭いてやり、私はお茶を入れて気を落ち着かせようとした。
少し落ち着いた彼女は、今度はアリアことを聞いてきた。
「じゃあ、あの風呂場にいた女の人が‘アリアさん’というお姉ちゃんをサポートする‘インテリなんとか’なの?」
「そう。私もよく分からないけどね」
今はアリアは腕輪の中に戻っているらしい。おそらく私がさっきまで気を失っていたことが関係しているのだろう。
「でも話を聞く限り、アリアさんのあの姿は、お姉ちゃんが考えたってことじゃないの?」
ブーッ
「わっ、お姉ちゃん!お茶飛ばさないでよ」
「そ、そんなわけないでしょ!!勝手に現れたの!」
ジト目で睨んでくる雪音に、私はぶるぶると首を振り否定した。
「まあ、それはないと思ってたけど。でもそれにしてもお姉ちゃん、だいぶ女口調が板についてきてるね。前世は女だったんじゃない?」
「・・・泣いていい?」
この姿になって、感情の起伏が激しくなったような気がする・・・
「ごめんごめん、お姉ちゃん!今の忘れて!」
泣きそうになっている私に顔を赤くして必死に謝る雪音。
まあ、別にいいけど。
「その、アリアさんとお話したいな~って思って」
そういえばアリアの奴、ずっと静かだった。休止状態に入っているのかな。
私は念話で彼女に話しかけた。
『お~い、アリア』
『・・・はい』
あれ?何故かアリアが汐らしくしている。
『とりあえず、出てきてよ』
『(ビクッ)お・・・お説教ですか』
・・・なるほど。さっきの風呂場でのことで反省しているのか。
『そうですね・・・正座で2時間ほど聞いてもらいますか』
『ごめんなさい、ごめんなさいっ!!』
『・・・嘘よ。ちょっとからかってみただけ』
『え?』
別に怒っているわけではないけど、さっきの騒動の仕返し。
『聞いていた通り、雪音が話をしたいって』
『・・・分かりました』
フッと私の隣に現れるアリア。
「話は聞いていました・・・雪音様、すみませんでした」
コクリと首を下げてそう謝るアリア。そうだぞ、お前が悪いんだからね。
それを見て必死に手を振る雪音。
「いえいえっ!私は少し驚いただけだから気にしないで」
本当に優しい妹だな、雪音は。(繰り返すけど、決してシスコンではないです。)
―その後、2人はなんとか打ち解けたようで、楽しくお喋りをしていた。
話の中で、雪音はアリアに風呂場での不埒な行為について、私の代わりに叱ってくれた。
ふーっと息をつく私。
雪音がいてくれればアリアの暴走を抑えられるかもしれない。
そう思っていた・・・のだが。
「でも・・・分かります」
え?突然な、何を言っているのかな、雪音?
「だって、あの可愛さは反則だもの!!」
「そうですよね、雪音様!」
そう言って私を凝視してくる2人。
正直、怖いです・・・
そういえば、雪音って小さくて可愛いものが好きだったっけ・・・
可愛いのは別として、小さいっていうのは合ってるな・・・
怯える私に狼達が襲いかかった。
「お姉ちゃん、可愛いっ!!」
「にゃっ!!」
「あ、雪音様ずるいです~」
「ふぁっ!!?」
両サイドから抱きつかれてしまった私。
身動きがとれません・・・
「は~な~し~て~!!」
「いやだよ~」
「いやですよ~♪」
「「ね~~っ♪♪」」
・・・意気投合する2人。
前言撤回です。
私の天敵がまた増えました・・・
泣いていいですか・・・?
to be continued ??
~あとがき劇場(第十回)~
ゴゴゴゴゴ
奈緒「私は玩具じゃない私は玩具じゃない私は玩具じゃない私は玩具じゃない私は・・・・・・」
アリア「逃げましょう、雪音様!現実逃避しているお嬢様はキケンです!!」
雪音「でも、正宏さんが!!」
正宏「ぼ、僕は大丈夫やぁ・・・それより、はよ逃げな、お2人さん・・・ガクッ」
アリア&雪音「「貴方のことは、一生忘れま・・・忘れるかも」」
正宏「ひどくない!?僕の扱い!!」
奈緒「シャーッ!!」
ボスッ
正宏「ぐはっ!なんで僕が・・・」
ドサッ
アリア&雪音「「な~む~」」
氷雨「奈緒の怒りを一手に引き受け自らの命と引き替えに2人の女を守り、男として人生で一番輝いた正宏だった・・・チーン」
正宏「し、死んでないわ、ボケェーッ!!」