あの子
番台で煙草を吸いながら眉間にシワを寄せている小葉様――。
この小葉館はそこまでお金に困っているわけでない。悩むとすれば妓女のなにか。
司翠「――高光の体調が良くないみたいです」
小葉「……高光ねえ」
司翠「――小葉様には分かりますよね……、あの子の願い叶えてあげることできませんか」
小葉「司翠それがそうもいかないかもしれないね」
司翠「何か問題でも?」
小葉「問題があれば直接高光に言うよ。司翠は自分の妓女としての仕事に集中しなさい」
小葉様は私たちのことはお見通し。そんな様子だった――。
高光だけの願いを叶えてしまえば落簪の制度が機能しなくなる。
小葉館が規則違反として運営できなくなるから――。
よほど客が妓女を見受けしたい場合は高額な金額を妓楼に払うこともある。
あのお方はそこまでしなくとも女には困らないだろうし――。
高光はあの白蕾という妓女と上手くいかないみたいだし。
私が友人になって晴晴様から手を引いてもらうようにすればいいか。
司翠「ごきげんよう」
白蕾「ごきげんよう、司翠様」
司翠「仕事慣れましたか?」
白蕾「はい、おかげさまで」
白蕾「すいません、皿の準備しなくてはいけないので失礼します」
皿の準備?
今の今まで剣舞の稽古してたじゃない。
笑顔を貼り付けた女は、まるで――。
まさか天妓三姫の司翠と距離を取りたいなんて人初めてだった。妓女たちの中でも私は親しみやすいはず。
「やはりよくわからない」と扇をぱしんと鳴らす音が、香膳の騒がしい中に消えていく。
どうして?金さえあればどんなものだってなれるのに。
小葉「――あの子もねぇ……」
「商売上手な女」の裏には、家族から金に変わる商品へ自ら選ばなければいけなかった過去がある――。
小さな商家の娘。家族を守るために司翠は自ら妓楼に身を売った。
家族は宮中への商売を諦めざるを得ず、他の地で商売を始めることになった。
宮中と家がどんなことで揉めたのか詳しくないが、何かに巻き込まれたのだろう。
家族は引っ越すことになったが一緒には行かず、仕送りをするため小葉館へ残った。
妓子として残りった、商人の娘は商売上手だった。
妓女たちの交渉や、客への話術や、表情は天下一品。帳簿の管理も丁寧で抜けがない。
この花街一のやり手になっている。
家族を手放さなければならなかった司翠もまた愛に飢えているのだろう――。
司翠「笑っていれば、金も、人も転がってくるの。泣くなんてもったいないでしょ!」
少女だった司翠は笑い飛ばしていた。
あの子が小葉館に現れたことで興味が尽きないのだろう。
白蕾の周りをウロウロすることが増えたが、司翠と話し込む様子はなく警戒しているのだろう――。
――もうわかったわ。
金が全てではないと貴方が否定するのであれば、私は貴方のその花街へ対する姿勢を壊してあげます。




