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終わりと始まりの花【本編】  作者: はな
白蕾【花街編】

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95/119

問い


 小葉館の大広間で食事を済ませる客たち。

 誰がお目当ての妓女を買うことができるか待つ時間でもある。


 司翠すぅすい「――様、本日もありがとうございます」


 天妓三姫の司翠すぅすいはそのような気遣いのできる妓女の1人だった。

 客同士の殺伐とした空気の中、天女のように現れる司翠すぅすいは注目され、導かれる客の優越感も計り知れないだろう。

 

 杨鈴やんりん金階じんじぇいの廊下歩き、一言だけ述べると客が慌てて着いて行く。これもまた手の届かぬ妓女、買えないと見ることのできない妓女として売れるのだ。

 

 高光がぉふぁんは一夜に数人を相手する。落簪るぉざんを持ち客たちが並ぶ。

 この人気な様子を見せるのも1つの売れる技なのだ。


 天妓三姫は三人にそれぞれタイプが違うため客被りすることもなく済む。

 三人は自分たちで自分の道を切り開き、敵わないと言われる理由のひとつである。


 今日の小葉館の大広間香膳こうぜんは少女たち子妓が料理を運び、酒を飲ませる。これで稼ぐこともできる。

 天妓三姫がいる小葉館はこの香膳収入もかなり大きい。この収入で次の妓女を育てる予算になる。


 料理も色鮮やかな物が運ばれる。

 この料理を楽しむことができる者もいれば、今日という1日にかけて小葉館に来ている人物もいる。


 小葉しょうよう「――杨鈴やんりんは――様。高光がぉふぁんは――様、――様――」


 自分の落簪が読み上げられると男たちは目の前の料理などどうでも良くなり、自分が提示した金を番台にいる女将へ渡す。こうやって部屋へと進むことが許される。


 小葉「――晴晴様」


 晴晴しんしんが立ち上がると、妓楼全体の空気が一瞬ぴんと張った。

 小葉館は、夜の王・晴晴の訪れを心待ちにする場所のひとつだ。


 白蕾ふぁんれい「香膳へ行かずにそのまま来てくだされば良いのに」

 晴晴しんしん「俺がいるとこの香膳のくだらない時間が惜しいか?(笑)」

 白蕾ふぁんれい晴晴しんしん様はあたしで遊ぶのが本当お好きなようで」


 情報を欲していることを知っておきながらも晴晴しんしん様は他の客に落簪るぉざんを渡さない程度に金を使う。これでは達成できる目的じゃないかもしれないのに、さらに時間がかかってしまう。晴晴しんしん様はそれをわかった上で笑っている。


 白蕾ふぁんれい「――お酒をお注ぎします」


 これは現代で学んだお酒の注ぎ方――。

 この時代の妓女とは違う機能的な所作。ラベルを上に向け、盃の縁に触れぬよう、かつ溢れんばかりに表面張力を操る。それは、生きるため身につけた無機質な技術。

 

 晴晴しんしん「ふっ、酒注いだことあったのか?」

 白蕾ふぁんれい「さあ、どうだったでしょうか――」

 

 これに興味を持ったのか、鋭い目をしたかと思えばニヤニヤと体を乗り出して来た。


 晴晴しんしん「あの世で汚れたか――」

 白蕾ふぁんれい「それではそのようにしておきましょう」


 この世で唯一あたしが現代から来たことを知っている人物――。

 

 晴晴しんしん「お得意の剣舞の時間だぞ」

 

 香膳こうぜんでは下級妓女たちが、上級妓女が夜の準備し、客が食事するこの時間に舞を舞う。

 白蕾ふぁんれいは剣舞――。

 艶やかな女性らしい本来の舞とは全く異なる。

 白い面、白い衣がこの空間を割く――。


 そしていつものように晴晴しんしん金階じんじぇいのところへ入って行く。

 金階じんじぇいの机の上へ慣れたように金を起き、落簪るぉざんを手取り、暗い奥の廊下へと進んでいく――。


 白蕾ふぁんれい「また高光がぉふぁん様の子妓が来てたの」

 晴晴しんしん「毒は毒のまましか生きられねえ」

 白蕾ふぁんれい「あの子が悪いんじゃ無いこと晴晴しんしん様も分かっているのでしょう?晴晴しんしん様ならうまくやってくれませんか?」

 晴晴しんしん「それでお前は上手くやれているとでも?」

 白蕾ふぁんれい「あたしだけでは難しいですね――」


 この花街で生きていくにはあたしの一人の浅はかな考えじゃやっていけない。

 だからいつも聞くの――。

 

「――ならどう思う?」「どうすればいいかな?」

 

 そしていつも少し笑った顔で答えてくれる。


「――のまま生きてください」


 あたしの選択を受け入れてくれる――。

 あの人があたしの心を温めてくれる。

 この冷たい仮面の中にあたしがいる。それを許してくれる。


 上手く生きることできない。

 壁にぶつかり続けるしかあたしは生き方を知らない。

 不器用なあたしを――。


 白蕾ふぁんれい「――晴晴しんしん様の好きそうな話でもどうですか」

 晴晴しんしん「つまらなければ肥料代払ってもらうぞ」

 白蕾ふぁんれい「わかりました。それではあの世にあるスーパーカーの話を――」

 晴晴しんしん「スパ?カー?」

 白蕾ふぁんれい「火を噴きながら人を乗せて馬よりも早い乗り物です」

 晴晴しんしん「鍬代は払ってもらうぞ。それで――」


 赤い階段の上から見下ろすのは天妓三姫の三人――。


 杨鈴やんりん「確かに親しそうです」

 高光がぉふぁん「でしょう?!」

 杨鈴やんりん晴晴しんしん様がまるで少年。客と妓女というよりも友人のようですね」


 杨鈴やんりんはまっすぐな意見を言う人物だ。


 高光がぉふぁん「――友人とは夜を過ごすものなのですか」

 杨鈴やんりん晴晴しんしん様があの子を他の男性のような曲がった目で見ているようには、見えないわ」

 司翠すぅすい晴晴しんしん様は天妓三姫の私たちにも手を出さなかったお方です。小葉館にお金を落とすということで来てくださっているだけで、女性にそのような感情が持てないのでは無いかしら?」

 高光がぉふぁん「まさか晴晴しんしん様は男性が好みだと言うのですか、あのようなお方に子どもを繋いでもらうべきです」

 司翠すぅすい「それもそうだけど……あ、ごめんね!お客様を待たせているので戻ります」

 杨鈴やんりん「頑張りましょう」


 今から仕事なのもわかってる――。

 振り返って香膳こうぜんを見るとそこに居たはずの晴晴しんしん様が居なくなっていた。そして階段の下から声がする。


 晴晴しんしん「――それでお前は乗ったことがあるのか?」

 白蕾ふぁんれい「はい」


 晴晴しんしん様とあの下級妓女の会話が盛り上がっているのか、晴晴しんしん様はあの女の横をぴったりと歩き、あの冷徹な顔が剥がれ落ち次の言葉を待ち、大きな声で笑っている。

 このような笑い方する人だった――?


 晴晴しんしん様はこちらに気が付くと大きな手、6本の指の大きな手であの女の目を隠す。


 晴晴しんしん「――お前、客を待たせてるんじゃ無いのか?」

 白蕾ふぁんれい「――晴晴しんしん様、手を離してください!」


 あの女は大きな手を離そうともがいている。それも楽しんでいるのか晴晴しんしん様は笑っている。


 高光がぉふぁん「――晴晴しんしん様に言われなくとも分かっていますよ。晴晴しんしん様が天妓三姫を買わなくなったのはなぜです」

 晴晴しんしん「興味が変わっただけだ」


 あの女だけが特別なんかじゃない。晴晴しんしん様はこの小葉館のために天妓三姫の私たちをあんたが来る前からずっと買ってくれているのだから――。

 

 廊下の奥にあいつを押し込んでいく。

 曲がった先で喧嘩しているのか大きな声がする。


 白蕾ふぁんれい晴晴しんしん様、転倒してしまいます!」

 晴晴しんしん「剣舞で鍛えてる妓女はそんな弱いのか?あ、シクシク泣いた日もあったかー?」

 白蕾ふぁんれい晴晴しんしん様!――……今の高光様ですね……すいません」

 晴晴しんしん「揉め事は嫌いなんだろ?」

 白蕾ふぁんれい「これでは大きくなるだけですよ……はぁ」


 どうして私がこのような姿を見せられているの――?

 晴晴しんしん様が少年?晴晴しんしん様の友人?これは――。

 ただこの女だけで遊びたい男じゃない――。

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