問い
小葉館の大広間で食事を済ませる客たち。
誰がお目当ての妓女を買うことができるか待つ時間でもある。
司翠「――様、本日もありがとうございます」
天妓三姫の司翠はそのような気遣いのできる妓女の1人だった。
客同士の殺伐とした空気の中、天女のように現れる司翠は注目され、導かれる客の優越感も計り知れないだろう。
杨鈴は金階の廊下歩き、一言だけ述べると客が慌てて着いて行く。これもまた手の届かぬ妓女、買えないと見ることのできない妓女として売れるのだ。
高光は一夜に数人を相手する。落簪を持ち客たちが並ぶ。
この人気な様子を見せるのも1つの売れる技なのだ。
天妓三姫は三人にそれぞれタイプが違うため客被りすることもなく済む。
三人は自分たちで自分の道を切り開き、敵わないと言われる理由のひとつである。
今日の小葉館の大広間香膳は少女たち子妓が料理を運び、酒を飲ませる。これで稼ぐこともできる。
天妓三姫がいる小葉館はこの香膳収入もかなり大きい。この収入で次の妓女を育てる予算になる。
料理も色鮮やかな物が運ばれる。
この料理を楽しむことができる者もいれば、今日という1日にかけて小葉館に来ている人物もいる。
小葉「――杨鈴は――様。高光は――様、――様――」
自分の落簪が読み上げられると男たちは目の前の料理などどうでも良くなり、自分が提示した金を番台にいる女将へ渡す。こうやって部屋へと進むことが許される。
小葉「――晴晴様」
晴晴が立ち上がると、妓楼全体の空気が一瞬ぴんと張った。
小葉館は、夜の王・晴晴の訪れを心待ちにする場所のひとつだ。
白蕾「香膳へ行かずにそのまま来てくだされば良いのに」
晴晴「俺がいるとこの香膳のくだらない時間が惜しいか?(笑)」
白蕾「晴晴様はあたしで遊ぶのが本当お好きなようで」
情報を欲していることを知っておきながらも晴晴様は他の客に落簪を渡さない程度に金を使う。これでは達成できる目的じゃないかもしれないのに、さらに時間がかかってしまう。晴晴様はそれをわかった上で笑っている。
白蕾「――お酒をお注ぎします」
これは現代で学んだお酒の注ぎ方――。
この時代の妓女とは違う機能的な所作。ラベルを上に向け、盃の縁に触れぬよう、かつ溢れんばかりに表面張力を操る。それは、生きるため身につけた無機質な技術。
晴晴「ふっ、酒注いだことあったのか?」
白蕾「さあ、どうだったでしょうか――」
これに興味を持ったのか、鋭い目をしたかと思えばニヤニヤと体を乗り出して来た。
晴晴「あの世で汚れたか――」
白蕾「それではそのようにしておきましょう」
この世で唯一あたしが現代から来たことを知っている人物――。
晴晴「お得意の剣舞の時間だぞ」
香膳では下級妓女たちが、上級妓女が夜の準備し、客が食事するこの時間に舞を舞う。
白蕾は剣舞――。
艶やかな女性らしい本来の舞とは全く異なる。
白い面、白い衣がこの空間を割く――。
そしていつものように晴晴金階のところへ入って行く。
金階の机の上へ慣れたように金を起き、落簪を手取り、暗い奥の廊下へと進んでいく――。
白蕾「また高光様の子妓が来てたの」
晴晴「毒は毒のまましか生きられねえ」
白蕾「あの子が悪いんじゃ無いこと晴晴様も分かっているのでしょう?晴晴様ならうまくやってくれませんか?」
晴晴「それでお前は上手くやれているとでも?」
白蕾「あたしだけでは難しいですね――」
この花街で生きていくにはあたしの一人の浅はかな考えじゃやっていけない。
だからいつも聞くの――。
「――ならどう思う?」「どうすればいいかな?」
そしていつも少し笑った顔で答えてくれる。
「――のまま生きてください」
あたしの選択を受け入れてくれる――。
あの人があたしの心を温めてくれる。
この冷たい仮面の中にあたしがいる。それを許してくれる。
上手く生きることできない。
壁にぶつかり続けるしかあたしは生き方を知らない。
不器用なあたしを――。
白蕾「――晴晴様の好きそうな話でもどうですか」
晴晴「つまらなければ肥料代払ってもらうぞ」
白蕾「わかりました。それではあの世にあるスーパーカーの話を――」
晴晴「スパ?カー?」
白蕾「火を噴きながら人を乗せて馬よりも早い乗り物です」
晴晴「鍬代は払ってもらうぞ。それで――」
赤い階段の上から見下ろすのは天妓三姫の三人――。
杨鈴「確かに親しそうです」
高光「でしょう?!」
杨鈴「晴晴様がまるで少年。客と妓女というよりも友人のようですね」
杨鈴はまっすぐな意見を言う人物だ。
高光「――友人とは夜を過ごすものなのですか」
杨鈴「晴晴様があの子を他の男性のような曲がった目で見ているようには、見えないわ」
司翠「晴晴様は天妓三姫の私たちにも手を出さなかったお方です。小葉館にお金を落とすということで来てくださっているだけで、女性にそのような感情が持てないのでは無いかしら?」
高光「まさか晴晴様は男性が好みだと言うのですか、あのようなお方に子どもを繋いでもらうべきです」
司翠「それもそうだけど……あ、ごめんね!お客様を待たせているので戻ります」
杨鈴「頑張りましょう」
今から仕事なのもわかってる――。
振り返って香膳を見るとそこに居たはずの晴晴様が居なくなっていた。そして階段の下から声がする。
晴晴「――それでお前は乗ったことがあるのか?」
白蕾「はい」
晴晴様とあの下級妓女の会話が盛り上がっているのか、晴晴様はあの女の横をぴったりと歩き、あの冷徹な顔が剥がれ落ち次の言葉を待ち、大きな声で笑っている。
このような笑い方する人だった――?
晴晴様はこちらに気が付くと大きな手、6本の指の大きな手であの女の目を隠す。
晴晴「――お前、客を待たせてるんじゃ無いのか?」
白蕾「――晴晴様、手を離してください!」
あの女は大きな手を離そうともがいている。それも楽しんでいるのか晴晴様は笑っている。
高光「――晴晴様に言われなくとも分かっていますよ。晴晴様が天妓三姫を買わなくなったのはなぜです」
晴晴「興味が変わっただけだ」
あの女だけが特別なんかじゃない。晴晴様はこの小葉館のために天妓三姫の私たちをあんたが来る前からずっと買ってくれているのだから――。
廊下の奥にあいつを押し込んでいく。
曲がった先で喧嘩しているのか大きな声がする。
白蕾「晴晴様、転倒してしまいます!」
晴晴「剣舞で鍛えてる妓女はそんな弱いのか?あ、シクシク泣いた日もあったかー?」
白蕾「晴晴様!――……今の高光様ですね……すいません」
晴晴「揉め事は嫌いなんだろ?」
白蕾「これでは大きくなるだけですよ……はぁ」
どうして私がこのような姿を見せられているの――?
晴晴様が少年?晴晴様の友人?これは――。
ただこの女だけで遊びたい男じゃない――。




