高光
冷たい風が屋敷を叩く夜でも、私のこの部屋の中は客が入れ替わるこの時間は静か。
海棠の花のようなこの空間が私は好き。誰よりも美人だと、海棠のようだと私をたかみに連れて行ってくれるから。薄い桃色は私の色で、私に包まれている。
高光「……はぁ、やっとあの人帰ってくれたわ」
今日も仕事、仕事を続けるの――。
私はこの顔と美貌があるから天妓三姫の1人になることができた。
これは天からの授かりもの。
私は思う存分に私を使うの――。
妓女の一夜を、天妓三姫の一夜を朝まで買うことは金塊が何十と動く。でもそれをは続けることが困難になることもよく起きた。だから私はこの顔を見たいと言う客に一夜を分散させて稼ぐようにしている。これが私、高光の夜の売り方。
本来一夜を買ってしまったほうが安くつくのも事実だ。だが、継続的に会えることで客も安心感を買うことができる良いことでもある。
私自身の体は私自身のために使う。
一夜を何人もの客に分ける私は選ぶことができる。
話をするだけの客、酒をつくだけの客、横に座るだけの客。体を私が許すのは私と同じ顔の良さを持つ人物に絞っている。でなければ私の体も持たないから。天妓三姫に会えるだけでいいなんて客は私にとっては好都合だった。
会える天妓三姫の妓女として売る。体の関係は二の次の話だ。
小葉「高光、今日は6人の客だよ」
高光「誰――?」
小葉「――」
今日も客の順番と名前を聞く。
体力温存の方法を考えている。まぁそれだけじゃないけれど――。
高光「……晴晴様は?」
小葉「高光じゃないよ」
私じゃない――?
ということは晴晴様は小葉館に来ているのね。
晴晴様が買った妓女は誰?司翠や杨鈴なら……仕方ないけれど。
高光「誰のところへ?」
小葉「私が高光に言ってどうするんだい?お前は自分の仕事に集中しな」
小葉様の意地悪。
私の気持ちなんてとっくに分かっているはずなのに。背中押してくれてもいいじゃない。
「諦めな」そう言ってくる小葉様が想像できるから話はしない。
仕方ないじゃない。
晴晴様以上の人に出会えないのだから。
高光「……ねぇ、あなた晴晴様の落簪がどなたにかかっているのか見てきてくれるかしら」
この小さな娘が天妓三姫の1人に逆らうことなどできない。
持っていた荷物を慌ててその場に置き、逃げ去るように指示されたことを受け入れる。
「わ!わ!わかりましたっ!」
前皇帝が作り上げた落簪の制度。落ちる簪と書いて落簪は、妓女の簪を客が夜を買うことによって落とすことができるためそのような札の名前になった。
落簪のルールは花街にて厳格に守るように定められている。これは妓女を守るための制度である。
花街の妓女を買うには妓楼の番台で指名する妓女に自分がいくら払うか伝え、落簪には客の名前が書かれている。そして妓女の名前の下に、客の札が番台後ろにかけられ、香膳で過ごす間に女将が最も高い金額の客を選定し、最も高額な金額を支払う客の名前の書かれた落簪が裏返される。
そして女将や子妓たちが客の元に行き、金と落簪を交換する。落簪の穴に指名した妓女の部屋の鍵が差し込まれており、夜の部屋へと入って行く――。
この落簪は後に妓女が病気になった場合、どの人物から移されたのか少しでも明白にできるよう定められた。そして、いつの間にか妓女が妊娠した際にも使われるようになった。
天妓三姫は女将が5枚の落札を時期や客の身分や、支払ってきた金額、人柄などを見て絞り、その中から見受けする人物を決める。天妓三姫であれば自らの人生を選ぶことができると言っても過言ではない。
そのため妓女たちは天妓三姫になろうとする――。
高光「――晴晴様の落簪が無いのね」
これは晴晴様が既に高額な金額で妓女を買った可能性が高い。あの晴晴様は杨鈴か司翠のどちらか。
司翠「――晴晴様?昨日は私のところじゃなかったわよ?杨鈴だった?」
杨鈴「いいえ、昨日は違います」
高光「え?」
司翠「高光、まさか私たちが晴晴様をお迎えすると思ってたの?……も〜私の部屋に入ってきたのなら晴晴様を部屋から出しますよ!高光のところへって!」
杨鈴「高光とは争いたくない」
2人のところへは晴晴様は来ていない。
この2人には私の晴晴様への思いを既に打ち明けている。二人は晴晴様を部屋に迎え入れないはず。
二人を牽制しておきたい――。でも二人であるなら仕方ないと思っていたのに――。
まさかあの下級妓女の夜を本当に買っているとでも――?
司翠「では誰が晴晴様に買われたのでしょう?」
杨鈴 (やんりん)「天妓三姫以外の妓女のところに行くとは思えませんが」
天妓三姫の三人は知っている。
晴晴様の闇を。あの指を――。
あの方は体の関係を持つことにとても否定的な人物である。
六指の子。不吉な人物として世間では見られ、異形の子どもは親に捨てられることがよくある。
晴晴様は自分のような思いを子どもにしてほしくないのだろう。
晴晴様は強くて、優しいお方。
天妓三姫にも体を使うことのない男が、天妓三姫以外の女に?そんなはずはない――。
司翠「――女将は口硬いからね、話してくれないかもね」
杨鈴 「高光、晴晴様ばかり見ていてはいつか客に見破られてしまいますよ。天妓三姫として顔には出さぬよう」
そんなこと言われなくても。
でも、この圧倒的な美があれば多少のことは男たちが許してくれる。大丈夫。
私が下がる必要はない。求めて止まないのは客のほうなのだから。
高光「晴晴様はどの部屋にいるのか見つけて」
「し、しかし……!」
高光「バカな子ね、落とし物をしてしまったと言えばいいでしょう?」
「は、はい!」
あの子は落簪を見に行くのだって成功してた。
次もちゃんと大丈夫でしょ――。




