冷めた場所
机に伏せる自分の身体は重く、ここで生きていると感じることができる――。
風が冷たくてよかった。
この震えでまたこの身体を起こす。
この世に来たときは温かく花咲く季節だったはずなのにいつの間にか冷たい雪が舞い、身体を芯から冷やす冬になってしまっていた。
書き留めていた情報はどんどん積み重なり、バツの印がついて行く。開いても、開いてもバツの印――。
あぁこれは現実離れしている。
あぁこれは自慢話をしたかっただけだ。
あの客は嘘をついている。
ある程度歴史を知っていればわかるような内容だ。
不老不死の薬なんてない。
美人になる砂なんてない。
鉛を飲めば死ぬことくらい知ってる。
もううんざりだ――。
それでも天妓三姫の華やかな座敷の裏側で、今日も耳を澄ませた。静かに客の話を拾い集める。
ほんのわずかに混ざる「本当かもしれない」話に、胸が高鳴る。そして一人落ちる。
笑い声と三味線、杯のぶつかる音が絶え間なく続き、灯籠の明かりが艶やかに滲む。
舞台の片隅では、剣を握り、月光を纏うように舞う。客の視線はほとんど、奥の座敷へと吸い込まれていく。そこは――天妓三姫の夜会。
花街で珍しい剣舞を披露したところで、あの王道には勝てない。
この重い剣でさえ小さく感じる。これが劣等感。
いくら自分がもがいたところで本物には勝つことはできない。
”「うわ~!この女優さん綺麗な人!」
「〇〇は誰が好き~?」
「昨日の音楽番組見た?!アイドルすっごい可愛かったよね!」”
現代でも「綺麗な人」に憧れがあった。
テレビ、SNSや雑誌で“完璧な美女”を見て、届かない理想を追いかけた。
まつ毛は長くてくっきりした二重、綺麗な肌に、スラリと伸びる足、綺麗な髪。
天妓三姫はまさにその憧れていた姿、形をしているもの。なりたいと思ってなれるものでもないと。
その最上級の女にはなれるわけではない。
そんなこととっくに分かってる。
あの人たちだって努力してきてあの場所に居ることも分かってる。
分かってるのに――。
花街の頂点に立つためここへやってきたんじゃない。
あたしはあたしを見失っちゃだめだ――。
ここで弱みを見せてしまったときに崩れ落ちて行くのだけは、避けなきゃいけない。
白蕾「ありがとうございます」
あたしはこの冷めた街に溶けて行かなきゃ――。




