天妓三姫
夜の小葉館は、金色の灯りが揺れる海のようだった。
胡弓の音が波のように響き、香の煙が漂い、男たちの笑い声が天井を震わせる――。
白蕾「――本当に綺麗」
晴晴様の支援あって入ることができる金階は上級妓女や中級妓女を拝める空間でもあった。
小葉館には天妓三姫と崇められる三人の妓女が一晩でとんでもない金を動かしている。そんな三姫は小葉館の妓女たち憧れの人物。
そんな天妓三姫のような女、妓女となるべく中級妓女、下級妓女たちは客を取り合う。
ここは「女の戦場」。
天妓三姫の下に居るのが中層妓女。
技や人気もあるが、あの三姫の座には届かない。毎晩の売上や座敷の数で争いが絶えず、裏での蹴落とし・悪口・情報戦は激しい。「次に三姫に昇るのは自分」という野心がなければ、すぐに埋もれてしまう。夜に消えていく妓女が多いのもこの階級の妓女たちだ。
下級妓女・新入りが最下層の妓女たち。
新しく小葉館に入って来た白蕾はここに属する。小さな舞台で踊り、雑用をこなしながら日々を耐える存在。三姫と交わることはない。雑用の業務の際にすれ違う程の少しの時間に顔を合わせるだけの関係性だ。
晴晴「なんだ?天妓三姫にでもなりたいのか?(笑)」
この人は憧れの眼差しで見ることを馬鹿げていると笑う。
白蕾「あたしは三姫のようにはなれませんよ。あの埃まみれの屋根裏部屋がお似合いの妓女なので」
晴晴「剣を握る女はそんな弱気なのか」
白蕾「あれは本物、これは偽物なので」
真っ白な仮面の中でどんな顔してんのか、この女は。
天妓三姫なんて憧れてしまえば花街に喰われるぞ。
そんな横にいる変人を横につける俺は、この6本の指に力が入る。
あのときの軟膏のおかげで確かに傷の治りは早かった。
だが、なぜ薬を持ってたんだ?あの薬瓶は花街や下庭のものじゃねぇ。
宮中のものか――。
白蕾が天妓三姫を見る横顔を、俺の目が離さない。
この女も所詮、汚れている男よりも綺麗な男がいいだろ。
白蕾「あたしが男であれば三姫から選ぶなんて髪が抜け落ちてしまいそうです」
俺が悩んでいることが馬鹿らしくなるほど、どうでもいいことに考えこんでいる。
また、ため息が漏れる。
晴晴「あれは全く別物だろ。迷うなんてことないだろ」
白蕾「晴晴様は本当に目が肥えていますね――。では晴晴様はどなたを指名したのですか」
晴晴「なんだ、俺が一人に絞るとは言ってないぞ」
白蕾「贅沢な人ですね」
この女は金階で俺は誰に金払ってると思ってんだ――。
目の前の男より、女を選ぶことに忙しいのか。
金階から小葉館の上級妓女だけが許される、赤い階段を登っていく。
白蕾「綺麗ですね――」
あの赤い階段を優雅に登る姿をじっと見つめる。
別に天妓三姫になりたいと思っているわけではない白蕾は憧れの存在と。
晴晴「目指せばいいだろ、お前も。花街の女は泥出身の女ばかりだろ」
白蕾「泥の中にいい花の種が混ざってたんですね」
晴晴「お前もそうかもしれないだろ?(笑)」
白蕾「そうだといいんですが。……あたしはあたしなのでどうにもあのような綺麗な花びらは持ち合わせていないのです」
あの人はあの人で、私は私。
このような憧れと、個を分けて考える女は――。
天妓三姫と同じだな――。




