友人
冷たい雪が街の外に積もり、客たちは急足でこの屋敷へと入ってくる――。
あの夜の落簪から毎日、晴晴様は夜の落簪を買ってくれるようになった。
香膳で自分の目的のために剣舞を舞うようになり、少しずつこの花街での居場所を掴んできた。
艶やかで儚い花に見えるが、風を切る剣の音は鋭い。
仮面の中に白蕾の顔が隠されていることも客には受けた。
いつか自分がその面を剥がしてみたいと欲を掻き立てる。
これはあたしの生きるため、道を見つけるための工夫。
剣舞を終えると香膳の卓ごとにお酒を注ぐ。
そこで客との会話をする。少しでも手掛かりを見つけたい。
白蕾「特別な話をお聞かせください」
これがあたしのお酒を注ぐための言葉になっていった。
客は「特別」でいたい。あたしは「情報」が欲しい。
これは利害一致。
客は自分の身分の高さを自慢したり、特別なものを買ったことを自慢したり、あの有名な妓女の夜を買ったことを自慢したり。
ここでは情報を得ることは難しいばかりか正直興味のない話ばかりだ。
居場所を無くした人たちがお金でこの場を買うのだろう。
確かにお金で居場所を買うことができたら、楽なのかもしれない。
が、それこそ仮初の時間だよね。
何度舞って、話を聞いてもそれらしい情報を得ることができない――。
同じような話を何度も聞く虚しさに苛立ちと焦りのような感覚に苦しめられる。
晴晴「――何かあったか?」
晴晴様はいつもぶっきらぼうに金階で酒を飲んであたしが必死で動き回る姿を見て楽しんでいる。
本当に趣味の悪い人だ。
晴晴様はそんなことよりもあの世のことに興味があるようで次から次に話すように指示される。
晴晴様が送ってくれたこの衣と仮面があったから剣舞が客たちに受けたこと、落簪を必ず掛けてくれるからあたしは安定した生活をこの花街で送り、体を売ることなく過ごせている。
それだけのことを晴晴様に返すことができるのはあの世について話すこと。それしかあたしにはできない。
恋でも、依存でもなく、交換――。
衣、皿の洗濯は人間の手でせず機械というものが担ってくれる。
馬に乗らずとも、油を入れると鉄の塊が走り出す。
食べ物はどうやって作るのか、争いはどのようにして行われるのか――。
晴晴「――敵国が憎くないのか」
白蕾「憎しみの連鎖を起こさせなかった先人たちに感謝しております」
晴晴「戦が戦を起こさなかったのか――?!」
白蕾「はい。大事な人を奪われないために耐えて、大人たちがこれ以上の悲劇を生まないそうにあたしたちに教えをやめなかったのです」
晴晴「そうか――。そんな大人が一人ではなかったのか」
白蕾「晴晴様もそのような人になれるとあたしは思っています」
この人にはオーラがある。
あたしには持っていない構えることができる。
晴晴様と過ごしていく中でこの人も実はまっすぐな人だと分かった。
晴晴様はまさかそんなことを言われると思っていなかったのか、笑って誤魔化している。
あぁ、この人はやっぱりあたしに似ている。
白蕾「褒めているのですから、喜んでください」
晴晴「白蕾に褒められて、俺も変人だと言われているようなもんだろ」
白蕾「ふっ――(笑)晴晴様はこちら側の人間ですよ」
晴晴「あー、そうかー」
褒められ慣れていない人の反応。
まるであたしを見ているようだった。
友人のような兄のようなこの人を見ていておかしくなった。
晴晴「――それで?俺が何できるって?(笑)」
白蕾「稼げる方法があります」
晴晴「どっちが悪者かわかんない奴だな」
白蕾「ふっ(笑)それも――下庭と呼ばれる人たちが祝街と立場が逆転してしまうほどの」
晴晴「悪巧みをするようになったのか、変な女だ」
白蕾「あの人たちも人間です。晴晴様たちが――」
はっと閃いたときの顔はまるで白蕾――。妓女のような顔では無かった。
馬鹿げた発想で、子妓たちをと同じように少女の目をしていた。
白蕾「このお金は晴晴様のものです。お使いください」
晴晴「女の金、巻き上げるほど俺は悪趣味じゃない。それでやり方は?」
白蕾「儲かる話にはやはり興味があったのですね――(笑)」
この変な友人はクスクスと笑い、作戦を話し始めた――。




