目的
杏杏たちが埃や荷物で溢れていたはずの屋根裏部屋をなんとか片付けてくれていたため、過ごすことに窮屈さは感じない。
むしろここが後宮に入ったときの「墓場」の屋敷を感じて少し面白くなっている自分がいる。
寝台と机と、椅子、小さな棚が並び屋根裏部屋の窓からは外の月の光と灯籠の光が入り込んで温かく感じる。
晴晴「気に入ったのか」
白蕾「はい、とても」
その小さな部屋で晴晴様とあたしは立ち尽くしていた。
香膳ではなく夜の落簪を晴晴様は買った。そしてお通しをするために――。
晴晴様の手を拒むことはここで出来ない――。
晴晴「それで?あの世の話をするんだろ」
晴晴様は一つしかない椅子に腰掛けた。この人はこの話をするためにあの大金を落簪に注ぎ込んだの――?
白蕾「晴晴様は、それでいいのですか?」
晴晴「俺は妓女の夜に興味は無い。この地獄で楽しみたいだけだ」
白蕾「好奇心ですか――わかりました、それでは――」
あたしは未来の街の絵を描き、晴晴様に話を続け、体の力を一つずつ緩めていく。
晴晴「――こんな高い建物はどうやって作るんだ」
白蕾「私は勉強や仕事をしていたわけでないので詳しくは知りませんが、木や土ではなく、鉄やコンクリートを使って組み立ていきます」
晴晴「なんだそのコンクリートは?……勉強をしていなくとも誰もが知っているというのか?」
白蕾「はい、文明が発達しているから底上げはこの世よりは進んでいます」
晴晴「――どのような人間もか?」
白蕾「はい」
晴晴「その世が地獄だなんて、お前は――」
白蕾「はい。もう十分この世であたしは幸せなのかもしれないと……何度も思いました」
なんだ――。
この女の顔が。目が。
幸せではなかったと訴る。
身分制度に縛られることなく、十分過ぎるほどの文化を持ち、学びを得ることができるあの世がなぜ地獄だと感じるのか――。
白蕾「――どの時代も場所も、同じ悩みを抱える人間は存在するから――」
……から、なんなんだ――。
白蕾「親からの愛を受けることの出来なかった子はどのように生きるのでしょうか――」
あ――。
そうだ――。
これは俺と同じ地獄を見ていたのか――。
こどもであるはずの子どもが、大人になることを急ぐ。そして愛も中身も無いまま大人になろうとする俺たちは知らず知らずに地獄を見る。
静かな戦いを繰り広げている。
自分の生きる目的も知らず。
その目的を白蕾はこの世で見つけたと言うのか――?




