蕾の夜
小葉館は今までにない熱気に包まれ、男たちは空気に飲まれ酒を浴びるように飲み、妓女たちに落簪を次々にかけていく。
香膳での落簪と酒の計算に追われ、女将小葉は頭を抱えていた。
小葉「――なんてことをしてくれるんだい……全く……」
なぜか白蕾の剣舞が受けると子妓たちが飛んで跳ねて喜び、せっせと働き始めた。
他の妓女たちがこのようなこと面白いはずもなく、剣舞を終えた白蕾を睨み殺しそうだ。
これは空気が変わり嵐の前だ。そう思わざるを得なかった。
男たちはそんなことお構いないだろうが。
「明日、あの剣舞の妓女に落簪かけておきたいんだが」
そんな男たちが番台に押し寄せる。
本来は子妓から香膳の女、妓女と段階を踏んでいくはず。
この女は夜を求められるまで早すぎた。
小葉「まだ白蕾の夜を売る気はない」
「女将!何言ってんだ!あの女のお通しを男たちが奪い合ってる!俺は今のうちにかけておく」
香膳では男たちが白蕾の初めての夜「お通し」を奪い合う口論が起こっていた。
小葉「お辞めください!揉め事が起きぬように落簪があります!」
「おーっ!」
これは男たちにはめられた。
白蕾の夜を売るつもりはなかったのだが、それを言わせるために男たちが結託していたのだ。
番台には流れるように白蕾に自分の札をかけようと押し寄せていた。
晴晴「お前たちが買えるとでも?白蕾の今日は俺が落簪をかけている」
紫色の翡翠には金の模様が流れそこに「晴晴」の札が白蕾の剣にかけられた。
今日の落簪は決まっている。
晴晴はそれを見せびらかすように金階に白蕾に手を添えて入っていった。
男たちは落胆、どうしようもない怒りを壁に打ち付ける。
この夜の街で頭が切れるものはそうやって欲しいものを手につけていく。
ただの欲ではこの街は生きていけないのだ。
「お通しはするとは言ってないだろう?」
「香膳の落簪は晴晴が買ってるかもしれねーけど、夜は買ったとは言ってないぞ?」
晴晴の香膳の前で男たちは中の様子を見ようと群がる。
晴晴「――今日は俺が買ったと言ったのが聞こえなかったのか」
御簾を上げて出てくる晴晴に寄り添って出てくる白蕾の頬は薄く色づき、先ほどまで綺麗に着こなしていた衣は乱れているのか晴晴は自分の大きな体に隠す。
その様子に男たちは息を呑む。
晴晴「金階に入ったことない男は知らないのか?」
晴晴の冷たい目は男たちを見下ろし「邪魔するな」と。
あまりの恐ろしさに男たちは自分たちの席に急いで戻る。
晴晴は呆れた顔をし、金階の御簾を下げまた奥へと白蕾と入っていく。
晴晴「――躾のなってない男が多すぎる」
「――なぁ、金階ではお通しありなのか……?」
男たちは興奮した様子で自分の妓女たちに問う。
「金階にあなたが入れてくれないと私は存じ上げません」
「そ、そうか。あそこでもありなのか……?」
「金階でお通しをするような方は、上級妃たちではありえません。品がないとしか」
「だ、だめなのか――」
男たちの夢は創られ、壊される。
「あの白蕾と言う女はなんなのか」
「どこから来たのか?!」
小葉「ここは後宮ではありません。出自については話しません――」
この混乱を止められることができるのか。
この混乱のままあの女は立ち続けるのか――。




