蕾
晴晴「――そうか」
この女がこの花街で浮いているんじゃない。
この女の話が事実だとすれば納得できる――。
この世に存在しなかったはずの女だから、遅れているのか。
俺を騙すのが上手いだけの女は暇つぶしに丁度いいと耳を傾けていた。
だが、説明は丁寧でまるでそれが本当に存在し、当たり前のものだと言いきる。
そんな世がこの女にとって地獄だったとすれば、どの世も地獄だ。
俺の地獄の上に立つんだ。
なぜこの女はここで立つんだ。
痛くない?怖くない?そんなはずはない。この女が衣を握り感情を殺していた。俺は見た。
いや、あの時この女は自分が帰りたいと言わなかった。「人を返したい」と。
この世に紛れたあの世の人間が他にもいるのか――?
白蕾「――晴晴様、本日はありがとうございました」
晴晴「お前の頭の中が見てみたい」
皮肉を含んだ興味。
この女がここで消えるのは惜しい。
そう思った時点で俺はこの女に使われる。
どうせ暇つぶしだった。
時間が伸びるだけだ。
まぁ、いい――。
小葉「――晴晴っ!なんだこれは」
晴晴「あれは俺が売ったもんだ。汚すなよ、女将」
花街の女たちは飼われている男に寄って美しさが決まる。
金がいくらかけられているか、衣や飾り、化粧身に纏うもので変えることができる。
お遊びには丁度いい。
小葉「こんなもん寄越して……あんたはあの女をどうしたいんだ」
晴晴「どうしたい?それはあの女が決めることだろ」
女将小葉が怒る姿もまた面白い。
女は俺の駒だ。遊び道具だ。あの女に主導権を握られてたまるか――。
香膳の賑わいが静まり返る。
声も、音も全てを吸い込むようにその蕾は花びらを広げたがっていた。
晴晴「――」
ただその白い蕾を見ることしかできなくなる。
その蕾は剣を腰にかけ、妓女なのか、剣士なのかわからない。
今日もこの女へ落簪をかけて笑って過ごそうと思っていた、はずだった。
白蕾「――晴晴様、落簪とこの衣ありがとうございます」
晴晴「――それで、行くのか」
白蕾「そのときはそうします」
「あの妓女、この間の剣舞のだろ――?」
「晴晴が落簪買ったらしいぞ――」
「下級妓女が枯れていく様を俺たちも見届けられるんだな〜(笑)」
「いやいや、下級妓女ってあーなのか?」
晴晴の金階に香膳の視線が集まる。
「いや――あんな妓女見たことねー……」
香膳の男たちは完全に白蕾という下級妓女に身惚れた――。
バカにする男のほうがおかしいと。
蕾が勝ったわけではない。
男たちの、花街の基準が壊された瞬間だった。
商品を越えた何か。
そのときはそうする。その時が白蕾にやってきた。
呼び出される声の数、大きさ、歓声。
香膳の男たちを一人で相手してしまった「剣舞」は、白い衣を透かせ、空気を割き、目を奪い続ける――。
蕾のまま空気を支配し始めた妓女の物語が始まる瞬間を目にした――。




