笑み
香膳と呼ばれる広間の奥には衣のかかった部屋がいくつか存在する。
この場所は所謂VIP席。金階と呼ばれる。
金階に居て、あたしを呼ぶ変わり者はふっ、と小さく笑い酒を飲む。
晴晴「花街に拒否されたか」
その言葉はどこか喜びが含まれていた。
この薄汚れた衣でこの金階を動き回るのは好ましくないだろうと、静かにその場に立った。
晴晴「言い返す言葉もないか」
白蕾「はい」
煙草を晴晴は吸い込むことを辞める。
晴晴「それお前はどうする」
白蕾「妓女として夜を売るしかないと?」
今度は晴晴が言葉に詰まる。
それはそうだろと笑っている。
白蕾「――面白い話には興味ないですか?」
いい。
なんだって面白くするしかない。
晴晴「つまらない話だったらこの落簪代、お前が払え」
白蕾「あたしは未来から来ました――」
この告白をして、この晴晴と言う男を利用する。
この男も暇つぶしにあたしを遊んでいるのだから、お愛顧だし。
晴晴「で、未来に何がある」
白蕾「未来には高速で進む鉄の塊、空を飛ぶものがあります」
晴晴「っ――」
笑いが堪えきれないのか不適な笑みを浮かべたまま頭を抱え、煙草を置く。
晴晴「で、お前は何がしたいんだ。この花街で」
白蕾「人をその世に戻したい。それだけです」
晴晴「だとすればここはお門違いだ。――宮中にも無かったのか」
この人は頭がよくキレ、察しがいい。
宮中で見つからなくてここへ来た、と――。
晴晴「その世がお前の帰りたい場所か」
白蕾「いえ。あの世は地獄です。――あたしは親という毒から逃げてきた卑怯者です」
晴晴「――お前の言っていることは真実に感じてしまう。妓女に向いてるな。お前」
白蕾「ありがとうございます」
晴晴「ここで毒を増やすつもりか」
白蕾「痛くありません」
晴晴「それで強くなったつもりか?」
白蕾「痛みはもう、感じません」
晴晴「未来が地獄だとは、どう生きても変わらないな」
あたしが地獄だっただけで、誰かにとっては天国だった現代。
あたしが天国だと思っていたこの世が、誰かにとって地獄だった。
白蕾「晴晴様、あたしの夜を買ってくだされば未来のことお話ししましょう――」
あたしはここで笑って過ごすの。
ここで自分の目的を果たすの。
自分の目で本当に何もない場所なのか見るの。
それが花街での生き方なんでしょう――?




