女の汗
女の汗などこの花街では「汚れ」そのものだ。
美しくあるべき女が自ら汚れたものになるなど、ありえない――。
だがあの女はこの花街で剣を握り続けている。
求められるものでない女の剣舞。
小葉「――白蕾そんなに披露したいのなら香膳でやってみればいい」
そうして剣を握ることを辞めればいい。
花街に来る男たちは女に強さなど求めてはいない――。
白蕾は仮面を被り白い衣を揺らし静かに入ってくると、周りの妓女たちが演奏を始めるまで頭を下げ続けた――。
客への礼なのか、花街への抵抗なのか。それとも覚悟なのか――。
賑やかな演奏の中で白蕾の剣舞だけは鋭く空気を裂き続け、静かに終わりを告げた。
香膳の舞台に剣を振るう女など今まで存在しなかった。客の男たちは呆気に取られ、拍手も歓声もない。ただ白蕾が舞台から見えなくなるのを待つ。
理解できないものの怖さをこの場の男たちは共有していたのだ。
「――みんな思ってることだから私が言います。あなたは責任感がありません。客を、夜取るべきです」
香膳での剣舞を終えると演奏をしていた妓女たちが囲い、まるで「汚れ」を見ているかのような目でこちらを見てくる。
自分たちも同じように「汚れ」として舞台に出され不満なのだろう。
白蕾「――客を取るか、取らないか女将が決めることです」
あたしはここで女将小葉様の下であたしのやり方を通していくしかない。
後宮の時のように女の人たちと敵対することは良くないと分かっていたのに、自分を曲げることができなかった。
敵を作ることも分かっているはずなのに。
言いたいことは言えた。だけどまた自分の立つ場所を失ってしまう――。
あたしはあたしでいたいだけ。だけどここはそんなことできない場所だって割り切らなければいけない。
分かっているはずなのに。
どうしてあたしは不器用なんだ。誰かみたいに上手く生きることができない――。
誰かの群れではなく、自分の意思に責任を持たなければいけない。仕事は教えてもらえなくて新人に対しての嫌がらせとしてはかなりきたけど、今まで我流でやってきたこの仕事もうまく軌道に乗ってきたのに何やってるんだ自分。
いつになれば器用な女になれるのか。
この群れの中で浮いた存在に仕事を教えてくれる人は現れない。
それだけで済むはずもなかったが――。
部屋に入るとボロボロに刻まれた衣と、寝具、化粧道具は破られていて中身は出されている。
白蕾「……早く追い出したいって感じか」
部屋を見た女将は「組織に問題があるからね」よくあることのように女将は見ていた。
白蕾「これでは仕事にならなくて困ります」
小葉「あんたが巻いた種だろ。――あの子たちは変化が怖いだろう。その剣を置いて妓女として生活できないのか」
白蕾「妓女をあたしは知らないのです」
小葉「大体は馴染もうと努力するもんだ」
白蕾「ここは同じ花にしかなれないのですか?」
小葉「ふっ――。水を与えてくれる人がいなければ枯れるだけだ」
あたしはここに居ることが怖い――。
だけど自分は自分でありたいなんて。なんてわがままだ。
「――白蕾様……落簪がかかっています」
衣は引き裂かれていたため屋敷の裏の仕事、掃除をするしかないあたしを一人の女の子が恐れた顔で呼び止める。
恐ろしくて仕方ない存在に小さな女の子がその役割をするしかないなんて。
この子は剣舞の稽古の場にやってきてくれていた一人だった。
だけどこの子をあたしのわがままに巻き込むわけにいかない。
白蕾「ありがとう。今から向かいます――」
華やかな灯籠に照らされ、色鮮やかな妓女たちが舞い、豪華な料理が並ぶ香膳にあたしは薄汚れた衣で進む。
いい。これでいい――。
ここでも、自分だけでもやっていけるって前を向く。
墓場の屋敷に居たくらいなんだから――。




