売り物
売り物になるのは得意だ――。
顔も知らない誰かのために着飾って、自分の心は無くして、弱い自分を見えなくする仮面を被る。
それだけすればいい。
泥臭い体は冷たい水で掛け流し、商品用に与えられた派手な衣へ身を包む。
下庭の臭いを隠すように香の焚かれた部屋で化粧をする。
「女、晴晴様がお呼びだ」
両足には、大きな石が括り付けられ、逃げるという選択肢は、最初から用意されていない。
衣の先にはいつでも点火できるように火油がぶら下げられている。命の可否はこの男たちに委ねられている。
まだ宮中の毒のほうがマシだったのかもしれないと、笑ってしまう。
こんなところに自ら足を踏み入れたのかな(笑)
晴晴「まぁ、まずは俺が食ってからだ。品定めも大事な仕事の1つだ」
暗い部屋を照らす灯籠は今にも消えそうだ――。
灯りも貴重なものだったのか。本当に私は何も知らなかった。
晴晴という男の言葉を聞き、他の男たちは下がって行った。
そして目の前に現れた顔は、やっぱり――。
思わずおかしくなって笑った。
晴晴「何がおかしい」
白蕾「この世に同じ顔が2つ存在するのだと知ったので」
晴晴「宮中の大層な男に同じ顔があったのか(笑)その男に嫌気がさして逃げて来たのか(笑)」
白蕾「あなたはどうなんでしょうね?」
お互いがお互いを試し合う。
宮中の女が下庭にやって来て何をするのか分からない男。
自分の生死をどのように扱うか分からない女。
腹の底がわからぬもの同士。これ以上に怖いものは存在しない。
晴晴「宮中で男狩りは飽きて下庭までやって来たのか、可哀想な女だな」
白蕾「そうですね、漁りに来ました」
晴晴「腐りに来たのか?(笑)宮中の綺麗な男しか知らん女がこの街の男を知ってどうする」
白蕾「冥土の土産にでもしましょう(笑)」
この人に主導権を与えすぎてはいけない。
この男の前であたしはあたしであることを間違ってはいけない。
晴晴「――下庭の男は辞めておけ。病が移る、そして死ぬ」
煙草に火を付け、目の前にしゃがみ込んだ。
その言葉には諦めが混じり、深く煙草を吸う。
白蕾「あたしは今も死にそうだけど?……それにあの毒は薬があればね……」
晴晴「――治る病なのか」
火油を見ると笑い、薬の話を聞くと煙草を置いた。
白蕾「いえ、この世はまだ」
晴晴「まるで今後できるようないい振りだな。変な女だ」
白蕾「よく言われます」
晴晴「ちゃんと高値で売れる顔作ったか?」
白蕾「晴晴様ならおいくらで買ってくださいます?」
冗談めいたこの言葉に自信はない。
だけどそうするしかない。この男に合わせることが最善だ。
晴晴「ふっ。俺が女買う男に見えたか?」
白蕾「売りには出すけれど、買う必要ない、と?(笑)」
晴晴「宮中の女は肝が座っているようだな」
この男にはこれくらいが丁度いい。
変なおもちゃを見つけた男はそのおもちゃで遊んでくれる。
”「〇〇ちゃん〜!こっちこっち〜!」”
現代で早く大人にならなければいけなかったあたしが覚えたこと。
機嫌を取る。
男に媚びれば金のことは解決する。
ボスに媚びれば自分も強くなれる。
これは男と女が使い合う線。
消えれば次の駒を使う。
たとえ仮面にヒビが入ろうとも、自分がそこで仮面を被り続ければ振り落とされずに済むから――。




