静
宮中の者たちで月を楽しもうとする名目から始まった行事、秋月祭――。
後宮で生活する者たちが顔をあわせる年に数回の行事の1つだ。
特に皇太后様、華有様たち始め、
上級妃の貴妃、李珠江様。
淑妃、魏峰様。
徳妃、葉莹様。
賢妃、胡淼様。
皆競うように豪華に着飾っている。そこに皇后様の姿は無い――。
皇太后様「金鱗会」、華有様「綾彩会」の大きな派閥の中には李家は代々将軍家のため上級妃に選ばれ、李珠江様が貴妃。美貌も、知性も完璧な李珠江様。派手なピンク色や、赤の色が似合う。女性の中の女性である。権力集中しているこの派閥に勝てる派閥は無いと言っても過言ではない。
次に淑妃の魏峰様は派閥が勝手に出来上がってしまった人物だった。
魏峰様は静かな方。美貌はもちろん持ち合わせているが李珠江様とは正反対の女性。男性に勝るほどの男気のあるお妃様。常に冷静。
そんな姿に惚れた人たちが派閥として存在している。本人は特にそれさえも気にしていない様子だ。
その次は徳妃の葉莹様、賢妃の胡淼様は大きな勢力に抗うべく、派閥同士で同盟を組んでいる。葉莹様は北の地を治める上官の娘。
胡淼様は南の地を治める上官の娘。
その二人は後宮だけではなく華王朝をも支配したいと考えているのだろう――。
華王朝へ完全に味方である姿勢は示さない。華王朝が北と南から攻められないのはそれぞれの上官、地域のおかげである、華国が自分たちにとって不利益だと思えばいつでも守りの手を抜くことができる、攻めることもできる、と――。
それぞれ文化の全く違う二人がここまで関係が上手く行くとは誰も思わなかっただろう。
何をしても許される二人には分からないことが多すぎるのだろう。上官の父の命令をただ遂行する。
温花が入り込む隙間なんて無いのが現実。
下級妃は後宮改革のため祝街へと流れていたため、中級妃はもう中級妃ではなくなり下級妃と同じような扱いをされることになる。
国を動かすために華辉様は決断をして進もうとしてくれていた。が――。
誰も望んでいなかったような変化だった。
中級妃は上級妃の思うままに動くしか自分の立場や命、家族を守れない。それをわかった上で自分たちが派閥を決めている。
墓場と呼ばれる屋敷に入った温花の元に派閥から声がかかることはなかった。
温花を派閥に入れてしまうと皇太后様、華有様、李珠江様の派閥と真っ向から敵対することを他の派閥は恐れていた。
もうこのような派閥も関係なくなる――。
秋月祭で華辉様は綺麗な金の刺繍の入った布を掛けて足早に立ち去る。
これが他の女性たちにとってどのように移るのか――。
そんなこともどうでもいい。
「――温花様」
楽器や舞、お喋りで騒がしいこの空間に一人空を見上げてただ時間が流れていくのを待つ人がいた。
温花「今日はもう仕事終わったの?」
暖かく、重みのある黒と金の羽織に包まれた温花はこちらの顔を見ようともしない。
红京「はい。あとは片付けをするだけです」
温花「そう」
会話をする気がないのか、返事はそっけない。が――。
温花「――月が綺麗だね――」
この月の柔らかい光に照らされるこの人の顔はどんな顔をしているのか。わからない。
が、俺は――。
红京「はい。月はずっと綺麗ですよ」
この絞り出したこの言葉は、この人を止めたいと願うにはあまりにも小さく、夜の風に溶けていった――。
あの夜があの温かい花を攫ってしまったのか、月に帰ったのか。
もう遅かった――。
朝日がいつものように客家を温め、鳥たちが主人を待ち、整えられた部屋と、庭も自然が許され整備された状態のまま虫たちが舞う。
「墓場」と呼ばれた屋敷に、あの人の気配はない。
「红京――」
低い声がただ静かに屋敷に広がる。
红京「温花はどこですか――」
その問いに楊兎将軍は一度だけ大きな目を伏せた。
楊兎「行った」
红京「どこにですか?」
楊兎「自分の足で、行ったんだ」
大きな体を揺さぶる力も出ない。
红京「無事なんですね――」
もうそれだけでいい。そう思わなければここで立つことはできない気がした――。
鳥の囀りと、草木が風に流れていく音、冷たい空気。
この屋敷が不気味な姿をしていたはずなのに今は心地がいい。
温花が残していった風鈴が音を立てて、もう戻らない主人をそれでも呼び続けているようだった――。
ここまで呼んでくださった方、ありがとうございます。
やっと「温花後宮編」を書き終えることができました。
温花は現代から逃げ、後宮を経て、次の舞台は自分で生きることを選択することになりました。
墓場で自由に生きた温花が次の舞台でどのように変わっていくのか、次も章も話数が多なりますが一人の少女の物語を見届けてくださると嬉しいです。
「温花後宮編」も素人が流れに身を任せどんどん投稿してまとまりない部分あると思いますので、また改めて改稿できればと思います。




