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終わりと始まりの花【本編】  作者: はな
温花【後宮編】

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よかった


 陈莉ちぇんりぃ「……温花うぇんふぁお嬢様大丈夫ですか……?」

 温花うぇんふぁ陈莉ちぇんりぃに移したくないから。お月見の準備をお願いね」


 温花うぇんふぁお嬢様は私に指示を出せばその通りにしかできないことを知っている……。

 だから熱とは全く関係のない仕事を私に指示を出してくる。


 陈莉ちぇんりぃ红京ほんじん様はいつになったら温花うぇんふぁお嬢様の診察に来るの?!薬が必要だって言うのに!」


 華有ふぁよう様を優先しないといけないこと……わかってるけど!

 温花うぇんふぁお嬢様だって红京ほんじん様を待っているのに!


温花うぇんふぁ様はこちらですか」


 医学館の緑の衣を身に纏っている人物は見慣れた人では無く年老いた人物が屋敷の門に立っていた。

 温花お嬢様は红京様でない絶望感からなのか固まってしまった。


 温花うぇんふぁ「……お医者様ですか。医学館から遠い屋敷までありがとうございます」


 その言葉を聞いた年老いた医者は細い目を開けて温花うぇんふぁお嬢様を見た。


 温花うぇんふぁ「お医者、すいません。私は喉からくる風邪のようです、身体を温める薬を処方していただけると嬉しいです。移すといけませんので処方のみで大丈夫です。雨が続きます、お身体ご自愛ください」


 また温花うぇんふぁお嬢様の言葉を聞いてその医者は目を開けた。

 的確な判断と薬の指示を淡々とする温花うぇんふぁ様の姿に私も正直驚いた。


「……温花うぇんふぁお嬢様……わかりました。薬を届けます」




 墓場に来る妃は今まで何人も皇太后様に消されてきた。

 ――いや、私が消してきた。命だ。

 

 ――今までこのように私を気遣ってくれた妃がいただろうか……。

 診察に行くだけで喜んでくれた妃が居ただろうか?診察は仕事だ。当たり前であるはずだ。


 医者として病人を診察することは当たり前で――。

 いいや違う。この墓場にやってきた妃たちは皇太后様に刃向かった、本当の人であったのだ。

 温かさを捨てることができず冷たい屋敷に行かなければ行けなかったのだ。

 でも今は温花お嬢様がそこで暮らし、冷たいはずの小さく質素な屋敷が「温花」本当に温かい屋敷になっていた。

 私が歳をとったから気づけただけなのか。それとも時代が違ったからなのか。たまたまなのか。もうわからない。


 今までの墓場の妃と同じように命を受けてあそこに立っていた。

 でも私はもうそれができなかった。できなくなっていた。

 老いか、自らの命のために他人の命を奪う必要が無くなったからなのか――。


 それだけか?いや。あの子の目は心の中から思ってくれていた。

 出会ってしまった。忘れていた何かを思い出させてくれたのか。

 人の温かさが分からなくなって、自分自身も冷たくなりすぎた。


 最後の仕事はちゃんとしよう。

 今までの罪滅ぼし、か――。


 温花うぇんふぁお嬢様に頼まれた身体を温める薬を。


 温花うぇんふぁ陈莉ちぇんりぃ、この薬を飲みたいの。お茶をいただける?」


 侍女は私がどのような医者なのか察していた。

 わざわざ担当医でない私がここにくる意味を。

 必死にその薬を遠ざけようとしていた。


 陈莉ちぇんりぃ「温花お嬢様……!また後で飲みましょう……!」

 温花うぇんふぁ「お医者様の薬ですよ?」


 そう言って温花うぇんふぁお嬢様は私の薬を信じる、と。

 お医者様は人の命を奪う職業ではない――。

 命を繋ぐための職業だったはず――。


 温花うぇんふぁ「さすが長年の技ですか?とても身体が温まります!すぐに治りそうですね!苦味も少ない薬で、美味しかったです。ありがとございます」


 温花うぇんふぁ様は私に頭を下げた。ここ最近の妃にこのような者はいなかった――。

 目から自然と涙が流れてくる。


温花うぇんふぁお嬢様……!……红京ほんじんから話は聞いておりました……、変わった妃が居ると……。红京ほんじんも同じく風邪を引いております。これは红京ほんじんが作った薬です……私は何も……ただここに来ただけで……して」

 温花うぇんふぁ「……そう、红京ほんじんも……(笑)どちらが早く治すか勝負ですとお伝えください」


 その墓場のお嬢様は今までで1番柔らかい笑顔で笑った――。

 あ――。


「はいっ、红京ほんじんに、伝えます……!」

 温花うぇんふぁ「では、また」


 温花うぇんふぁお嬢様が「また」と手を振った医者はその日倒れた、と――。

 そして温花うぇんふぁ様の姿も見当たらない――。どこへ――?


 温花うぇんふぁ「――红京ほんじん、この勝負あたしの勝ちね」

 红京ほんじん「どうしてあなたがここへ?」

 温花うぇんふぁ「――林龙先生にお花を届けてきた帰りなの」


 温花うぇんふぁは俺の部屋の窓を叩くと、背伸びをしてこちらを見上げた。

 まだ雨が降りづくこの天気に傘を差し、少し強張った顔で笑っていた。

 

 温花うぇんふぁ「……でもよかった」

 红京ほんじん「人が亡くなっているんですよ?」

 温花うぇんふぁ「……だから……ね。最後に悪いことしなくてよかった……って……」

 红京ほんじん「悪いこと……?」

 温花うぇんふぁ「あの……目……本当はあたしを消す命があったんだと思う。でももうあの歳でそんなことして欲しくなくて……だから……」


 雨に消えていきそうな温花うぇんふぁは小さく震え始めた。


 红京「……ちょっと待ってください!また貴方は命を狙われていたんですか?!」

 温花うぇんふぁ「……红京が作ってくれた薬だとわかったから。私がいつも苦い薬を嫌がるから小さくしてくれるでしょ?(笑)」


 いや、あれは林龙りんろん先生が拘った技法だ。

 林龙りんろん先生の優しさが生んだ技法だ――。


 林龙りんろん先生は医学館の中でも博識で、優しくて、技術をたくさん持ったとんでもないお方が……。

 温花うぇんふぁ様の命を?……誰に命を受けるんだ……。

 どうしてまた温花うぇんふぁが狙われてしまうんだ。

 

 早く温花うぇんふぁも現世に戻ろうとしないんだ。もう守りきれない――。

 権力を持つ華有ふぁよう様からの信頼を得ることができれば友人である温花うぇんふぁ様のことを守れると思っていたのに――。


 林龙りんろん先生は老衰と言えば老衰だったのかもしれない。でもあまりに突然すぎる、と思っていたが――。

 最後に悪いことをしなくて済んだと温花うぇんふぁ様は言った――。

 林龙りんろん先生は命に逆らったとして消されたと言うのか?


 尊敬していた上司がまさか本当に人殺しをやっていたなんて――。

 自分が見抜けなかったことにも複雑な気持ちになった。

 温花うぇんふぁは遠回しに辞めさせてしまった……のだろう。それを温花を知る人たちは知っている――。


 林龙りんろん先生が最後人殺しをせずに行けたこと、温花うぇんふぁは安堵していたのか。


 红京ほんじん温花うぇんふぁ、ありがとう」

 温花うぇんふぁ「うん――」


 温花うぇんふぁはなぜか俯いている。


 红京ほんじん「どうしましたか?」

 温花うぇんふぁ红京ほんじん――」


 その言葉はまるで搾り出されたような言葉で――。

 名前を呼ぶにはあまりに甘い言葉で――。


 どうしたんだ――。

 俺は温花うぇんふぁに手を伸ばせない。

 

 医者として、後宮で温花うぇんふぁの立場を考えて。伸ばせない――。


 温花うぇんふぁはそれをわかっていたように「またね」と雨の中に消えていった。

 あの後ろ姿はまるで夢のようだった――。


 


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