翡翠の目をした少年
红京「息はある……」
医学館奥にある薬庫の奥は少し暗く、温花の体は冷たい。
夏場と言えどあの水路は山からの水を引いていてとても冷たい水路だった。
青ざめた肌は水の冷たさだけでなく、何か毒を盛られたに違いない。わかっていたはずなのに何で出されたものを飲んだんだ――。
「あー、君さー」
誰もいないと思っていた薬庫の棚の上に人がいた。見たことのない人物。それに後宮内の人物にも見えない。
この国、時代にしては珍しい短髪で、軽く独創的な衣に身を纏った少年は背に夕日を浴びながらニヤニヤとこちらを見ている。
まるで動物のように軽々と棚の上から降りてきた。
その少年の目を見る。
透き通っているのに、奥が読めない。まるで翡翠のような目は俺をじっと見る。
そして寝ている温花の横にするりと近寄る。
この人物はどのような立ち位置なのか、何を考えているのか、わからない。
温花の前に立つと何故か少年は嬉しそうだ。
「この人のこと好きなの?(笑)」
红京「そんなのではありません」
「じゃあ、なんで助けるの?(笑)妃だから?友人だから?それだけでここまで助けるの?(笑)」
红京「俺はそれだけの理由で充分です」
「ふーん。華珩もさ、バカだよねー。質のいい上級妃から選べばいいものを(笑)こんな普通の女の子をさー」
この人物は華珩様の一件の内容を知っている――?
红京「そうですね。普通の女の子を巻き込むのはよくないですね」
「お医者さんもさー、毎日上級妃見ることできていい仕事だよねー(笑)宦官の制度を緩くしてる意味わかんないもんー(笑)」
声は軽やかだがどこか芯を感じる――。
ここは冷静に話をするべき相手だ。
红京「陛下のお妃様に手を出そうなんて思うのは死に急いでるとしか思えません、ね」
「じゃあ、なんでお医者さんは口付けしたの?」
红京「呼吸法ご存知ないですか?」
「じゃあ、どうして途中で辞めたの?」
红京「辞めていませんよ?」
「最後さ〜、この子寝てるだけだって分かったんでしょ?違う?(笑)兄弟揃って趣味悪いよなー。下級妃なんて」
红京「人それぞれなので否定することではないかと」
「で、なんでお医者さん……红京はこの温花を後宮にいれたの?この人が来てから後宮の縮小されて、祝街なんかできて区別されるようになって。皇太后様は頭がいいからそれもうまく利用しているようだけど(笑)華有様はこの妃で遊んでいるとしか思えないけど。それに後宮になんか入宮させなければこの子と上手く過ごせたんじゃないの?(笑)」
红京「入宮することは温花様が望んだことなので」
ずっとニヤニヤと笑っている。
華珩様があの森に行くことを華有様が知っていたとしたら?
温花が涼みに行っていることを知っていたら?
わざと出会うように仕向けた――とか――。
この男は色々詳しいようだ。
俺の名前も、温花の名前も。華珩様、華有様、皇太后様のことを詳しく知っている様子だった。
誰の味方なんだ?
華族のことを馬鹿にしているのであれば、華有様の手下でもなさそうだ――。
何も分からない――。
この恐怖はなんだ――。
あ――。
妃たちにとって温花もこのような存在だったんだ。
頭で分かっていたつもりだったが、体感してみるとこんな感じなのんか――。
無闇にこちらの情報を流さないほうがいいだろう。そうして口を閉じることにした。
「ねえ?答えてよ?红京の推薦で温花は入ったんでしょ?表向きは身売りされたことにしてるみたいだけど(笑)なんで?(笑)……どこで温花に出会ったの?なんでそんなに仲良いの?二人の秘密とかあるの?やっぱり(笑)」
红京「病人がいますので静かにしてもらえますか」
少年の質問は止まらなかった。
分かっているが理解できていないとここまで好奇心が勝ってしまうのか。
俺は黙って処置を続けた。
「あー、真面目だよね!手順追ってさ、さすが医者って感じ!」
温花の横にスルッと行くと口の中に瓶を突っ込んだ。
红京「何をしてるんですか?!」
「丁寧すぎるからさ、こーゆーのは強引にいかないと!ね?!」
温花はむせてゲホゲホと吐き始めた。
红京「何を飲ませたんですか?!」
「ん?つよーい酒!これででるっしょ!飲み込んだもの(笑)」
あ……そうか……華有様の屋敷で何を飲ませられているのかわからない。
それなら吐き出させたほうが……が、それをするのは狂気の沙汰に見えた。あまりのスピード感というか大雑把なことに驚きを隠せない。
解毒薬を飲ませることで頭がいっぱいになっていた自分はまだまだ医者見習いであることを突きつけられた。
温花「……っ!」
红京「温花っ!」
温花「……疲れた……ぁ……」
温花は吐き出してしまうと、ぐったりとした様子で身体が動かない様子だった。
「起きたー?温花!」
温花「……あ……谢琦……?」
温花の目は虚ろで力なく話す。
谢琦と呼ぶ少年と温花は知り合いのようだった。敵が味方か考えるだけでも頭が焼きつきそうなのにこの花はどこまでも俺の想像を越えてくる――。




