涼しさ
北の地は避暑地と呼ばれるだけあって夜の風は冷たい。
昨日の夜は红京と真っ暗な道を走って。怒っていた。
でも红京は笑っていた。
こんな不器用で感情も、考えも理解不能な自分の脳内も理解できない。笑うしかないよね。
それにどうしよう――。
家族に愛されたなんて红京の口から聞いてないのに、红京のこと勝手に決めつけてしまって、もし違っていたら。
自分の言葉が自分の不安にさせる。
あたしは喋らない方がいい。
楊兎将軍は本当に一人にしてしまって大丈夫だったのか……。
もう脳内は大反省大会で次の日のこと、追われたことを考える余裕が無かった。
自分の余裕のなさを自分が作っていて、さらに自分が嫌になる。
侍女の仕事もたくさん抱えているのに個人的なことを引っ張ってる場合じゃない。
分かってるのに。
冷たい水で何回も顔を洗ってもどうしても、今日はうまく仮面をかぶることができない。
華辉「温花どうしたんだ?そんな暗い顔をして」
温花「すいません、少し悩み事が。でも大丈夫です。仕事に集中しますので」
この風を感じながら故郷の近い楊兎将軍は何を思っているのだろう。
心配されるのももしかしたら嫌なのかもしれない。
何を経験をすれば楊兎将軍のように笑顔で吹き飛ばせてしまうんだろう。
華辉「なんだ言ってみろ」
温花「……楊兎将軍がここにくること本当は辛かったのでは無いかと……」
華辉「なぜ?」
なぜ?……なぜって……。
陛下はそのような考えに行きつかない人なのかな……。
自分の感覚とは違うことに驚きを隠せなかった。
温花「えっと……」
なんと言えば華辉様に棘がないように伝えられるのか……。
言葉に詰まるあたしを見て不思議そうにしていた。
温花「あの……楊兎将軍の故郷が近この辺と聞いたので……寂しい気持ちになっていないかと……心配に……」
華辉「……そうか、温花は楊兎のこと知っていたのか。温花が悲観することはないだろう?」
温花「分かってます……いるんですが……楊兎将軍は強くならざるを得なかった人物なのでしょう……?……楊兎将軍はいつ休まれているのか、と……」
華辉「ん?楊兎には休暇があるぞ?」
温花「でも……楊兎将軍だって誰かに縋りつきたくなるときがあったはずです……だけど一人でここまできて……えっと……えっ……と……」
華辉「将軍という立場もある。妃の前で涙を流すような失態はしないはずだろう、大丈夫だ」
温花「……そうではなくてっ!……楊兎将軍だって泣いていいんです!頼っていいんです!妃と将軍という立場ではなく、あたしたちは友達だから!」
侍女として部屋の掃除に入っていた温花は怒って部屋を出て行ってしまった。
なんだ?将軍なのだから当たり前だろう?
温花に弱さを見せるなどあるはずがない。嫁にとったわけでもないだろう?
温花が悲観する理由はわからない――。
楊兎「なんだ?華辉、なんか変なことでも言ったのか?温花走ってどっか行っちまったぞ?」
華辉「いや……わからない。悲観することではないと伝えただけだ。楊兎、温花を付けていた人物は見つかったか?」
楊兎「もちろん!あのあと捕まえた!狙ってた理由はやっぱ街じゃ目立つんだよなー、この国っぽくない雰囲気というかさー!身売りしようとしてたみたいだ!」
華辉「……温花を街への外出は禁止だ。それで温花は何をしていたんだ?」
楊兎「皿を買おうとしていた」
華辉「皿……それくらい渡す、温花に伝えておいてくれるか」
楊兎「買い物を楽しみたかったんだと思うけど」
華辉「買い物で捕まるよりいいだろう?」
華辉の気持ちも理解はできる――。
でも華辉の気持ちは一方通行でそれ以外を受け付けないように感じてしまうときがある。
楊兎「悲観するなって温花に言ったこと、温花は悲しんでたんだろ?温花は温花で考えてたことがあったんじゃねーの?」
華辉「でもそんなことする必要ないだろう?」
楊兎「だーかーらー!温花はもう悲しんじゃってるから手遅れなんだろ?じゃ、慰めるしかねーだろ?」
華辉「……俺は慰めたつもりだったが」
楊兎「……そっかぁー」
華辉「なんだ?俺の考えが間違ってると言うのか?」
楊兎「いや別に華辉の考えてることも間違いじゃなくてさ、温花とは考え方違うから擦り合わせるしかねーのかなって」
華辉「温花が必要ない思考を止めれば、救われると俺は思ったんだが……」
華辉はこの会話を終えると考え込み始めた。
今までは「間違ってないだろう?」そうだ、それは正論だった。
だが、その正論のはずだった言葉で、温花を救えなかった。
温花という人物を通じて考え込む華辉を見て、俺はこの男が立ち止まり考えるという選択を、覚え始めたのだと――。




