難しい話
红京「温花お嬢様。朝の診察に参りました――」
楊兎将軍の計らいもあり、温花お嬢様も他のお妃様たちと同様に健康管理をしてもらえるようになって侍女の私としてとてもありがたいことだった――。
温花「……お、おはよう、红京」
毎朝の診察に目を回し、顔を赤くする。
温花お嬢様は診察の時間に向けて念入りに着飾る。
红京様は特に変わった様子はなく、温花お嬢様のことに気がついていない……?
女性として红京様から何か贈り物をされるわけではない。
ただこの時間が楽しみでたまらないのだろう。
もしこれが男女の逢引きだと誰かに知られてしまえば、二人の命だって危ない。
それでも止められないのだろう。
红京「そんなに走らないでください!転びますよ?」
温花「红京、あのね!――」
温花お嬢様はお気に入りの客家のところで红京様と餌をやる。
苦い薬が温花お嬢様にはとっておきの「元気薬」となっている。
红京様は医学館の仕事、楊兎将軍に頼まれたことをやっているだけなのか、本心が全くわからない。
お嬢様も分かっているのか、红京様が帰るとため息ばかりをつく。
温花「――陈莉……今までのは見なかったことにして……明日はちゃんとするから」
力なく温花お嬢様はそう言うと机に伏せてしまった。私が気がついてしまうほど隠せないことわかっているのか、明日はちゃんとする――と。
どんな方法で隠すおつもりなのか――。
温花「――红京、今日は難しい話しよう?」
红京「難しい話ですか?例えば?」
温花「……えっと……なんで後宮は争い事が多いのか……とか……?」
红京「それは後宮という狭い空間に人が多いからではないでしょうか?問題が見えやすいと言いますか……」
温花お嬢様の診察を進めつつ、红京様はその難しい話を始めた。
红京「そもそもなんですが、後宮に女性が多すぎると思っています。私利私欲のために民のお金を注ぎ込むお嬢様も、その家族もいます。皇帝は1人なので人数を絞って、他国の勢力に対抗できる軍力を上げるべきです。軍力と言っても、武器や兵隊だけではなく、国民の力をつけるために国民の豊かな暮らしを作るべきだと俺は思います」
温花「な、なるほど……」
红京「……温花様を守るためにも、軽率な行動は控えてください」
温花「わ、わかった……!ちょっと部屋に忘れ物したから……红京今日も診察ありがとう……!」
急足で温花様は红京様からの言葉に気持ちを隠すことが出来なくなったのか、自分の部屋に逃げ込んでしまった。
入れ替わるように楊兎将軍は屋敷の中に入り、红京様の言葉について話し始めた。
楊兎「红京の言う通りだなー。華辉が年頃だとしても無理がある数だもんなー。温花が狙われる確率を少しでも減らせるのなら、華辉も進んでするんじゃねー?(笑)」
红京「……国を変えてしまえるほどの人が、なぜ温花様を傷つけてしまったのですか……後宮だからと言われてしまえばそれまでですが……」
楊兎「華辉もまた被害者なんだ。愛を与えてもらったことがない人間が、愛の渡し方を知っていると思うか?知らないから物で釣ろうとするし、できなければ、されてきたことしかできない。それが当たり前だと思っているから。でも温花は違ったんだ。愛の渡し方を知っていたんだろ。それが華辉は悔しかったんだろう、欲しくてたまらなかったんだろうなー」
楊兎将軍は高い空を見る姿を俺は横で見る。
確かにそうかもしれない。
温花様に特別な気持ちを抱くのも、自分のものにしてしまいたいと空回ってしまったのも、自分とは違う良さを持っていたから皇帝陛下は興味を持つのだろう。
そして幼い時からずっと一緒に過ごしてきた楊兎将軍が皇帝陛下のことを「愛を与えてもらったことのない人」と言うことは、その可能性が事実なのだろう。
红京「楊兎様……」
楊兎「間違えてしまった華辉は本気で温花を守りに行くだろう」
红京「皇后様それを許すでしょうか」
楊兎「皇后様だけじゃねーな。皇太后様もそれを許さないだろうな」
皇后様は皇太后様から推薦されて決まっている。
皇后様を蔑ろにするなんて許されるはずがなく、嫉妬に狂うことは簡単に想像できる。
皇太后様が皇后様を推薦したのは綺麗という理由だけでは無い。教養、才能、容姿、家柄全てを兼ね備えた人が皇后様だ。
対して温花は皇太后様の知らない田舎者の女。
皇后様ではなく墓場の変人と呼ばれる妃に世継ぎが生まれてしまい、皇帝のお気に入りだと知れば、推薦をした皇太后様の威厳も無くなってしまう――。
红京「楊兎将軍にはお伝えしたいことが……温花様は月ものも止まっているようです……お腹の様子からまだ断定はできませんが、可能性の可否については判断できません」
楊兎「それ、華辉には言わないほうがいいかなー……あっちのほうもかなりダメージ食らってる」
红京「加害者は陛下なのでしょう。よほどのことがあったから温花は落ち込んでしまったのでしょうから……。すいません、楊兎将軍の前で言うことでは無かったです」
红京は下唇を噛んでいる。
温花は子を宿すようなことを覚えていないだけなのか、それともそんな事実がないのか、その事実を隠したいのか――。
月の巡りが乱れるということは、そういう可能性を含んでいる――。
だが、それを口に出すには、あまりにも重すぎる。
楊兎「でもそれ本当のことじゃん。今回は華辉が加害者それで間違いない」
红京「……陛下のことをそんな風に言ってしまってよいのですか?」
楊兎「親友だからだなー。間違えは正さないと。それにしてもどうすれば守れるかなーって。全然わっかんねーんだよな」
楊兎将軍との帰り道は空気が重い。
本来なら手を挙げて喜ぶべきことなのに誰もが悩まなければことになるなんて――。
この世の医術で、今の段階では早すぎてわからなかった――。




