水辺
墓場と呼ばれる屋敷のすぐ隣は宮中の中に唯一森が存在する。
大きな動物は外の高い外壁があるため入ってくることがないため、温花の好きそうな鳥が多い。
薬草を取りつつ進むと、鳥の囀りが耳に入ってくる。ここへ来たくなる理由もわかる。
宮中は今のままでも十分な大きさがあり、これ以上規模を拡大する必要がなくなってしまい開拓はされず、そのまま放置されている場所なのだろう。
この大きな宮中、屋敷がある場所も元々は森だった場所なのだろう。
あれだけ整備され、華やかな宮中を作ることができるのはそれだけ国の力が強い象徴でもある。
〜♪
太陽の光がこぼれ落ちる水辺から誰かの歌っている声が聞こえてくる。
そこにいるのは誰か分かっている。
また陈莉に心配をかけて。少しため息がこぼれる。
もう少し妃らしくするべきだと話をしなくては――。
木を掻き分け進むその先は楽しそうな歌声が咲く――。
その水辺で靴を脱ぎ捨て、森の小動物に囲まれ、穏やかに笑う――。
红京「温花……」
お転婆で誰も手につけられないお転婆の妃。変人と呼ばれる妃は。
この世界そのもの温花という花をそっと抱きしめているように温かい。
その様子に思わず、名前を呟いた。
妃と呼ばれる女性は袖が落ちないように上品に振るのだが……温花はこちらに気が付いてようで大きく手を振る。
温花「あっ!红京っ!」
その瞬間、温花は大きな水飛沫をあげ、驚いた鳥たちは飛び立っていく。
持っていた本、籠を投げ捨てて走る――。
红京「温花!」
急いで池の中から引っ張り出そうとすると、衣が水を吸ってうまく起き上がれない。
手だけでは上手く引っ張り出せないと思い、体ごと温花を抱き上げ、温花はフラついて胸に突撃してくる。
红京「どうして危ないことをするんですか?」
温花「だって……」
红京「水の流れのない池では菌が溜まることもあります」
温花「……ここの水は綺麗だし……大丈夫でしょ?」
红京「ダメです。感染症になってしまうかもしれないんですよ」
陈莉に浴の準備をお願いしていて良かった。
春でもまだ水の中は冷たい。体を冷やすと良くない。それに温花が真っ直ぐ屋敷に帰ってくれる確証もない。
手っ取り早い方法で行くか――。
二人の髪と衣からはポタポタと同じ場所に水が落ちていく――。
红京「それで、駒は見つかったんですか?」
温花「……えっと……石とどんぐりと……」
花の刺繍が入った袋の中には綺麗な石と、どんぐりと、鮮やかな色を付けた木の実。
红京「……小学生男児じゃないんですから」
温花「もっ……!红京だって草集めてるじゃん!」
红京「これは薬になるので、温花の双六の駒と一緒にされては困ります」
温花「あ〜っ……薬草ついでに探しに来たの?!」
――楊兎将軍と2人お茶を飲みながら2人の帰りを待っていた。
楊兎「おー!帰ってきた!帰ってきた!」
目線の先にはずぶ濡れの温花お嬢様を抱き抱える红京様――。
2人は何やら言い争いをしているようで。
1人の顔は真っ赤で、1人は目を細めて仕方なさそうだ。
陈莉「温花お嬢様っ!大丈夫ですか?!」
温花「だっ、大丈夫な、わけないでしょっ?!」
と、顔を真っ赤にしたまま必死に返事をした。
温花「お、お、おろしてっ!」
红京「あ、はい。早く清潔にしてきてください」
温花「人を汚いみたいにっ……!」
红京様の腕から下ろされた温花様は力が入らないのかそのまま座りこんで、顔をうつ伏せてしまった。
陈莉「……だ、大丈夫ですか?!」
温花「だから……大丈夫じゃない……って……」
息が苦しいのか、足が痛いのか、それとも――。
红京「……これが恥ずかしいと思う前にもっと恥ずかしいことあったはずです」
温花「……っ!红京のバカっ!」
急に立ち上がった温花お嬢様は力を振り絞って湯殿のほうに走って行ってしまった。
楊兎「……何があったんだ?(笑)」
红京「足を滑らせて水の中に落ちたんです……本当にあの人は忙しそうですね」
红京衣の水を絞って、濡れてしまった本を乾かそうとページを開き乾かし、籠の中の薬草の淡々と整理を始めてしまう。
いつだって冷静な红京はよく感情が見えない――。




