増えた友人
この屋敷の春はとても過ごしやすい。
地面には緑が生い茂り、高く伸びた木は陰を作り葉の揺れる音が心地よい。
楊兎将軍は温花様のことを気にかけているのか、皇帝陛下からの指示なのかこの屋敷に行くことが増えた。
奥の屋敷に賑やかな声が響く――。
楊兎「ひゃー!温花!(うぇんふぁ)そこはこっちだろう!」
温花「楊兎!今度はあたしの勝ちね!」
楊兎将軍と温花様は自分たちが作った双六で遊ぶことにハマっている様子だった。
そんな2人はいつも楽しそうで。
こんな家族があれば子供たちは幸せだろう。
そんなことが想像できる。
輝く銀色の髪、黄金の目を持つ人物と温花は友人になったのだ。
あれから楊兎将軍からの推薦で俺が温花お嬢様の健康観察へ来ることを許可された。
名簿から消されていたのは何かの手違いだったのか――?
红京「楊兎将軍、1つ教えてほしいことがあるのですが」
楊兎「なんだ?」
この人はいつも何か食べている。
今日は木の上に登って獲った木の実を口の奥でゴリゴリと音をたて食べている。
それは食べられるものなのか、美味しいのか淡々と食べ続ける顔を見る俺たちには分からない。
红京「……どうして温花様は下級妃から名簿漏れがあったのでしょうか?」
楊兎「あ〜、それ華辉がさ温花を妻にしろって言ってた期間だろ?(笑)」
红京「はいっ……?」
楊兎「あ、红京に言ってなかったかな〜(笑)だけど、温花は華辉のお気に入りだろ?その話無くなった!(笑)」
红京「……どうしてそのような話に……いえ、それを楊兎将軍が話せる内容ではないですね。すいません」
楊兎「華辉も悩んでるんだろ、あの変人ちゃんの扱いに(笑)」
その楊兎将軍の目線の先には客家に腰掛け、嬉しそうに森を眺める温花が腰掛けている。
その手の先には色とりどりの野鳥たちが温花から餌を受け取っている。
温花「红京!見て、小鳥が友達をたくさん連れて来てくれるようになったの!」
温花が後宮に来て想像していたビジョンを叶えてしまっている。
ここへ来て一月ほどしか立っていないのに。
小鳥たちだけでなく、あの将軍、あの皇帝が懐いてしまっているのだから。
この人が変人ちゃんと揶揄われてしまうのも理解できる。
红京「本当に夢を叶えてしまったんですね」
温花「そうっ!红京も餌やってみる?」
红京「いいんですか?」
温花「うんっ。红京あのね、この子は红京って名前がついてるの(笑)」
红京「人の名前を勝手に……」
温花「だって少し目が鋭いの(笑)このくるっとした髪の毛も红京にそっくり。あと、緑の羽も!」
红京「……鳥に髪の毛はありませんよ。まぁ……なるほどですね」
この人のスピード感、運、持っている力がそれを叶えたのだろう。
红京「温花に似た鳥はいないんですか?」
温花「あたしは温かい花なんでしょう?(笑)」
红京「そうでしたね(笑)」
楊兎「なぁ、陈莉――」
楊兎将軍は温花お嬢様と红京様を見て何か言いたげだった。
二人で過ごす温かい空気感を私と楊兎二人は感じ取っている。
でも――それを口にしては行けないこと、宮中に居続けた私たちにはタブーであることを理解している。
陈莉「……楊兎様。温花お嬢様がなぜあのとき医学館を頼らなかったのか、今ならわかります……。頼れなかったのでしょう。あの方にボロボロの姿を見せたく無かったのでしょう。どうして私は嬢様の気持ちを分かってあげられなかったのでしょう……」
温花お嬢様は1人、客家で鳥と花と戯れたかったのではない。
ありのままの自分でいる場所が欲しかったのだろう。その場所があの人の側だった、と。
红京「陈莉、主人は双六の駒になりそうなものを探しに森へ行ってしまいました……」
陈莉「えっ……!」
楊兎「はっはっはっ!こんな元気な花ってあるんだな!(笑)」
楊兎将軍は豪快に笑う。
红京様も少し呆れて、どこか嬉しそうに笑っている。
红京「目を離せば木に登る将軍と、森へ狩りに出かける妃……。皇帝陛下は頭が痛いでしょうね……陈莉、温花様を連れ戻すついでに薬草も取ってきます」
陈莉「それでは私も!」
红京「きっと泥まみれで帰って来ますので、浴の準備をお願いできますか?」
陈莉「あ……。はいっ。それではよろしくお願いします」
楊兎「よーしっ!鍛錬ついでに薪割りするぞー!任せろー!」
红京様は温花お嬢様のことを理解しているのか、次のことまで考えている。
温花様とは真逆の思考方の人間。
楊兎将軍は豪快に薪割りを始めてくれた。
いつも温花お嬢様と悲鳴をあげながら薪を割っていたのでとても助かる。
緑の衣の红京様は大きな本を持ち、籠を背負って森の中に入っていってしまった――。




