診察
あの声は墓場と呼ばれる屋敷には優しすぎる。
楊兎将軍は誇らしそうに红京様を前に押し出した。
红京「――温花お嬢様はどこですか?」
楊兎「红京、診察お願い〜」
红京「はい」
楊兎「……红京は見習いだけど腕は確かだ。医学館のじーちゃんたちは他のお嬢さんたちに言ってしまうかもだし。信頼できる红京ならと思ってさー!」
陈莉「あ、ありがとうございます!すぐお嬢様にお知らせして来ます!」
楊兎将軍が医者の红京様を連れて来てくれた!
きっと温花お嬢様は喜んでくださる!
元気になるため診察を受けることができる!
部屋に入ると温花お嬢様は誰か来たことを察していたのか着替え始めていた。
陈莉「お嬢様、動けますか」
温花「陈莉誰が来たの?そろそろ屋敷を追い出されるときかな〜(笑)ごめんね、最後まで一緒にいれなくて」
陈莉「違います!楊兎将軍と医学館の红京様が来てくださったんです!これでお嬢様の病も治ります!」
温花「え……――。あ、追い出されるんじゃないの……?(笑)」
陈莉「はい!助けてもらえます!」
温花「陈莉、ごめんね。お断りして」
二人が来てくださったこと喜んでくれると思ったのに。どうして?
冷たく言ってお嬢様はまた横になった。
陈莉「どうしてですか?!これ以上お嬢様が弱っていくのは見ていれません!」
温花「陈莉お願い。こんな格好見せられないでしょ?あたしが悪いだけだから」
診察を待つ楊兎将軍と红京様は隣に温花お嬢様がいないことに目を合わせていた。
楊兎「断られたのか?!」
陈莉「はい……お嬢様は、私が医学館に飛び入ったときも連れ戻されてしまって……どうしてでしょうか」
楊兎「どうするのがいいんだろうな〜ん〜」
陈莉「このままではお嬢様……食事もほとんど食べず、体調が悪いようで……」
红京「……まさか――」
その红京様は予想を初めて黙り込んでしまった。
”温花は懐妊していることを隠したいのか――?
正八品が懐妊となると他の妃たちが黙っているはずがない。
それに皇后様は、まだ女子しかいない。
もし温花が皇帝の隠しておいたお気に入りで、男子を懐妊となるとかなり後宮内で嵐が起こることになってしまう。”
红京「温花様!入ります!」
红京様は自分の顔をパンパンと叩いて覚悟を決めたのか、温花の許可なく部屋の中に向かう。
陈莉「勝手に入られては困ります……!」
红京「温花様を助けたいんだ?見捨てたんだ?どっちなんですか?」
红京様の言葉は真っ直ぐで、正論だ。
温花お嬢様は横になったままだった。
楊兎「红京の診察が終わるまで、お前も休憩しとくんだぞ〜?一人で大変だったよな〜」
陈莉「楊兎将軍様……先ほどは悲しい人なんて言ってしまってすいません……ありがとうございます」
楊兎将軍は空が見える場所に腰掛け、太陽に笑う。
私はこの人のように余裕がない。笑って待つことができるなんて、あの红京様を信頼しているのだろう。
この楊兎将軍が言うのなら私も力を抜いていいのかもしれない。
気が抜けてしまったのかその場に座り込んでしまった。
――。
温花の部屋には墓場と呼ばれる屋敷の想像とは異なる後宮な家具が並べられていた。
送られたのは桜の木だけではなかったのか。それだけ皇帝陛下に寵愛されていることをこの部屋を見れば分かる。
医学館に皇帝陛下と並んで現れたことに驚きを隠せなかったが、それが事実である。
寝台の布もきめの細かい――。
あ、これは現代から持って来たものだな。
红京「温花様、起きてください。……温花」
温花はしばらく風呂にも入れいていないのか髪の毛は乱れ、天真爛漫の姿は見えない。
まるでそこにいることだけを選んでしまった人だ。
温花「红京……?夢?」
红京「墓場の桜の木、見て来ました。客家の縁で鳥を待つのでしょう?」
温花「もうそれはしたの……もういい」
红京「ではなんでこんなところにいるんですか。もうここに温花がここにいる理由はないでしょう」
ここにいる理由はもうない?
あたしはこの華国に逃げてきた。それはあたしがここにいる理由だった。だけど今は――。
温花「红京は向こうに帰りたくないの?……一人だけ帰るのなんて後味悪いじゃん……」
红京「何を言っているんですか……俺だけでも見つけられるかもしれないじゃないですか」
温花「それならあたしは红京が帰れる方法見つけたい」
温花は気力がないのか強く言い放つような言葉しか出せない。
红京「温花様はなぜ逃げなかったんですか……。帰れたはずですよね」
温花「こっちに戻って来ないことが怖くなったの」
红京「……あなたはいつでも戻って来るそんな自信があったから……温花は簡単に行き来ができたのだと思っています。俺はその自信がないから戻れないんだと思います」
温花「じゃあ、ここにいる!」
温花は勢いよく起き上がった。
髪の毛は寝癖で爆発していて、ずっと眠っていたからなのか半目で、脳貧血を起こしているようで視点が合わない。
红京「どうしてそんなにわがままなんですか!?こちらに居たいのなら診察を受けてください!自分が今どんな状態で、陈莉さんにどれだけ心配させているのかわかっていますか?!」
温花を叱ると、フラフラと体の向きを変えた。
温花「……ごめんなさい……。红京、怒ってくれてありがとう。1時間待ってもらえますか?こんな状態で人に会うなんて」
红京「分かっているのならよかったです。待ちます。陈莉さんお呼びしますか」
温花「陈莉は休ませて。大丈夫、支度くらい自分でできる。楊兎将軍にもお詫びを」
温花はやっと寝床から起き上がって果実を一口食べ、準備を始める。
屋敷の広く、庭を見渡せる部屋にやってくる温花は扇子で顔を隠し、本当に後宮にいるお嬢様そのものだった。
きっと顔色の悪さを隠そうと化粧をしていて、それでも隠しきれなかったのだろう。
温花「楊兎将軍様、温花です。お待たせしてしまい、大変申し訳ございません」
楊兎「いいのー、いいのー。俺ここでずっと煎餅と果物食べてるだけだから!」
楊兎将軍は大きな体と綺麗な顔立ちは引き締まった印象。
将軍って呼ばれる人はもっと怖くて、男臭くて。そんな人物像を勝手に作り上げていたから、明るい喋り方をしていて驚いた。
楊兎「红京の診察受ける気になったみたいでよかったー!红京、終わったら教えてー!陈莉の作るせんべいがおいしいから俺食べて待ってる!」
陈莉「これはお嬢様が教えてくれた菓子なんです!残った米を焼いて――」
あたしの知らないところで陈莉と楊兎将軍は仲良くなってしまっていた。
红京「それでは診察していきます」
温花「はい」
温花お嬢様がこんなにも素直に診察を受けてくれるなんて。
红京「――診察ありがとうございました。とにかく貧血なのは間違い無いでしょう。薬あるので、これを」
红京様か取り出した薬袋には見覚えがあった。
陈莉「お嬢様の元気薬!貧血の薬だったんですか?!」
温花「だって」
红京「だってじゃありません。医学館も忙しくなるし、皇太后様から目をつけられて温花様は消されてしまったとこちらは考えましたし」
温花「だって……」
红京「少しは俺のいうことも聞いてくださいよ、お願いですから」
温花「はい……」
红京「食事、散歩。陈莉に心配をかけすぎないこと」
楊兎「温花、懐妊じゃなかったか?!」
楊兎将軍の元気な言葉は屋敷の向こう側まで響いた。
温花「えっ……?まさか妊娠したって思われてたの?!そんなわけないですよ!陛下とそのような関係にないですし、それにあたしはここに来てまだ半月ですよ?陛下とお会いしたのはここ最近で……悪阻ってそんなに早いの?!」
红京「あ……」
红京は持っていた薬袋を机に落とした。
温花「红京までまさかそんな風に思ってたってこと?!(笑)」
红京「……はい……完全に視界が狭くなっていました……すいません……」
温花「ふっ(笑)红京も完璧じゃなってわかってちょっと嬉しい(笑)」
红京「温花は年上なのでもっとしっかりしてほしいですけど、ね!」
温花「え〜っ、あたししっかりしてるほうだと思うんだけどな〜」
红京「しっかりしている人は侍女にここまで心配かけませんし、だって、なんて言いませんよ!」
温花お嬢様と红京様。このお二人にしか出せないこの空気はなんだろう。
見ていて微笑ましく見える。
しばらく2人が言い争った後、温花お嬢様は姿勢を正し、楊兎将軍を真っ直ぐ見つめた。
温花「楊兎将軍、ご心配おかけしました。温花はそのようなことに身に覚えがないため、期待に沿う状態ではないと思います。楊兎将軍様、红京、今日はありがとうございました。そして陈莉今まで心配かけてごめんね」
陈莉「とんでもございません!」
主人の久しぶりの笑顔をみた侍女陈莉は涙を流して喜んでいた――。




