医者
皇帝陛下と居ることがこの国で1番幸せになれると思っていた。
思考と想像は現実と違う。
温花は俺との親しい関係を悟られぬよう――。
皇帝陛下から引っ張られるまま一度も振り返ること無く進んで行った。
俺も軽率に話を進めてしまった。
温花だけが悪いわけではない。
ただ温花はそこにいただけだ。
痛みを受けるべきなのは俺もだったはずだ――。
「红京、あの男装の人物と親しいのか」
ここで、頷けば温花が振り向かずに行った意味がなくなる。
红京「いえ、この屋敷の草も薬草になるのか問われたのです――」
この簡単な嘘で温花が無事であるように願うしかできない。
今日も月の光に照らされて本を開く。
その中には温花からの手紙を隠していた。これを渡すために医学館まで来たのか?
手紙は紙にかなり力を込めていたのか手の押さえつけられた跡が残っていて、字は大きさがバラバラだ。筆に慣れていないのだろう――(笑)
これでよく張宏様は入宮させてくれたな。
「红京へ。最近、屋敷がとても綺麗になりました。墓場にある桜の木の幹と根ががとても綺麗です。来年の春が楽しみです。今の生活は見せた画像の中身のようです。とても幸せです。红京も红京の幸せのために生きてください( ◠‿◠ )温花」
中身があるようでない手紙の内容にの最後に顔文字( ◠‿◠ )を付けており温花らしさがでている。
あの画像のように穏やかな妃として過ごせているのか……。
自分のために幸せに。
それは温花自身への願いにも聞こえた。そうしたいから、俺にもそうするべきだ、と。
温花は自分のためにこの世界で生きている。
俺もこの世界で、医学館で学び、尊敬する人を助けたい。それがいま最大できる自分への道だ――。
陈莉「お助けください!……どうかお助けください!」
医学館に1人の侍女が血相を変えて大きな声で助けを求めた。
「誰だ?」「見ない侍女だな」「下級の妃の侍女だろう」「今は薬を作るのに忙しい」医学館は常に忙しい。
健康観察の巡回以外で下級妃に構う時間はない。
この侍女は温花の――。
红京「どうしたんですか……?」
陈莉「どうかお助けを……!温花お嬢様が……。温花お嬢様が……!」
红京「何があったんですか……」
陈莉「助けてください……」
侍女は取り乱した様子で会話が成り立たない。
よほどのことがあったのだろう。
温花「陈莉!いたっ!もう!屋敷へ戻ってよ!」
そう言って急いでやってきた温花様の顔は真っ青で、目は充血していた。
でもいつもの笑顔を貼り付けていて――。
陈莉「温花お嬢様……っ!でも……!でも……」
温花「陈莉……お願い。本当にお願い……」
温花は余裕がなさそうに笑う。
陈莉「はい……わかりました……――」
温花「帰ってお茶しよう?」
よく見ると着ていた服はチグハグで、どれだけ急いでここに来たのかがわかる。
何があった?!皇帝陛下に守られているのではないのか?
他の妃から何かされたのか?いや……まさか温花は――。
――。
華辉「温花は後宮にはいない。冷宮に入れるんだ」
俺の屋敷で華辉はまだ項垂れている。
楊兎「……華辉〜。温花は俺の嫁になるか、変人ちゃんを昇進させるんじゃなかったのか?冷宮になんて……苦しめるだけではなく、華辉自身も追い込むことになるぞ?もう立ち直ったらどうなんだ。変人ちゃんの様子は俺が見てくる」
そう言うと華辉は顔に色がないまま頷いた。”
温花の屋敷に行くと血相を変えて出てくる侍女は俺を見ると追い払ってきた。
侍女は将軍相手にも吠えるほどの主に出会ったのか。
楊兎「温花が元気かだけ知りたい」
陈莉「……元気なわけないです!楊兎将軍様。なぜもっと早く温花お嬢様を迎えに来なかったのですか?!」
侍女は俺が妻として迎えていればこのようなことにならなかった、守れていたと言いたいのだろう。
これも自己都合なことだが、変人ちゃんを守りたくて仕方ない侍女か。
侍女になった女は良家、売られた女が多く妃に対して嫉妬や嫌悪感を示すことが多く、この侍女のように従順な関係を保っていることが少ないのも事実だ。
陈莉「す……すいません……心配して来てくださったことわかっております……。なのに楊兎将軍にあたってしまうなんて」
楊兎「後宮は皇帝のための場所と人だ。俺は口出しできない」
陈莉「なんて悲しいことおっしゃるんですか……!」
楊兎「でも医者の仕事は助けること、できるだろ?(笑)」
大きな体の後ろから緑色の衣に身を纏った人物が現れた――。




