皇后華琴
白蕾「少し散歩へ。山源、付き合ってくれる?」
これは護衛をするようにお願いされたとわかった。
白蕾「何かあれば山源が(しゃんやん)華那様を連れて逃げてください」
白蕾様は真っ直ぐに俺を見た。
「はい」とだけ返事をする。
桜妃だとバレぬよう、質素な侍女の衣に身を纏い屋敷へ向かう。他の妃なら侍女の衣に腕を通すなんてことさえできないだろう――。
白蕾「華琴様、お届け物です」
侍女の格好をした娘が皇后様の屋敷の扉を叩く。そんなことが簡単に許されるわけがない。
「なんだ、この侍女は」
白蕾様はすかさず、腕輪の鳳凰の飾りを見せる。そして裏返すと桜妃である白の宝石が煌びやかに輝く。
「白蕾様?!」
「すいません!本日のお茶会に参加できず」
白蕾「大丈夫です。突然の訪問失礼ですが、少しだけお時間いただけませんか」
その腕には華那様を隠していた。
それを見た侍女たちは固まった。
今まで会うことを許されなかったことをあの桜妃が目の前でやろうとしていたからだ――。
白蕾「ここを通したのはわがままな白蕾が走り抜けたことにして構わない」
白蕾様は動けなくなってしまった侍女たちの先を歩いて華琴様の寝床に向かった。
白蕾「失礼します」
締め切ったその部屋は光さえも届かず、まるで暗闇の中――。
静かなお茶会を開く予定だったが、皇后華琴様は床から起き上がれなかったため白蕾様は強引な手段を選んだ――。
華琴「誰だ――」
白蕾「華那様をお連れしました――」
衣で隠していた華那様を部屋にそっと置いた。
華那「はは、母」
小さな声がする主は華琴様のほうへ黄色い可愛らしい衣をゆらゆらさせ、歩いた。
華琴「華那……。華那ね……」
華琴様はゆっくりと横を向いて手を伸ばすと、無邪気な華那様は母親の腕の中に入っていった――。
そして華琴様は今までの分を噛み締めるように華那様のことを抱きしめた。
侍女たちはその様子を見て奥歯を噛み締め、泣き叫ぶことを我慢している様子だ。
華琴「――あなたの名前は?」
白蕾「今は白蕾です」
白蕾様は意味深な言葉を残した。
白蕾(ふぁんれい!「この筆を華琴様にお渡ししたくてやってきました」
その筆は華那様の髪を綺麗に切って筆先にしたものだった。
白蕾「華那様と、お待ちしております。またお二人の時間をどうか大切にしてください」
華琴「白蕾――」
白蕾様は再び衣に華那様を隠し、足早に自分の屋敷に帰っていった――。
華琴「――屋敷の窓をあけましょう」
ここに閉じこもっていたって何も変わらない。
こじ開けてくれる人がいなければずっとこのままだったのかしら――。
華辉様はおかしな花の奇行を耳にした時は頭を抱えていたが、顔は嬉しそうに笑っていた――。
自分でできないことを型破りな行動で白蕾様は、今までの常識を壊してくれる。
それは恐ろしくも、気持ちの良いものでもあったのだろう。
きっとあの子ね――。
それからしばらくして白蕾様の屋敷に華琴様がお茶会に正式に自ら申し出て、楽しい時間を過ごした――。
1つ解決できたと思えば、過去の暗いものも掘り起こされ、新たな問題も発生してしまう。
皇后華琴様が本当の母親になったことで皇太后様の言葉に耳を貸さなくなり、今までのようにうまくことが回らなくなってしまっていた。
このように皇后様を味方につけてしまった桜妃白蕾様が憎いのは皇太后様だけではなく、貴妃李珠江様、妊娠中の徳妃葉莹様が放置するはずもない――。
皇太后「あの華琴め……あの桜妃とやらのせいだ」
李珠江「皇太后様どうしましょう」
皇太后「桜妃など元々無かったのだ。無かったものとして扱えば良いだけだ」
それから皇太后派の反発は強くなっていく。
大きな勢力には昔からの重臣と宦官がついている。まだ年数の浅い皇帝華辉様、皇太后様の言いなりだった皇后華琴、新しく即位したばかりの桜妃白蕾様が対抗するには力が足りないのは事実だ。
前に進もうとすれば、強く引き戻そうとされる。なんと馬鹿らしい。
そんな皇太后様に白蕾様は「どんな孤独があるのでしょう」と心配している。
まさか皇太后様のことまで心配するなど、自分の考えからは想像もできなかった。
そして白蕾様は皇太后様に振り回されることへ自ら入り込んでしまう――。




