普通になりたい妃
花街という華やかな籠から桜妃という立派な籠に移されて、ただ孤独であることを隠そうと必死になっている。
厚い仮面になっただけだ――。
現代から来た孤独も、帰りたい場所も見失ってしまった。
何かにしがみついても、晴晴のように誰かを無かったことにしなければいけない時がくる。
今度は何を無かったことにすればいいのか。
「普通」になりたかった。
だけど「特別」な「桜妃」にあたしはなった。
誰かに愛されたくて、頑張ったの。
自分がやって欲しいこと、言って欲しいことを誰かに伝える。
そうすれば誰かが自分を欲してくれる。
そうすれば誰かの心に入ることができる。
本当はずっと誰かにして欲しかった。
本当はずっと誰かに言って欲しかった。
「ちゃんとした子」「役に立つ子」「白蕾として」「桃妃として」派閥も権力、愛されるための競い合う場所。
頑張れば頑張るほど孤独になる場所。
奪った愛であたしは幸せになれるほど強くない。
誰かに奪って欲しかったんだと思う。
弱いから。だからあたしはここへ来てしまったんだと思う。
白の名も。
もう無かったことにしようよ。
もう争いが無かったことにしようよ。
誰かが傷つくのを見たく無い。
だから全部あたしが頑張ればいい――。
悲しむことも、傷つくことも、怒ることもとっくに疲れてるの。だから
そのためにあたしのこの厚い仮面がある――。
「葉莹様!」
そして葉莹の屋敷に喜びの声が響き渡る――。
葉莹「……そっか」
周りは宴のように騒ぎ回る。
葉莹の顔は暗い。
やっと力が手に入るのだ。
子どもの命より自分のことが大事で、私はそれを望んでしまったの。
私は北方の地「葉」の上官の子ども。
上級妃の徳妃。
皇帝の子を孕むことが使命だ。
母親のように――。
奴隷のように――。
葉で過ごした幼い時の記憶はいつも自分の母親は綺麗な顔が血まみれになっていた。
そしてたまに着飾って葉の父にいいように使われる。
陽の光に照らされた母親を見たことがあっただろうか。
そんな母親が弱っていくのをみても、自分にはどうすることもできない。
母親と過ごした記憶はほとんどない。
都合よく怖いもの、見たく無いものから私は記憶を消した――。
父親に逆らえば自分も同じようになることがわかっていた。
母のような惨めな女にならぬよう。
強く逞しく、気品あふれるようにすれば父親の機嫌は良かった。
そして気がついた時には後宮に入ることが決まっていた。
父親のそのときの顔はよく覚えていない。
あのあと母がどうなったかも分からない。
無関心は何も考えなくていいから楽だ――。
皇帝華辉が私のところに来るのも、仕事。自分をみていないことはどうでもよかった。
権力を手にいれる。
そうすれば自分が少し救われる。
自由を手に入れたようだ。
そうか――。
私も父親と一緒だ。
子どもは自分がいい思いをするための「もの」でしかない。
もう、乾いた笑いしか出ない――。




