民族浄化
父親に言われて俺は華国最後の宦官となり、皇帝華辉様の側近となった――。
俺の家族は華国の北方にあった国。
そこに間違いなく存在していた国だ――。
華国によって滅ぼされた。
俺の母親によって壊された。
俺は宦官という位にいるが、実質は華国の奴隷だ。
この命を裏切れば俺だけでなく家族たちが本当に消されてしまう。
元国王の血筋をこの華国に沈めることになるのか、俺の行動で決まる。
民族浄化――。
何度この皇帝の首が欲しくてたまらなかったか――。
「山源、おかえり」
小さな屋敷に盲目の妻がいる。
今日も帰ってくる音を聞き、壁を伝って迎えに来てくれる。
この子も北方から妃になるため後宮へ送られた女性だった。
だが――。
環境の変化か、他の妃から何かを仕掛けられたか、光が見えなくなってしまった。
そして後宮改革の際に妃を下ろされることに。
北方で生活することを本人は望んでいたが、実質支配をしている上級妃徳妃の葉家が盲目の妃を面倒見ることに反対をした。
何もかも支配され、権力に振り回される。
俺たちにどんな罪があるというのか。
山源「一緒になろう」
この子は俺の顔は知らない。
どんな男かも知らない。
宦官であることも知っているのか――。
それでも「はい」拒否権がないこの世界で生き続けてきた人はそう答えるしか無かったのだろう。
「山源、風鈴の音を聞ける夏が待ちどうしいですね」
この子は、あまりに心優しすぎたのだろう。
後宮に、国に飲み込まれた優しさ。
穏やかな声が俺にとって癒しになっていた。
この風鈴は――。
あの変わり者の下級妃、温花が渡してくれたものだった。
そんな風鈴の音を聞いて「今を生きることがこんなに幸せだなんて」と由由は笑う。
俺は憎悪に時間を使い、無駄に生きてしまったのだろうと後悔した。
由由と過ごせる時間をこれから大切にしたい――。
華辉様への見方を変わっていった――。
俺たちが悲観的になる状況を作ったのは華辉様なのか?
華辉様が戦を仕組んできたのか?
民族浄化をしようとしているのか?
そもそも戦の起きた本当の原因は――?
宦官である俺に、元々妃である由由を娶らせてくれるものなのか?
むしろ自由を与えてくれる人なのではないか?
狭く、鋭い視界は少しずつ開いていく――。
あの変わった下級妃では無い、桜妃白蕾様は今日も穏やかに桜館で過ごす――。
白蕾「あたしのところより由由の側に居たいでしょうに」
護衛の命を受けている俺に白蕾様は縫い物をしながら、申し訳なさそうにする。
宮中の人間たちを黙らせたあの桜妃の儀。
近くで過ごす俺には温かい顔をまだ少し見せてくれる――。
山源「仕事ですので」
白蕾「そうね、しっかり稼いで由由に贅沢させてあげて」
山源「はい」
後宮に入り、不遇な扱いはこの人だって受けてきただろうになぜこんなにも穏やかなんだ。
山源「……あの」
思わず白蕾様に問いたくなった。
白蕾「どうしたの?」
山源「例えばですが、親が鬼で、こどもは神の可能性ってありますかね……?」
何を突然聞くの、と笑っている。
俺も何を聞いているのか――。
この人で答え合わせをしようとしていた。
白蕾「そうだとしたら、なんだかあたし救われちゃう気がする――」
そんな冗談混じりの言葉にはどこか芯を感じた。
まさか白蕾様が親を鬼だと思っているなんて――。
妙な人間らしさのようなものを感じた。
そうだと願わなければこの人もやってられないのか――?
華辉様もまた加害者の子どもとして生き、被害者なのかもしれない。
そして気付かぬうちに白蕾様をこのような場所に閉じ込めて、白蕾様の温度を奪っている――。
由由を大切にしたい自分が、誰かの大切な人である華辉様に復讐心で動こうとしている自分が恥ずかしくなった。
白蕾「――できた。これ由由(ゆぅゆぃーに。寒いから。でも音は大事でしょう?」
は不慣れなのか不器用な出来上がりだったが、耳が出るように暖かい被り物を由由に作ってくださっていた。
山源「ありがとうございます」
白蕾「ごめんね、縫い物は苦手で綺麗ではないけれど」
華辉様が必死に守ってみたいと思う白蕾様は、誰かの大切にしたい人をこんなにも大切にしてくれる。
わかった――。
この父から受けた命。
華国のために生きてみよう――。
民族浄化は山源の国だけではない。
華国の隣国はその問題を抱え、複雑な関係が広がっている。
あの、楊兎将軍の祖国もそうだ――。
楊兎の祖国は元の国から追放され、様々な地に逃げ込んでいた。
銀髪の綺麗な顔立ちの村は目立つ。
その地域を支配している国に消される、奴隷にされることはあっという間に進んだ。
北方を管轄する、俺の父親、上級妃の徳妃葉莹の母親の国。
次に北方にある国が華国によって滅ぼされる――。
まず、華国上官がその地を収めるためにやってくる。
その血の姫と呼ばれる女との間に子を設ける。
そこで上級妃、葉莹が生まれた。
その国を統治していた王は華国へ召集、囚われる。
そして華国の女性と婚姻関係を結ぶ。
これによってその国が消滅したことになる。
そうして生まれたのが山源。
王族の血はこのようにして華国の中に溶け込んでいく、溶け込まされていく。
これは北の地だけではなく、東西南北で進められた政策だった。
南方な祖国の賢妃、胡淼も同じだ。
華国の上官と、そこに取り残された美しい姫から生まれたのだ。
胡淼の祖父にあたるものは国が滅亡することで、自害してしまった――。
そんな似た境遇の二人が後宮の中の派閥で手を組む理由は簡単だった。
元々将軍家の李家と、華国ができるまえからの重臣の魏家は二人とは比べものにならないくらいの権力を持っていたことも関係していた。
前皇帝は隣国と戦をし、皇太后は政治の権力を集め、華国の力を最大限に発揮していた。
戦好きの前皇帝がいなければもしかしたらこんなことになっていなかったのかもしれない――。
敵国の息子に従うなんてことも。
復讐もまた自分の親に振り回されていたの、か。
白蕾「――あなたがここにいてくれて良かった」
白蕾様はまたこちらが欲している言葉を当たり前のように言ってくる。
白蕾様は華国だけ味方しているわけでない。
憎しみだけで生きてはいけない。
そんな人に思われているあの男は何者なんだ――。
白蕾様――温花様の孤独は誰にも分からない。
あの男はなぜこの方の孤独や毒に寄り添うことができるのだ――。




