林林の話
晴晴はあの花に夢中だった――。
宮中から下庭にやってきて花街の妓女として売られた落魄れた女だ。
この花街でわざわざ剣舞をする意味とは?生きているのが不思議でならない。
自ら妓女になりたい女など――。
晴晴は「まるでこの世のものじゃない」とニヤリと笑う。まるで尊いもの、珍しいものを見るようだ。
晴晴の頭の中がどうなっているのか、また考えるのは難しい。
そしてあの女が呟いた「農業」に晴晴は夢中になっている。奪うものから与えるものに。
それが良いことだとわかっているが、晴晴と私たちの世界を壊されているみたいだ。嫌な女だ。
人の家に土足で上がり込んで――。
あの女、あの花には毒があると晴晴に暴けばいい。
そう思った――。
今日もこの女は剣舞を舞うだけで夜の客は取らない――。
「白蕾!」
「こんなこともわからないの?!」
「はぁ、いつになったら仕事覚えるの?!」
「女になりきれないから剣舞なんかやってんじゃないの?」
「もう白蕾と合わせるの嫌だわ」
ズカズカと白蕾の横を妓女たちがわざとぶつかりながら進む。
この様子だと小葉館に入ってからやられ放題のはずだが、何も言い返さない。
晴晴が惚れた女は強い女じゃなかったのか?!
こんな弱腰だから馬鹿にされるんだ。
こっちがムカついて仕方ない――。
林林「少しは言い返しなさいよ!」
妓女たちを通り抜けてたまらず前に出てしまった――。
白蕾「あなたは?」
突然のことで白蕾は首を傾げる。
剣舞を舞うときは確かに強く見えるのにこの女は――。
林林「こんな情けない妓女のままでいいの?」
「誰なの?!」「侵入者?!」
「まさか刺客を呼んでいたの?!あの女は」
晴晴の友人だとは言えず、言葉に詰まる。何者でもないのが私だから――。
なんでこんな女を助けてしまったんだろう。
見たかっただけなのに――。
続々と騒ぎを聞きつけてきた妓女たちが集まってくる。
白蕾「――あぁ、あたしの部屋の子妓になる子ですね。部屋はこっちです」
「こんな下庭の女を屋敷の中に入れて!」
「やっぱりあの女は変わってるのね」
その女は静かに会釈をした。
普通なら妓女に怯えるか、突然現れた私に対して戸惑うか……。
もっと反応があってもいいはずなのに。
仮面のままこちらを見る白蕾のことが本当によくわからない。
そして仮面を外すと一瞬冷たくこちらを見る。
背筋が凍るような目。一歩下がってしまう。
その次の瞬間、ふわりと笑顔を向けてくる。
この女は私がどのような女か今の一瞬で試してきたようだ――。
白蕾「助けてくれて、ありがとう」
まるで獣を狩るような人の目――。
花と呼ばれる可愛いものでないことを私は知った。
自分の部屋へと案内をし、お茶を淹れ始めた。
今さっきのゾクゾクした感じはまだ刺さったままだ。
白蕾「お茶をどうぞ。剣舞の後は喉が渇くの」
このお茶には毒はないと自ら先にその淹れたお茶を飲む。
あの剣舞になる理由が少しわかってきた――。
舞台の中に仮面の妓女「白蕾」が花の剣舞を披露する。
灯りの中花びらが舞うように舞い、刀を振るたびに一瞬で空気を割いていく。
どんな覚悟があってこのような女になるのか。
他の妓女は客に媚びる。
だがこの女は何か持っているようにも見える。
ただ自分の使命を果たすかのような。
白蕾「――貴方が林林ね。初めまして。白蕾と申します」
湯呑みを置き、瞼を優しく広げながらこちらを見る。
その一瞬の仕草に私は目が離せなかった。
この人はまるで笑っているのに泣いているようだ、と――。
林林「――どうしてわかった?!」
白蕾「晴晴と同じ匂いがするから」
林林「下庭のものが臭いというのか!」
白蕾「そんなこと晴晴が聞いたら怒りますよ(笑)……土ね。この埃臭い花街には無いとても自然の匂い」
林林「土が恋しくて、砕簪したくなったのか?」
白蕾「どこへ行っても結局は誰かの目の中。砕簪できるほど力もないですし」
林林「そんなの怠けてる理由だろ?!砕簪しない理由探してるだけだろ?!」
白蕾「――ふふふっ……(笑)そんな言葉あたしも言ったことがあります……(笑)そうですね、怠けてるだけです」
林林「あーもうっ!意見くらい通してみたらどうなんだ?!そんなだから舐められるんだ!」
白蕾「――強い感情を持つのは結構疲れることだから」
そう言ってまたお茶を淹れる。
怒りも、悲しみもあんたにもあるはずだ。
なのになんで、それを使わないんだ。
なんで自分を出さないんだ。
疲れる?感情を怠けてるだけだろ?
林林「――なんなんだ、あの女は全く!晴晴がお通しした妓女だと聞いて見に行ったけど、自分のない女だった!がっかりだったよ!」
その昼、晴晴に苛立ちをぶつけると何故か笑っていた――。
この男が鍬を持っている姿に今だに慣れん――。
晴晴「――红京という男について調べてくれ」
林林「红京?今月の給金は倍だな!」
あの女になんの秘密があるんだ。
この男は誰なんだ?一切の情報を渡されないままなんて。
給金は多めにもらわないと、な。




