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終わりと始まりの花【本編】  作者: はな
白蕾【花街編】

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116/129

何も変わらない屋根裏部屋

 晴晴(しんしん)「――置いておくぞ」


 いつものように番台に落簪(るぉざん)を置く。

 だが女将小葉(しょうよう)はそれを受け取らない。


 小葉(しょうよう)「――あの子はいないよ」

 晴晴(しんしん)「――今度はどこへ行った」

 小葉(しょうよう)晴晴(しんしん)にも言ってなかったのかい……砕簪(さいしん)のほうがまだマシだったね」


 砕簪(さいしん)のほうがマシ――?

 なんだそれ。

 極悪人に身請けされたみたいだろ。

 

 下庭で――。

 花街で――。

 俺がこのことを知らない、極悪人――。


 晴晴(しんしん)「――まさか文斗(うぇんどぅ)か」

 小葉(しょうよう)「あんたにとって最大の皮肉さ」


 まさか――。


 あの妓女がこの花街で執着していないことくらいわかっていた。

 もう欲しい情報も手に入れたことも。

 わかっていた――。


 最後に礼ぐらい言ったらどうなんだ。

 最後に助けくらい呼んだらいいだろ。


 あの花は突然――。


 突然、下庭に現れた。そして花街へ。

 居なくなるときも突然。

 あいつらしい。


 小葉(しょうよう)晴晴(しんしん)御面会だよ」


 この屋根裏部屋にあいつの匂いがわずかに残り、少ない荷物はここに止まるつもりがなかったと言わんばかり。この部屋の様子は何も変わらない。


 金階(じんじぇい)に入る理由も無くなった。

 この部屋で過ごす理由も。


 白新「晴晴(しんしん)様……白蕾(ふぁんれい)様はどちらへ行かれたのでしょうか?」

 晴晴(しんしん)「元々あいつはこんなところにいねー」

 白新(ふぁんしん)「この頼まれていた皿はどうしましょう」

 晴晴しんしん「俺が解決できるとでも?」

 白新ふぁんしん「――本当に白蕾ふぁんれい様は晴晴しんしん様を信頼されているのですね」

 

 白新ふぁんしんは持っていた包みから小さなスープ皿を取り出した。

 その皿はこの辺の装飾でない。

 文化の違う洒落た、ただの皿。


 それを白新ふぁんしんは俺に差し出した。


 晴晴しんしん「こんなもの頼んでないぞ」

 白新ふぁんしん「これは白蕾ふぁんれい様に頼まれた皿です」

 晴晴しんしん「あいつはもうここには来ないぞ」

 白新ふぁんしん「――これは俺の元です。でもこれを白蕾ふぁんれい様は全て手放すように言われました。俺は『ふぁん』を捨て、杨鈴やんりんの『やん』になりました。――あの人が一人で『ふぁん』の名を背負わせてしまったんです」

 晴晴しんしん「あいつはバカだから、な――」


 やっと意味がわかった。

 理解すればここがあいつの場所でないと認めてしまうようで。


 この若い男がなぜ天妓三姫の杨鈴やんりんを見受けできるだけの金があったのか、不思議だった。

 だがこの文化的な皿はこの辺りではマニアには受ける。貴重品でもある。

 それを全部売り払い金に変えたとすれば――。

 説明もつく。


 あいつが白新ふぁんしんと出会い、何かを悟った顔をした。

 それが「ふぁん」を背負うことになるとは。

 白新ふぁんしんが「ふぁん」を辿り白蕾ふぁんれいを血族なのかと、尋ねてきた。

 これは白新ふぁんしんには目印だった――。

 

 あいつは「ふぁん」なんかじゃない。

 それをまるで俺に理解させるつもりか?(笑)


 狙われるのは自分だけで、いいか――。


 この世に執着してない女がここまでする必要があるのか――。

 あいつはもう限界だったはずだ――。


 白新ふぁんしん「――これは親友へのプレゼントにしたいと仰っていました。これは晴晴しんしん様にお渡しさせてください」


 大きなため息ととも煙草の煙が流れていく。

 こんなもん預かったところであいつは、またどっかでもがいてんだろ。

 俺じゃない男のために。

 

 捨てているようで、捨てきれないあいつも馬鹿だと思ったが、俺もこの皿を割ることができない。

 これがあいつに会うための理由になる。


 そして屋根裏部屋の外からドタバタと足音が向かってくる――。

 あぁ、あの足音は。


 林林りんりん「――晴晴しんしんっ!ごめんっ!こんなことになるとは思ってなくて!」


 髪をボサボサのまま林林りんりんは部屋に飛んで入ってくる。

 あいつも白蕾ふぁんれいが居なくなったことを知らなかった人間か。

 

 晴晴しんしん「それで。なんでお前がこの部屋を知ってるんだ?」

 林林りんりん「あ……いや、それが……白蕾ふぁんれいと友達になってさっ!あ……それで……」

 晴晴しんしん「で?」

 林林りんりん「いや……あの、白蕾ふぁんれいは墓場に行ったんだ!」

 晴晴しんしん「――」

 林林りんりん「あっ!死んだってわけじゃなくて!――白新ふぁんしん様だ!」

 白新ふぁんしん「あ、どうも――」

 晴晴しんしん「わかった、落ち着いて説明しろ……」


 林林りんりんは慣れたようにこの部屋でお茶を淹れ、一息すると話を始めた――。

 

 今度はなんだ――。

 本当にこの部屋は飽きないことばかり起きる――。

 

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