紫と赤の目
香膳の賑やかな音楽が白蕾には届かない。
白蕾は李明と話した内容で頭がいっぱいになっている。
晴晴「――白蕾」
白蕾「……す、すいません!晴晴様!」
少し大きな声で白蕾を呼ぶと意識が戻ってきた様子で返事がやっと返ってきた。
俺も白蕾と日々話し込む中で自分の世界が小さい場所なのか突きつけられることばかりだった。
いずれこの華国の宮中、祝街、下庭、花街の制度は崩壊するだろう。
俺たちはその中で生きていかなければならない。
その流れに巻き込まれてしまった白蕾は白蕾の居た世に帰るべきだと思っていた。
白蕾と俺たちは気がついてしまった。
生きる場所が違っても苦難は違う形で迫ってくること、争いが起きてしまうこと。
誰もが狼のように生きることができず、怯えた子犬のように震えていることを――。
白蕾が妙に達観して見えていたのは世を渡りそのことを早くに知ってしまっていたからなのだろうと。
この世のどこであろうと、どの世であろうと自分が踠くしかないことを。
高光の策略の1つであろう祝街、下庭どちらにつくかなんて不毛な戦いだと思える。
別にどちらを選んでも正解にも、不正解にもなってしまう。
白蕾はそれなら自分の思うように生きているだけなのではないか、と――。
白蕾の言葉の通り、農業を下庭の荒くれ集団と民と作っていた。
祝街も宮中、後宮もいつか食に飢えた時には下庭なしでは生きられないことを知り、それぞれの壁を自分たちで壊さないといけなくなると。
睨み合っているなんて馬鹿馬鹿しいと。
一国、1つの街、1つの店、人一人が。
争わない方法を白蕾はずっと頭悩ませていた。
白蕾はどこにいても同じようなことに頭を悩ませてしまう人物である。
優しさ?いや、白蕾はただ勝手に抱え込んでしまう人物なことはもう十分わかった。
もう白蕾の願いが叶ってもいい頃だろ――。
晴晴「李明は白蕾と同郷の人物ということか?」
白蕾「李明様の国は同じかもしれませんが、どちらの世の人の人なのか――」
晴晴「――俺は李明と話す。白蕾は高光と話してこい」
子妓を呼び寄せ、李明を金階に呼ぶ。
そして白蕾はあの高光のいる桃色の金階へと入って行った。
高光「――どうして私がこの女と過ごさないといけないのです?!私には理解できません」
白蕾「――高光様は損得でしか人間関係作れないのです?」
高光「私は妓女なのです。損得勘定で客を選べますし、生きることができるのです」
白蕾「あたしは高光様のように生きてみたいです――」
まるで私がわがままだと言いたい様子だ。
睨みを利かせて、横を見るとあの花は顔に力はなく、ただそこに座っていた――。
女将が言っていた――。
私は白蕾の何を知っているのか。白蕾は私の何を知っているのか。
知らない――。
今の白蕾しか。
だけど、その今白蕾は私の敵でしかない。邪魔者でしかない。
白蕾「高光様、あたし不幸せだと自分で思いたくないんです」
高光「どうして?羨ましいなんて思うことあるでしょう?楽な生活がしたいと思うでしょう?怒りに任せて動きたい時だってあるでしょう?!」
白蕾「そうすれば誰かが不幸せになるかも知れないんですよね。――杨鈴様がどうして朱雀と呼ばれたのか最近分かったんです。杨鈴様の周りに不幸せな人がいないんです。杨鈴様が全て請け負っているから。高光様も杨鈴様の推薦があって天妓三姫になってのでしょう?杨鈴様が推薦したことによって杨鈴様の客が高光様に流れた。それを隠すように晴晴様に資金援助を願い出ていたから、落簪の5つの札に晴晴様の名前が上がった。違いますか?杨鈴様のようになろうとしてもあたしはなれそうにないです」
高光「……そんなこと杨鈴言ってなかったわよ!あなたの被害妄想よ!」
白蕾「言わないでしょう?高光様と天妓三姫を良好な関係で続けたいという願いがそこに詰まっているから」
もういいわよ――。
もう私が悪かったから――。
もう許してよ――。
高光「――朝良玉。あなたが探しているものはきっとそれね。李明様もずっと探していたの」
息を吐き捨てるように、その言葉を吹き出す――。
扇子を持つ力も抜け机に置き、椅子に深く腰掛ける。
まるで枯れてしまいそうな花は、またこちらを向いて花びらを広げる――。
高光「――噂話をそこまで鵜呑みにして馬鹿馬鹿しいと思っていたけど、李明様とあなたの会話を聞いてしまって――私が知らないだけなのね。白蕾、あなたは何者なの?何になりたいの?」
白蕾「――高光様と一緒です。生き方を知らない人間で、ただ好きな人のところへ帰りたいだけなのかもしれません……」
月の光に照らされながら、嬉しそうに笑った。
高光「そう。踠くしかないのね。私はもう妓女に疲れちゃったの。杨鈴姐さんが身請て焦っちゃったの。ごめんなさい――」
白蕾「あたしも疲れていたんです――」
高光「花街からの情報はあなたに私から届けるわ。あなたがまた踠くのなら私もまたもがいて見るから」
白蕾「高光様――ありがとうございます」
罪滅ぼし――。
私の感情に付き合ってもらったんだもの――。
白蕾は感情のない子だとずっと思っていた。
杨鈴に憧れて、好きな人の側にいたい。私と一緒だと言ってくれた。
それでなんだか張り詰めていた体から力が抜けてしまった――。
もう強がっても何もならない、大きく見せようとしたって意味がないこと。
ずっと周り入ってくれたのに聞かなかったふりして自分の感情しか見ていなかった。
白蕾が象徴するのは、私が持っている権力でも金でも勝てぬもの。
人の心――。私焦っていたのね。疲れていたのね。
李明「なんだ、晴晴。俺は男との飲むため妓楼に来ているわけじゃないんだぞ」
晴晴「たまにはいいだろ」
金階に入ってきた李明に晴晴は酒を差し出した。
その酒の注ぎ方はあの現代の方法が染み付いていた――。
李明「――あの女の正体をしているのか」
晴晴「全部知ることは無理な女だが、李明が考えていることは知っている」
李明「この国の者でないと。この世のものでないと(笑)――この世から返せなくなったか?(笑)」
晴晴「俺が望んでも白蕾はその通りにはならね。今は帰りたくないだけだろ」
李明「なんだ?夜王にも手に追えない人間がいたのか(笑)」
李家の遠縁出身という名目で祝街、下庭どちらにも通じる中間的存在の男。
冷静沈着で文にも、武にも通じるが、どこか外の世界を見ているような目をしている。
密かに小葉館を支援していたことの理由はわからなかったが、この男も白蕾と同様花街で情報を集めようとしていたのか。
晴晴「あのわがまま女を扱えるようになってから俺のこと言えよ」
李明「ふっ(笑)お前はよほど、あの仏像のような女も扱うのに手を焼いてるんだな」
晴晴「仏像?どちらかと言えばお転婆娘だな」
李明「そんな風には見えねーけどな」
晴晴「ふっ、白蕾がうまく妓女をやっているってことだな(笑)」
晴晴はなぜか誇らしそうだ。
机の上には日本由来の風鈴が絵付け途中で置かれている。
李明「――俺はあの海の向こうの国で争いが起きて逃げた一人だ――。あの力を使って争いが絶えなかった。戦争で勝った国は自分たちが英雄になるように歴史を書き換える。負けた国は歴史を、国を、人の生きる道を奪われ、奴隷のような生活を送るしかなくなる。力を失った国は力を隠すために事実を隠している。争いが起きないようになんて上っ面の理由で、あれがあれば一国の王だけでなく、この世を支配できるだろうな」
晴晴「鉄の塊が空を覆い、街を火の海に、か」
李明「――そうかもな。俺はそれを見たことはない。だがやはりそれが存在するのだな」
李明の胡散臭い態度に睨みを利かせていたが、頭を抱え始めた。
李明「――一この世がこの世で無くなる前に、あれを回収するべきだ」
未来から人が流れてくればそのような兵器が突然作られる可能性もあるー。
李明はいつもの調子ではなく、至って真面目な顔で、覚悟のある顔だった。
白蕾も李明を見つけることができた。
李明もまた白蕾を見つけることができた。
この初めての一歩は大きな一歩である――。
晴晴「――李明、お前が白蕾を裏切った時はこの世で争いが起きると思っておけ」
李明「それはこちらも同じ考えだ」
お互い睨みつけるが同じ目標を持つ男同士の約束は敵なのか――。味方なのか――。
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はな




