狼
屋根裏部屋は静かな時間が流れていた――。
晴晴が白蕾を小葉館に売った後すぐのような距離感で二人は静かに話し込んでいる。
晴晴「――祝街なんか作るから面倒なことになるんだ」
その言葉に白蕾は酒を注ぐ手を止める。
そしてまたゆっくりと酒を注ぎ始める。
白蕾「――争いを生まないために考えた結果がまた別の場所で争いを作ってしまうんですね」
まるで祝街を作った意味を知っているような口ぶり――。
白蕾が後宮で下級妃をしていたことは知ってはいるが――。
下級妃だぞ?下級妃が一国の王と政策を話すような関係のはずがない。どうせ噂話で耳にしたんだろ。
いや――。
この花街でも下級妓女をしているはずなのに他とは違う存在感のある女だぞ?そもそも妃から侍女になったんだ?
あー、もう全部わからねー。でもそれを聞く口は開かない――。
晴晴「あんな壁を作る王様が悪いだろ」
白蕾「壁を作るのはきっと誰かが安心したいのでしょうね。みんな自分以外を知るのが怖いのでしょう」
晴晴は裏社会の流れも、妓楼の金の回りも、全て知っていた。
交渉の相手の祝街、宮中であることもあった。全部知っていたつもりだった。
だが白蕾と話すたびに、自分が信じてきていた力の支配が脆く、愚かしいものだったかを思い知らされていく。
ひとつのはずの国は宮中、後宮、祝街、下庭、花街と分かれている。金、権力、力、自由、いくらでも対立する理由はある。
でもそれが恐怖心からくるもの、か――。
白蕾「まるで小さな犬だとは思いませんか。怖いからと吠えて、自ら柵の中に入って。その柵が無くなればまた吠え、噛みつきあう。狼は危害を加えないものに自分の強さを見せつけない。そんな狼は群をなしてうまく生活できているのに――」
白蕾の思考する先へ一気に飛ばされた感覚になった。
晴晴「華国の人間は子犬に見えていたのか(笑)」
白蕾「すいません、例えが変でした。群の狼のようにお互いを知れば争わずに済むのに、という意味で――」
晴晴「いや、白蕾の言いたいことはよくわかった。あの壁のせいで身分制度は悪化、国が儲かるための制度だろ」
白蕾「――どうすれば人を守れるんでしょうね」
そんな言葉まるで白蕾が提案したみたいだろ。
下級妃が皇帝陛下に助言なんてするのか?いや、こいつならありえるな――(笑)
晴晴「ふっ(笑)白蕾なら金物持ってあの壁を壊す女だと思ってたけどな」
白蕾「そこまで野蛮な女に見えていたんですか」
晴晴「そんな物騒なもの持ってんのはお前だけだぞ?――あの壁の中にあの世へ帰れる何かがあればそうするだろ?」
白蕾「それは――」
晴晴「ほら、な。神でもないのに全部完璧にできねーだろ。お前は人間だ」
白蕾「――神様はどうしたいのでしょうね」
かつて刀を振っていた男たちが、今は鍬を握っている。
争う理由が無くなるまで白蕾は動き続けるつもりか――?(笑)
正解全部見つけるなんてできるはずねー。
得意不得意を補うしか人間にはできないこと、白蕾が教えてくれたんだろ。
白蕾「晴晴は狼のほうですね――」
完璧な人なんていない。そんなことわかっていたはずなのに。
この人は群を完璧に統率してしまう狼にしか見えない――。




