朱雀の簪
天妓三姫の一人「杨鈴」がついに身請けされた話は花街中に知れ渡る――。
花街の朱雀と呼ばれた杨鈴が妓女を引退をしたことにより、天妓三姫の一人が欠けた状態になっている。
一人に入り込める妓女は誰になるのか話は持ちきりだ――。
「杨鈴様の後なんて荷が重いわよ」
妓女たちは皆そう思って自ら手を挙げる者もいない。番台で帳簿を合わせる女将小葉と司翠はため息ばかりだ。
小葉「司翠たちみたいに自分から成り上がろうとする妓女じゃないと天妓三姫は務まらないからね――」
司翠「最近の売り上げだけで見れば白蕾なんだけど、あの子は晴晴様以外には夜を売らないから別枠なのよね……。晴晴様は白蕾以外の落簪をもう買う気は無いのですか?」
小葉「さーね。私の知ったことじゃ無いよ。ただ白蕾は夜を売る気はないだろうね。晴晴だから、ね」
司翠「小葉様、それ自体もおかしいのではありませんか。思い人が居るのであれば身請けしてもらうべきですし、なぜ晴晴様も放し飼いしているのですか?高光が怒り狂ってしまうのも仕方ありません」
小葉「晴晴はあの子を思うが故に買い取れないんだろ。司翠はもう少し目を肥やしな」
司翠「――だとしても――」
女将小葉は長く煙を吐き、司翠を見た。
まさか――。
司翠「――まさか砕簪するとでも言うのですか?」
※砕簪=落簪を拒絶、足抜けすることを意味する。
小葉「さーね。それは私もわらかないよ。ただあの子は覚悟を持ってこの花街にいることだけはわかる。その目標が達成できれば砕簪するかもね。身請けされることに関してあんたたちが邪魔するときは私が許さないからね」
司翠「小葉様まであの子に肩入れする気ですか」
小葉「別に白蕾だけ特別ってこともないよ。小葉館の子たちはみんな特別だよ」
女将小葉はニヤリと笑う――。
この長年の勘にはまだ勝てない司翠は考えを巡らせて女将小葉にの考えに辿り着くしか無い。
晴晴様がは白蕾を身請けするつもりがないのよね――?
晴晴様以外に誰が白蕾を見受けする可能性があるというの?
晴晴様以外落簪を取っていないのに。
晴晴と白蕾の関係はどこまでが本当で、どこまでが嘘なの?
わからない――。
それをわかるようになるのが妓楼の女将になれるってことね……(笑)
しばらく考え込んでいると高級なお香の匂いが仄かに風に乗って香ってきた。
杨鈴「司翠」
番台に艶やかな声が聞こえてくる。
そこには穏やかな表情の杨鈴が立っていた。
少し前までは寝台から起き上がることも困難だったはずなのに。
司翠「杨鈴!体調は大丈夫なの?!」
杨鈴「おかげさまで。もうすぐでここを出る準備ができそうなので、最後のお願いに来ました」
司翠「最後のお願い?」
杨鈴「白蕾、あの子は私にとって特別な子です。小葉館を出るまでのことお願いします」
杨鈴は自分が使っていた朱雀の簪を手に乗せる。
簪は女、妓女にとって命のようなものだ。
自分の人生の色や思い出の詰まったものであるから。
それを白蕾のため私に預けるというのだから――。
女将小葉は横でにんまりと笑っている。
司翠「――杨鈴がそこまで言うのなら、わかりました」
杨鈴がここまでした理由は高光が何をするかわからないからこそ、同じ天妓三姫の司翠に守るように言ったも同義である。
司翠は白蕾のことで何かあれば高光と対立する可能性もあるということになる。
杨鈴が白蕾と晴晴に助けられたことからこのような行動に出たことも理解している。
――心配事が減ったけど、新しい心配事ができてしまった。
でもこれで杨鈴は伝説を引退できるのね。朱雀ではくて一人の人間として、女として生きていけるのね――。
簪を受け取ると柔らかく笑った。
杨鈴が纏う空気は温かいものになっていた――。
司翠「杨鈴が笑って手を振る日が来るなんて――」
小葉「司翠、あんたは身請けしてもらうつもりはないのかい?」
司翠「誰かのために時間を使ってきましたからね。引退してからは自分の人生を過ごしたいだけです。まずは育成に力入れていかないとですね」
小葉「それは頼もしいよ(笑)」
司翠の価値観も間違いでない。
自分の人生であることをしっかりと達観できているのはさすが天妓三姫の司翠だ。
あとは高光だね――。
すいません!予約投稿日がずれておりました…
はな




