冷えた毒
あれから何日経っただろう――。
何日この香膳で剣舞を舞っているのか――。
ここであの世に帰れる方法の情報を集めようとしているのになかなか情報は掴めない。
「白」の名についても考えても答えがわからない。
小葉館の外は真っ白な雪に包まれる日も増え、客足が減ることも――。
香膳での剣舞の回数も減り、嫌なことばかりが頭の中を巡る。
もうこの真っ白な仮面は割れてしまいそうだ――。
どうしてあたしは花街へ来たんだろう。
晴晴に頼らなければここでやっていくためもっと汚れていたはず。
それも覚悟していたはずなのに。今はそれが怖い。
だけどこれ以上、晴晴に頼ること良くないことだって、もう分かっている――。
後宮であの人に頼らないで済むようにここへやって来たのに、今度は晴晴の錘になっている。
あたしの存在は錘にしかなれない。
あの人の本当の気持ちが分からない。知るのが怖かった。
気持ちは本物のはずなのに、あの人の気持ちが分からないから。自分の価値さえわからなくなって。
あたしがあんな気持ち持たなければ、友人のまま楽しく過ごせたかもしれないのに。
あたしが友人としての価値を壊そうとしてしまったのだから。あたしがそれだけでは足りなくなってしまったのがだめなんだ。
あの人の言葉、行動に一喜一憂して。
あの人の温度を知って。
勝手に悲しんでいる。もう辞めたい。
現代から逃げて来たはずなのに。今度は後宮から逃げて。次は花街から逃げ出したいなんて――。
どうしてあたしはうまく生きていけないんだろう。
だから、あたしは格好いい理由をつけて仮面を被りここにいる。
この仮面を被り続けてここにいなければ――。
ここでの価値を持ち続けなければだめだ。
剣舞の音楽はいつも振り回されて、舞台に上がり続ける理由は――。
強さでもあり、弱さでもあった。
そうするしかないから立ち上がる――。
香膳では歓声が上がる。
これでいいじゃない。
これがあたしでいいはず。
小葉「晴晴、今日も白蕾かい」
晴晴「あぁ」
いつものようの金階に入る。
そうすればこの人はここでいつものように酒を飲んでいる。
ここで待ってくれているのに――。
だけど、ここは本当の自分で居られる場所じゃなかった――。
強がってしか居られない場所だった――。
あぁ、苦しい――。
白蕾「晴晴様、本日もありがとうございます」
晴晴「あぁ」
いつからだろう。
晴晴様と楽しく話せていたはずなのにこんなに苦しくなってしまったのは。
「白蕾様、香膳にてお客様がお待ちです」
晴晴「部屋で待つ」
白蕾「はい」
剣舞を見に来てくれるお客様が増え、情報収集をする時間が増えて来た。
晴晴様はそれを許してくれる。
この衣、髪飾りを見ると、静かに落簪を持って屋根裏部屋へ先に上がることが増えた。
香膳での仕事を終えると、屋根裏部屋へ上がる体力も残らずフラフラと部屋に入る。
そして力が抜け椅子に沈みこんでしまう。
もうこれが何日続いているのか、分からない。
晴晴「今日もお疲れだな」
それをこの人は笑ってくれる。
白蕾「すいません――」
農業の話、未来の話、あの世を渡れる何か。
あんなに楽しく話せていたはずなのに、もう前のような空気は無い。
静かに酒を注ぎ、酒を飲む。
ただその音だけが静かに繰り返される。
あたしは晴晴様の毒になってしまっているの――?
この冷え切った部屋で、二人で凍えるしか無いの――?




