銀髪の少年
赤い階段を登った一番奥の部屋。
少し前までは一番華やかだった。その部屋の主が色に負けない美しさの持ち主だった。
だが今は薬の匂いが充満し、空気が澱み、力無い妓女が天井を見上げるしかできないそこにあるのは――。
美ではなく、疲弊と絶望の場所になってしまった。
小葉「杨鈴、もう少し食事を摂ったほうがいい」
杨鈴「小葉様はなぜ怒らないんですか」
小葉「反対の立場だとすれば杨鈴は怒らないだろう?杨鈴が怒ってくれるのなら考えてみるさ」
杨鈴「怒るって何なんでしょう――」
杨鈴の問いに答えられるものがいるのか。
杨鈴をこれ以上傷つけなくていいようにできる人物はいるのか――。
杨鈴は自分の好きな男の子を宿している重圧、悪阻。いつまでも迎えに来ることのない孫凉を待ち続ける。
杨鈴がここまで男に人生を狂わされるとは。正直意外だ。
最初で最後のわがままなのかもしれない――。
杨鈴の気持ちが向けられる孫凉様は特別であるが、それを必要としていない。杨鈴の爆発してしまった感情はまた無かったものとして消していかなければならないのか。杨鈴の最後の感情はどうすればいいのか。
杨鈴が「今」を生きてきる理由はお腹の中の子だろう。
それだけは奪われないよう杨鈴の体調に気を使うしか私にはできなかった。
子妓「杨鈴様、来客です」
小葉「誰だい?杨鈴は体調が悪いんだ、帰るように伝えな」
子妓「はい――」
杨鈴「小葉様、待ってください。少し気分転換がしたいと思っていたところです。みっともない格好だけど、お通しして」
小葉「(しょうよう)「杨鈴がそう言うのなら――」
妓子が扉を開けると白い衣の妓女、その横には晴晴がいる――。
この二人が揃うとろくなことはない。
小葉「白蕾、なんであんたが杨鈴の部屋に?しょうもないことならすぐ追い払うよ」
白蕾「――杨鈴様!」
杨鈴「はい、なんでしょう」
白蕾は大きな声で杨鈴の名前を呼んだかと思えば真っ直ぐに顔を見る。そんな白蕾に杨鈴は静かに返事をする。
天妓三姫の最高位だった風格や力は無くなってしまっていたが、病弱そうに見える姿でも杨鈴の美しさは輝いていた。
白蕾「――杨鈴様が男のことで気に病む必要はないですよ」
白蕾は1つの落簪をパキッと折ってしまった。
上客にしては珍しい木で作られた落簪には杨鈴の上客だった金の紐が括り付けられていた。
小葉「白蕾っ――!」
「孫凉」と書かれた木の落簪はツヤもなく、枯れて行くだけの木のような札は半分に割れていた。
一瞬驚いた顔をした杨鈴はクスクスと笑い始めてしまった。
この子が笑った――?
その後ろにいた晴晴が部屋に誰かを招き入れる。
晴晴「女将さんよー、帳簿の確認ミスだったんだろ?俺は杨鈴の落簪に入れるほど今年は金入れてないぞ」
小葉「今年だけで考えちゃいないよ!全金額で確認してるさ!」
晴晴「先月、俺は杨鈴への落簪はなしだ。その代わりこの半年、杨鈴へ落簪を買っていたのはこいつだろ?」
杨鈴「白新――」
白蕾「杨鈴様への気持ちが一番強いお方こそ白新様ではないでしょうか……」
小葉「何勝手なことしてるんだい?!」
白蕾「杨鈴様を助けたいんです、小葉様少し白新様の力をお借りしてみませんか。――杨鈴様には大きな愛情が必要だと思います」
白蕾は耳元で呟き、白新から離す。
白新「豪華な暮らしはできないかもしれませんが、二人を大事にしたいと思っています。俺は杨鈴様のことをお慕いしております」
銀髪の少年はやつれた杨鈴の前に膝付き、見上げる――。
杨鈴「白新様、お言葉は嬉しいのですが」
白新「先日、孫凉様の落簪を選ばれたこと俺も存じ上げております」
杨鈴「ではわかった上でなぜ私を?」
白新「好き、だからという気持ちだけでは満足していただけませんか?」
先日の孫凉の落簪を選んだことによって、杨鈴自身が腹の中の子は「孫凉の子であって欲しい」「孫凉の子である」と言ってしまったようなものだ――。
それなのになぜ白新がここまで出向いたのか――。
好きだと言う理由だけで、どこまでできるのか、どこまで本当なのか、その気持ちはいつまでなのかわからない。
ましてや白新は妓楼に入れるぎりぎりの年齢、白い肌はさらに幼く見えるような子が今の感情で動いているようにしか見えない。
23の杨鈴が不安になってしまう気持ちは当たり前と言えば当たり前だろう。
杨鈴「――では質問を変えます。なぜ、あの子と晴晴様と一緒にここへ来たのですか?」
白新「――俺は華国、前王朝の生き残りなんです。今は白と名前を改めておりますが、本名は梦伯。梦王朝の子孫です。白蕾という妓女が小葉館にいると聞きつけてもしや親族なのでは、と……。白蕾様からいいお話も聞くことができました。俺は安心できたのです。この世で生きていく方法を見つけて良いと――」
その言葉に白蕾は固まってしまっていた――。
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