根性の女と眠る少年少女
晴晴「――杨鈴は根性あるよな」
白蕾「そうですね。杨鈴様のようになりたいです根性……?根性――」
何かを閃いたのか白蕾は前のめりで嬉しそうだ。
晴晴「腹でも減ったのか?」
白蕾「はい!あーっ!わかりました!」
白蕾は俺の手を握り忙しそうに動かしている。
最近幼く見えることが増えてきたな――(笑)
晴晴「腹減ったのか、わかったのかどっちなんだよ」
白蕾「お腹は空きました……、わかってしまって。杨鈴様がどうして孫凉様を選んだのか!」
晴晴「――まだわかってなかったのか」
白蕾「今のは晴晴様からの手引きだと思ったんですが違いましたか?……あ、あの!杨鈴様は孫凉様の子だと確信があったのではないでしょうか?」
晴晴「他にも客がいたんだぞ?確信なんて持てないだろ」
白蕾「杨鈴様は天妓三姫のお一人ですし、司翠様、高光様よりも絞った客層で働いていましたよね?」
晴晴「だったらなんだ?それでも絞れないだろ」
白蕾「――孫凉様以外の子を成すつもりがなかったのではないでしょうか……?月ものをしっかり把握していれば懐妊できるタイミングも図ることができます」
晴晴「――そうなのか」
白蕾は答え合わせするように俺を嬉しそうな目で見る。
俺が思っていたこととは違ったが、確かにその可能性は大いにある。
天妓三姫の一人として杨鈴は感情を誰かに悟られのようにはしていたはず。
孫凉以外の男に夜を買われたときには、毎晩、自らの体を洗い清め、孫凉の子を身籠るという「確信」を持つために行っていたとすれば――。
白蕾の言う月もので計る方法は知らないが――。
晴晴「そうかもな」
白蕾「晴晴様は答えを知っていたのではないですか?」
晴晴「んー、杨鈴は身請けを拒んだと思ってる」
白蕾「孫凉様なら身請けを断ると思っているとのことですか?」
晴晴「そうだ。孫凉以外に人生を捧げるつもりがねーのかな、と。孫凉が身請けを断るところも杨鈴はわかってやってんだろ」
白蕾も晴晴も答えは「杨鈴が孫凉へ思いを寄せていたこと」それを杨鈴の口から伝えることはなく、行動だけで孫凉に示していること。
二人にしかわからない世界があるのかもしれない――。
晴晴「杨鈴は根性あるし、馬鹿じゃねー。この先のことも考えてんだろ」
白蕾「そうですよね――」
白蕾はしばらく機嫌良く過ごしていた、が――。
えらく今日の剣舞は荒れてんな。力任せもいいところだ。
毎日見ているからなのか剣舞見るだけで白蕾のご機嫌がわかるようになってきた。
晴晴「今日はどうしたんだ」
白蕾「杨鈴様のつわりが激しいそうで、杨鈴様一人がしんどい思いしているのに――孫凉様は迎えにこないなんて!」
晴晴「あー」
白蕾「杨鈴様は男に病む必要のないお方です!」
白蕾は剣舞の後のお面と髪飾りを衣装ケースの上に乗せ、怒りに耐えている顔でドスンと寝台に座った。
白蕾「もどかしいです」
晴晴「孫凉はあの場で断ってる。そんなもんだろ」
白蕾「なんで晴晴様は怒らないんですか」
晴晴「いや、白蕾はそんなに怒ってんだよ(笑)」
白蕾「当たり前じゃないですか、同じ妓楼の妓女で、杨鈴様ですよ?!」
晴晴「あーはいはい」
白蕾「――あたしだったら耐えられる自信ありません……」
あーはいはい。
あの红京とか言う男か――。
隣に座り怒っている顔を見て面白くなった。
晴晴「白蕾が相手してくれたらいいこと話してあげてもいいけど?」
白蕾「晴晴様のお相手はあたしでは務まりませんので」
白蕾の体に手を這わせて遊ぶと、俺を押し倒した。
怒ってんなー(笑)
白蕾「杨鈴様がお相手した人なんて。あたしでは満足できないでしょう?」
晴晴「それはやってみねーと、俺も知らねえ」
白蕾「好き同士でないと悲しくなるだけですよ――」
白蕾は体を起こして背中を向けて座った。
その言葉は白蕾に重くのしかかっていることが、分かる。
これは経験からくる言葉だ。やってみなくてもわかってしまうってか――。
思い合うことがどれだけ難しいことなのか。
杨鈴もそれをわかってんだ、な。
それで白蕾がここまで怒ってんのか。いや悲しんでんのか。
白蕾「何を話すおつもりだったんですか?」
白蕾の目には光の無くし妓女の顔になる。
横に寝転び真っすぐ俺の顔を見る――。
白蕾の頭に手を伸ばして、本当は今からぐしゃぐしゃにしたい。
でも白蕾の心はここにはない。目は俺を向いていない。
もうこいつ限界じゃねーのか――。
红京と言う男に寄りかかりたくて仕方なのか――。
晴晴「……はいはい、俺が今日は红京だ」
白蕾に対してプライドも、クソもない。
红京だと思えなんて。
俺はここにいる。だが好きな女の好きな男は俺ではない。
白蕾「――ちがう!――红京はそんなだるそうにしません」
晴晴「はぁ?俺はその男を知らねーんだよ」
白蕾「――晴晴に頼りすぎだってこともわかってる……です……」
晴晴「はいはい、じゃ杨鈴のことを1つ解決すれば気が済むか」
白蕾「……解決できる方法あるんですか?!」
晴晴「お前がこのままここで寝れば、な」
白蕾「――」
晴晴「杨鈴を抱いた男は白蕾じゃ満足できないらしいからなー。寝るぞ」
白蕾「夜に寝るのなんて……いつぶりでしょうか――晴晴……おやすみなさい……」
白蕾疲れていたのか、嬉しそうに布団を体にかけた。
本当に寝るつもりだな――(笑)
夜通し話し込むことが増えて夜に寝るなんてこと、いつぶりだろうな――。
白蕾の重い瞼はあっという間に閉じ、寝息をスースーとたて寝てしまっていた。
それもそうか――。
下庭にも花街での生活で慣れないことばかりで、巻き込まれて。体力を使う剣舞も毎日舞って。そして気を張って情報収集。疲れないはずがない。
白蕾を見ていたはずなのに、思ってやることもできない小さい男だった、か――。
いつか離れていく。
そんな気がしてならない妓女は隣で穏やかに眠りについている。俺の気も知らず。
晴晴「白蕾……おやすみ」
白蕾をこの6本の指の手で撫でる。
まあ、いい。元々利用し合う仲だったはず。
この温かい時間をくれた。十分だろ。
小葉「――晴晴!もうとっくに時間は過ぎてるよ!白蕾も早く追い出さない――か……」
――2人仲良く目を閉じ、そこには少年少女が眠りに着いていた。
早く大人にならざるを得なかった2人は同じ夢を見ているのか。この寒空の下、朝日に照らされこの空間だけは温かい。
小葉「――ったく、仕方ないね。晴晴、後で延長料もらうからね」
布団をかけなおし、部屋を後にする――。




