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終わりと始まりの花【本編】  作者: はな
白蕾【花街編】

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杨鈴


 あの紫の落簪るぉざんが灰となってどれだけ時間が経ったのか――。

 ずっと鏡の向こうにある灰で焼けた自分の顔をじっと見ていた。

 晴晴しんしん様も小葉しょうよう様もまるであの「花」ならこの灰を受け入れることができると。


 受け入れる――?

 そうだったのね。


 私は過去を消した。

 あの花は過去を受け入れたのね――。


 ようやく理解し、立ち上がることができた。

 この灰で焼けた跡は痣となり、いつか薄れていく。それを受け入れる。

 私にはまだ受け入れ方が分からない。


 あの「花」はどうやったの――?

 それともまだもがいているの――?


 あの花も同じ人間だもの。

 私だって――。

 なんて泥臭い花なの――(笑)

 

 この小葉館の内庭には杨鈴が太陽を静かに見上げていた。

 そうね。杨鈴やんりんは今までの自分を受け入れる力があったから朱雀と呼ばれるほどの天妓三姫だったのね。


 高光がぉふぁん杨鈴やんりん、肌が焼けてしまいますよ」

 杨鈴やんりん高光がぉふぁん、ありがとう」


 手の先は自分のお腹にあてていた杨鈴やんりんの顔は穏やか。

 母親の顔だ――。

 私の母親もこのようにお腹の中の私を包んでいてくれた長い時間があったのね――。

 杨鈴やんりんのこの顔を見て、私の心も温かい――。

 まるで自分の家族が増えるような。

 

 私は晴晴しんしん様を見ていたのに「家族になる」そんな未来を見えていなかった――。

 これを経験しなければ分からないのは私も一人の人間なのね。


 高光がぉふぁん「――もう落簪るぉざんを取らなでください。杨鈴やんりん


 杨鈴やんりんの懐妊についてはまだ極秘――。

 それを知っているのは帳簿を管理している女将、補佐をしている司翠すぅすい杨鈴やんりんの子妓一人。


 孤高の天妓三姫の杨鈴やんりんの目は太陽の陽を浴びる。


 杨鈴やんりん「そうね、もう落簪るぉざんを取る必要ないですね」


 杨鈴やんりんは身請けをしてもらうと女将が言っていた。

 ということは杨鈴やんりんの5つの落簪るぉざんは決まっている?身請けの相手も?

 となれば杨鈴やんりんが静かに思い続けてきた相手もその5つの落簪やんりんの中に入っているはず――。

 もう妓女として過ごさなくていい。これから幸せになっていい。

 杨鈴には嫉妬の気持ちが湧いてこない。頑張ってきたこと私も知っているから――。


 高光がぉふぁん杨鈴やんりん、お疲れ様」


 この顔を見て、杨鈴やんりんのようにやり遂げ、幸せが待っているのかもしれない。

 妓女としてでも、天妓三姫でもなく、一人の女として、母として杨鈴やんりんは私の目の前で輝いて見えた。


 白蕾への嫌がらせ、札の操作、晴晴への執着。それら全てが、妓楼の信用を、自分の価値を削っていった。

 今になってずしりと胸に響いた――。

 

 夜の街でしか輝くことのできない女ではなく、杨鈴はどこでも輝くことの許される女になっている。

 もう、迷ってはいけない。

 嫉妬や不安に振り回される自分は、今日で終わりにしなければ自分もこの人のようになれない。

 瞳を開けた高光の顔には、かつての“天妓・高光とは違う、凛とした光が宿り美しい――。


 小葉しょうよう杨鈴やんりん、体調はどうだい?」

 杨鈴やんりん小葉しょうよう様、おかげさまで元気に過ごしております」


 ――この子もまた静かに強く愛に飢えた女の子。

 小葉館の「女王」の仮面の下に、誇りを失わないための鎧はとても強かった。

 

 杨鈴は上官の顔の美しい妾腹の娘として生まれた。

 正妻は妾の顔によく似た杨鈴やんりんをとても憎み、家を追われ、妓楼へ売られたのだ。

 幼い頃から貴族の娘が「泣けば価値が下がる」と叩き込まれ、感情を顔に出すことを禁じられて育った。

 小葉館では淡々と稽古を詰み、杨鈴やんりんが初めて舞台へ上がった日は「朱雀が舞い降りた」と拍手が鳴り止まず、踊りと歌で頂点に上り詰め、あっという間に「天妓」として名を馳せる。

 先にも、後にもこんなことはないだろうね――。


 でもあの子が一人になったときだけ、髪を下ろして誰にも見せない涙を流している。

 その涙に気がつける男はいないのか――。


 そんな子へついに5つの落簪るぉざんを絞らなくてはいけない日が来た――。

 

 天妓三姫の杨鈴やんりんは見受けする人物を自ら選ぶことができる。

 

 が――。

 金を払い堕胎させることを選んだ落簪るぉざん人物から言われる可能性もある。

 これが一番恐ろしい――。

 堕胎をすることでさえも母親としては辛い選択になり、その男に必要ないものだと言わることとなる。

 今流行りの梅毒を貰わなかっただけでも幸福な妓女であるけど、もし堕胎が失敗してしまえば私のように子を授かることができなくなる――。

 

 杨鈴やんりんが妊娠によって立場が揺らぐ可能性も考慮してあげたい。

 今まで「天妓」でいられたのは、美と力と計算があったから。

 父が誰かによって、人生が一変する。計算ではどうにもならないことに直面している。

 

 私が上客の中から落簪るぉざんを5つ選び、杨鈴やんりんが最後に選ぶ男が一瞬で人生を決めてしまうようなものだ。

 杨鈴やんりんのことを見受けしてくれそうな人物を私が選んでおく必要もある。

 

 感情や行動が抑えられない高光がぉふぁんと、自分の経験値を過信してきている司翠すぅすいを止められる人物が居なくなる……のも心配事の1つである――。

 小葉館の羽振も少し考えていかなければなくなるだろう。次を育てていなかった私にも責任があることだが。


 白蕾ふぁんれいが香膳での時間稼ぎで剣舞を舞ってくれるようになってからは下級妓女たちの出番も増え、その子達にも客がつくようになってきているが、まだ時間が欲しい――。


 杨鈴やんりん落簪るぉざんにあの男を入れるか――。

 ここ数日頭が割れてしまいそうだよ――。


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