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終わりと始まりの花【本編】  作者: はな
白蕾【花街編】

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湯殿


 小葉館の廊下は長い。

 それぞれの妓女の部屋から漏れてくる灯りが廊下と晴晴しんしんの顔を照らし、その顔は真っ直ぐに前を向いていて何を考えているのか――。

 

 白蕾ふぁんれい「――晴晴しんしん様、自分で歩けます」

 晴晴しんしん「歩いて今度は何するつもりだ?(笑)また豚にその体見せるつもりか?」

 白蕾ふぁんれい「――でも多分、あっちからは見えてなかったと思います」

 晴晴しんしん「多分か」

 白蕾ふぁんれい「でも結果成功したので良いでしょう?」

 晴晴しんしん「危ない橋が好きらしいな」

 白蕾ふぁんれい「でも結果は良かったかと――(笑)」


 白蕾ふぁんれいは少女のように晴晴しんしんの胸の中で笑う。


 晴晴しんしん「死んでからしか気が付かねーのか。馬鹿か」

 

 この顔を俺は見ることができない――。見てしまえば――。

 

 客と妓女の関係だということを重々理解している。理解しているからこそ白蕾は俺と夜話し続ける。

 妓女としてのこの女が仮面を外すことはないと分かっている――。

 

 「本当の姿」を魅せる時は俺が知らない顔だ。

 忘れられない男がいると泣いた夜も、時より見せる覚悟や自信が揺らいだ時、剣舞を舞っているときの白蕾はお面をしていてどんな顔をしているのか分からない。


 たまに、たまにこうやって少女に戻る。

 

 この顔を「红京ほんじん」という男は見てきたのだろう。

 変わった強い女だと興味を持って近づいてみれば、人間味あふれるただの少女だった――。


 白蕾ふぁんれい「――晴晴しんしん……どうしたの?」

 晴晴しんしん「早く体を洗え」


 湯殿に到着して晴晴しんしんはゆっくりと白蕾ふぁんれいを下ろす。


 白蕾ふぁんれい晴晴しんしん様どうして体を洗うの?」

 晴晴しんしん「6本指に触れられた体は――」


 白蕾ふぁんれいはその瞬間と晴晴しんしんの両頬を叩く。

 今日の白蕾ふぁんれいはどこか幼い。

 そして少し声が震えている。恐怖で妓女の仮面を被れなくなったか――。

 

 晴晴しんしん「痛いだろ」

 白蕾ふぁんれい「――晴晴しんしん様の手は人よりも多くの人を支えることができるように神様が付けてくれたもの!怒りますよ!」

 晴晴しんしん「もう怒ってるだろ、それ」

 白蕾ふぁんれい「あ――。うん、そうだね――(笑)ごめんなさい」

 晴晴しんしん「はぁ〜、下庭での放浪も無計画、妓楼での情報収取の方法も無計画。あれを懲らしめるのも無計画。お転婆もほどほどにしろ」

 白蕾ふぁんれい「――そうですね」


 白蕾ふぁんれいを隠していた黒と紫の衣を俺に返し、長い髪をまとめる。

 元気だった白蕾ふぁんれいは静かに湯殿に入る準備を始める。


 晴晴「なんだ今度は」

 白蕾「――いえ。手伝ってくださるんですか?」

 

 白い衣を肩まで下し、求めるように見上げる――。

 

 あぁ――。

 妓女の顔に戻ってしまった。

 

 なんだ――。

 言葉は間違えていないはずだ。また突き刺さる――。

 

 红京ほんじんという男もそのようなことでも言っていたのか?。

 ということは気にかけていたということか?もう分かった。


 分かったからその男から離れてくれ――。

 

 あぁ、そうか――。

 あの妖麗を俺が作ったんじゃない。


 白蕾が、女であることを赦せる男がいるからか――。

 あの姿を本当はその男に見せたかったんだろ。白蕾の花は最初から咲く場所を決めていたのか。


 晴晴しんしん红京ほんじんに会いたいのか――」


 そんなことを聞きたかったのではない。

 その答えを聞くのは恐ろしくて仕方がない。

 聞きたくない。


 白蕾ふぁんれい「――湯に浸かってきます、少々お待ちを」


 俺に背を向けて白い湯気の立ち上る湯殿に入っていく。

 白蕾は聞かなかったことにしてくれたのか、それとも声にならないほどの感情なのか――。

 

 あぁ――。

 白蕾ふぁんれいが消えそうだ。

 近くに、いつもそこにいたはず。だけど湯気のように掴めない。

 俺の情けない声もこの湯気に消えて行く――。


 晴晴しんしん「――白蕾ふぁんれい……」


 呼び止めたい、でも呼び止めることをできない女が「白蕾ふぁんれい」だとわかってしまった。

 金でいくら時間を費やそうとも勝てない。

 会ったことも、みたこともない男に勝てない。

 俺はどうすればいいんだ。どうしたいんだ――。


 白蕾ふぁんれい「――そんなに今さっきの変でした?いい作戦だったと思います」


 戯けてタオルで体を隠したまま振り返る。


 晴晴しんしん「――」


 声も出ない。否定も、肯定もできない――。

 花街で多くの男たちが狂ったように妓女に金を払い、落簪を取り合い。

 馬鹿らしいと上から見ていたつもりだった。


 「心を奪われる」ことを俺は知らなかった。

 湯気の中に俺の花が立っている。


 白蕾から眼が離せない。その目だけは冴え冴えとしている。

 

 静かに体を隠し、黙って桶に湯をくみ、肩から静かに湯をかけた。

 湯が床に滴り落ちていく音が響き、時間が過ぎて行く。


 あんないい女にできる男はどんな奴なんだ――。


 小葉しょうよう白蕾ふぁんれい、連れてきたよ」


 女将は顰めっ面のまま湯殿へあの番台に居た子妓を投げ入れた。

 落簪るぉざんの改ざんを高光がぉふぁんに頼まれたからと言って禁忌をおかしてしまった。

 結果、小葉館の信用も失った。ここまで怒られてしまっても仕方ないのも事実だ。


 「ふぁ、白蕾ふぁんれい様!すいません!すいません……!お許しを!」


 子妓は涙が止まらず濡れた湯殿の床に這いつくばって頭を下げた。


 白蕾ふぁんれい「――女将、あれはあたしがやったことです。――怖い思いをさせてしまってごめんなさいね」


 白蕾ふぁんれいは湯殿から上がり、水の垂れる手で子妓の頭を優しく撫でる――。

 

 あの文斗うぇんどぅという男は傷つけるだけではなく、命さえも奪うような力任せの男であること。

 その子妓もよく分かっていた。だからこそ怖かったのだろう。

 自分のしてしまたことで、白蕾ふぁんれいがどのような仕打ち似合うか考えることが。

 

 小葉しょうよう「――あんたが怒らなきゃ、私も怒れないだろう」

 

 女将は呆気に取られていた。

 他の妓女ならこの子妓に折檻を繰り返すか、蹴り飛ばすか、湯に落とすか。

 自分が怖い思いをし、プライドも、立場も捨てあの暴客と過ごすことになったのに。

 赦せるはずがない――。


 子妓は白蕾ふぁんれいの赦しに驚き、安堵し声を上げ涙が流れていく。

 晴晴しんしんは煙管を咥えながら鼻で笑う。


 白蕾ふぁんれい「あたしが止めたいだけ。そうすればこの子は次痛みつける側にならないから、そうよね?」


 まだ濡れた体で子妓を抱きしめ、背中を摩り続ける。

 一息き、女将も安心したのか肩の力を抜いた。


 小葉しょうよう晴晴しんしんはあの子をどこまで知ってる?あの子は何者なんだい?」

 晴晴しんしん「俺は知らねー」

 小葉しょうよう「あんなに毎日話し込んでもわかんねーもんかね」

 晴晴しんしん「変な女だろ?(笑)」


 少し自慢げに笑う――。


 小葉しょうよう「――あんたのそれ使い物にならないんじゃ無かったのかい?」

 晴晴しんしん「それも知らねー。あいつ次第だ」


 晴晴はからかい半分、本気半分、白蕾の体を引いて白蕾の体を上から、下からジロジロと目を動かす。


 晴晴しんしん「ふっ――」

 白蕾ふぁんれい「貧相ですいませんね……!」


 真っ赤な顔をする白蕾ふぁんれいを見て、鼻で笑う晴晴しんしんに背中を向けてまた怒る。


 晴晴しんしん白蕾ふぁんれいであるなら、それで――」


 晴晴しんしん白蕾ふぁんれいの頭を撫でる。

 晴晴しんしんもそのままで良い、と――。


 屋根裏部屋のは演技だったっていうのかい?(笑)

 どっちも演者だね。いや、こっちは違うか(笑)

 

 まるで子犬に恋してしまった狼だね(笑)

 完全にスイッチ入ってしまってんじゃないか――。はぁ――(笑)

 

 小葉しょうよう「湯殿では辞めてくれよ」

 晴晴しんしん「はいはい」


 ため息をつきながら晴晴しんしんは顔を撫でた手を滑らせて白蕾ふぁんれいの体をなぞって遊ぶ――。


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