妖麗な夜の花
「――白蕾様」
晴晴と過ごしている金階へ、何も知らない子妓が「文斗」の落簪を持ちやってくる。
白蕾「はい、今行きます」
晴晴「いいことでもあったのか?」
白蕾「はい、そうです。晴晴様も楽しんでくださいね」
晴晴様はどうせあの世に行く情報得るため香膳を回るんだろう。
「はいはい」と、酒を飲み続ける。
「今日、文斗様は誰の夜を買ったのかしら?」
「司翠様じゃない?」
「司翠様は他のお客様が入っていたわよ?」
「では今日は高光様ね」
「かわいそうに……」
金階の廊下のほうで妓女たちがざわざわと今日も騒がしく通り過ぎる。
金階の中央の席で、司翠様と高光様に付き添われながら真っ赤な顔だ。
この二人は文斗様にあたしの落簪を買わせた。
夜が荒く、妓女の肌を平気で噛み、泣かせた数知れず。
普通の妓女なら「選ばれた」瞬間に怯え、禿が裏で涙ぐむ相手。
晴晴様のいつもの額であれば高光様を買うことはできない。
その金は誰からのものか――。
高光「――文斗様、今宵は剣舞の妓女がお相手いたします。まだお通しのない妓女です」
お通しとはまだ誰とも体の関係を持っていない妓女であること。
これは妓楼では貴重であり、客にも好まれる。
文斗は上機嫌で高光に「さすがよくわかってる!あの剣舞の妓女はお通しなかったのか!いいなっ」と金を渡す。
晴晴「――ふっ(笑)そう言うことか」
纱帘の先には黒と紫の似合う男が一人酒を飲んでいた。
もうあの女は文斗様のものになる日が来た。花街に染まる日が来た。
高光「晴晴様」
晴晴「俺はお前を買えるほどの金は出してないぞ?」
高光「最近、剣舞の女の夜を買おうと落簪をかけているはずなのにどうして誰も晴晴様以外にあの女を買えないのでしょう?」
晴晴「俺がこの夜のこと何も知らないとでも思ってんのか?(笑)」
晴晴は高光の頬を6本指の手で掴む。
晴晴「分かったお前を買ってやろう。着いて来い――」
晴晴様は赤い階段のほうではなく、あの暗い廊下を抜けた先の階段。
埃臭い奥の階段を使っているのは――。
高光「――文斗様っ!」
酔っ払った文斗は暗い階段を登ることができなかったのか、酔ったまま眠ってしまっている。
晴晴「この豚をお前があの部屋まで連れて来い」
高光「そんなこと私にはできません」
晴晴「あいつができねーことをお前がやってみろよ(笑)」
高光「そうすればいいのですね――そうすれば――」
晴晴「お前は分かってんだろ。俺は強い女が好きなことくらい」
暗い階段を晴晴は登っていく――。
手元に残る蝋燭の火がその背中を揺らし、文斗様の大きな体を照らし続ける。
夜を拒む晴晴様はあの屋根裏部屋で本当に話をしているだけなの?
あの女はこの妓楼で独り。
私は天妓三姫という地位を持っているの――。
あの屋根裏部屋で見せつけてあげるの――。
晴晴様は今日、私を買うと言った。
あの女の落簪はこの文斗様。
妓女たちを連れてあの女に勝つため、暗い階段の奥の扉を開ける――。
天妓三姫の部屋のように豪華絢爛でも、華やかな家具が並んでいるわけでもない。
ただそこに寝台と、窓から入ってくる月の光に照らされる二人。
晴晴は白蕾を自分の上に乗せ、白の衣は透けて輝いて見える――。
花のような淡い香の匂いが鼻の先を燻る――。
文斗「おいっ、俺が今日の客だろう?」
白蕾「――お客様、ここはお静かにお願いします」
酔いの冷めてきた文斗様もお怒りの様子。
妓女たちも二人を厳しい視線を向ける。
異様な事態に気が付いた女将も慌てて階段を登ってくる。
白蕾は晴晴の首に細く白い手を衣の中からスルスルと伸ばし、胸元に顔を寄せる。
そして瞼をゆっくりと開け振り返ってこちらを見た――。
――「妖麗」
その言葉でしか言い表すことしかできない――。
晴晴「女将、落簪の管理が最近甘い。困るぞ」
晴晴は白蕾の首筋を長い舌で味わいながら、耳をカプリと噛んだ。
その様子を見た妓女たちはその二人を見て目を思わず隠す――。
小葉「晴晴――」
あれだけ騒いでいた文斗は動けなくなっていた。
晴晴「白蕾はもう俺以外で満足できるか――そちらの方はこの女を満足させることができるか?」
晴晴は文斗をわかりやすく鼻で笑う。
白蕾は晴晴に体を預け続け、流れ落ちる衣から見える肩は透明の宝石のように光る。完全に晴晴の女になっていることを目に焼き付けさせている――。
文斗「どれだけお前に自信があろうと――!その6本の指がお前を否定する。その下級妓女も普通を欲しがるだろ!」
白蕾はその言葉を耳にすると力が入る。
その怒りの力を察した晴晴はさらに強く抱きしめ、肩を加えたまま文斗を紫の目で睨む――。
晴晴「そちら様のほうが、俺は普通に見えねーけど」
文斗「まぁ、その下級妓女も普通じゃなんだろ?!(笑)宮中から下げられた不必要と烙印押された女なんだろ?!そんな女がお通しなく過ごせると思ってるのも間違いだな!天妓三姫のように賢く生きれねー女だから宮中に捨てられるんだ!次は花街から捨てられ、今度は汚い男に飢えて、男に媚びるしかなかったと最後に気が付くんだろ?!バカな女――」
白蕾「晴晴、少し時間をください。――下庭の男が汚いのですか?この方はあなたたちの食を、生を支える職人ですよ」
白蕾は晴晴の額にキスを落とすと、ふわりと立ち上がり、晴晴の大きな手からすり抜けていく。晴晴は面白がっているのか、白蕾から目が離せないのか――。
小葉「白蕾!これ以上は――!」
白蕾「晴晴様の夜を越えられるのであればお答えさせてください――」
衣の帯を緩めたまま、白蕾が一歩ずつ歩むと衣が1つずつ肩から落ちていく――。
白蕾は気にすることなく(うぇんどぅ)様のところに進んでいく。
だがこちらのほうからは月の光が白蕾を強く照らし、衣が体の周りだけで光りよく見えない――。
まるで白蕾自身が光っているようだ――。
前に立ち塞がると文斗あまりの迫力に尻餅を付き、白蕾は見下ろす――。
その姿は――。
文斗「夜の花だ――」
文斗はそう呟くと自身の下半身を押さえた。
ただ歩いてきただけの白蕾に文斗は下半身が情けなくも終わる――。
怒りでもない、焦りでもない。ただそれを受け入れるしかない男――。
白蕾「――これでお相手が済みましたでしょう?」
つややかな声で呟き、顎を持つと、文斗は声にならない声を発し、頷くしかなかった。
後ろから晴晴は白蕾の衣を手繰りあげ、乱れた衣を整える。
その「花」を抱き上げる――。
どこか女らしくないと思っていた小葉館のものたちもその様子の白蕾に見入る。
強烈な「女」の姿の白蕾だった。
花街一の妓楼小葉館のものたちもどうすればこのような完成系に辿り着くのか誰も理解できない。
晴晴という男が白蕾を(ふぁんれい)がこのような「女」にしたのか――?
それとも白蕾が夜王を「男」にしてしまったのか――?
晴晴「女将、落簪の管理怠るな。湯殿を借りる」
落簪の管理ができていない女将に責任があると女将を睨みつける。
そして高光や見ていた他の妓女たちには目もくれず、白蕾を自分の体に隠すようにその場を立ち去る――。
この埃臭く、暗い部屋には情けない男と、言葉を失った女たちが残された――。
やっと100話までやってくることができました!
小説を執筆することも、「小説家になろう」を使うことも初めてで、右往左往するスタートでした。
この2か月を走り抜けることができたのは間違いなく皆さまのおかげです。
ここまで一人の少女を皆様見届けてくださって本当にありがとうございます!
あたしのわがままなお願いではありますが、お時間と余裕のある方、評価等していただけると嬉しいです。今度の作業の参考にし、また100話以降の力にもなります。
これからも一人の少女を見守ってくださると嬉しいです。
はな




