表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌の仔猫

学校帰りの夕方、公民館で過ごしていると

「周りを見回しても親らしき影もなく」「このままなら保健所に」 そう、大人達の声が聞こえてしまった。私は考える事なんて出来なくて、とにかく必死で、手に持ってた学校鞄をカゴ代わりに、その小さな身体を抱えて帰路につく。


「あぁ〜……なんて言い訳しよう……」


ダンボールに適当なタオルを敷いた簡易ハウスでスヤスヤと睡る仔猫を見つめる。


怒られるだろうな。

でも……あそこで、見て見ぬふりなんて出来なかった。聞いてしまったんだから。


「保健所になんて……」

絶対に行かせない。


晩御飯の時間

私は、緊張しながら準備をすませていく。

大丈夫、大丈夫。おちついて喋ればいい。


「今日は学校どうだったの?」


「いつも通りだったよ」


「確か、今日は夕方に公民館へ行くっていってたわね」


「うん。ちょっと、調べながら宿題をしたくて。」


「それで……?他に何かなかった?」


「……」


「猫」


ドクン、と心臓が音を立てる。


「あなた、分かってるでしょう?簡単なことじゃないのよ。なのに……」


「だって!!……だって、あのままなら、お迎えがないなら保健所だって、そう聞いちゃった……から……」


目を開いて間もないであろう、白、黒、茶の毛が斑に生えた仔猫。

片手に乗る、小さな小さな生命。


「だから、お願い。」


震える声で、精一杯の言葉を出す。

数秒の沈黙が流れ、母は溜息をつきながら私の顔を見る


「……わかった。」


「っ!!」


私は安堵と嬉しさで涙を溢した


「ありがとう!」


ご飯の途中だということを忘れて自分の部屋に駆け上がり、タオルの上でヨチヨチと歩く仔猫を優しく抱いて母の元へ戻った。


「その……勝手に連れて帰ってごめんなさい」


「いいのよ。それに……まだ生まれて間もないのね、この子」


母は、大人しく抱かれている仔猫を撫でながら話し始めた。


「私もね、あなたと同じぐらいの歳の時に仔猫を連れて帰った事があるの。見て見ぬふりなんて出来なくて……今のあなたと同じね」


クスッと笑って私の頭を撫でる


「別れは辛いわよ」


「うん」


私は母にもう一度 ありがとう と言って抱きつき、仔猫を簡易ハウスへ戻した。


私はきっと、この出会いを忘れないだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ