表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

第八話:無防備

 牢屋にいた騎士団員によると、この奥の部屋にこのアジトのリーダーがいるらしい。



 黒ずんだ鉄扉を魔力を込めて蹴破ると、尻餅をついて戦慄した顔を向ける男がいた。

 見張りのやつらと同じ服装、それなりに魔力保有量もあるみたいだからこいつがあの悪趣味なゴーレムを操っていた訳だ。


 男が震えた怒鳴り声を出す。


「なっなんだ貴様ァッ! なんでまだピンピンしているッ!」



 この腰抜けがカルヴァドル教団のトップか? 密輸入だとか邪神降臨だとか言ってた割には、随分みっともない気もするが。


 ま、()()()わかることだ。






 他の教団員も捕らえて裏取りしたが、あの男はカルヴァドル教団の教祖などではなく、あくまで貿易都市キラドを管轄する一幹部らしい。


 にも関わらず、教団本部の場所は知らないとか抜かしやがった。

 ふざけた野郎だ。


 あと、眉唾物だが教団は邪神降臨のために勇者の命を狙っていて、今回の騎士団の件は全て勇者を誘き寄せるために引き起こしたものらしい。


 非人道的なゴーレムも、あえて一人人質を残したのも、ゴーレムに仕掛けた魔力吸収の魔法を勇者に発動させるためのようだ。


 まぁ、勇者が仲間を引き連れてくることは想定してなかったみたいだけど。



「そこの騎士団員。お前は一人で歩けるか?」


 この人質も口封じのため殺しておくか悩んだが、クレアが悲しむだろうからやめた。

 が、一応口止めはしとく。


 拷問自体を見られた訳じゃないし、流石に命の恩人との約束を反故にはしないだろう。



 気を失ったクレアを慎重に背負う。

 背中にふわふわしたものが当たり、少し胸の鼓動が強くなる。



「……チェーンメイルぐらい着ればいいのに」


 若干の背徳感を誤魔化す為にぼそっと呟いてみるが、クレアは聞いていない。


 ……まぁ、命を救った対価ってことにしよう。







 領主に話は付けてきた。


 残りの調査や死体の回収は向こうでやってくれるらしい。

 あと、背教団体の制圧に対する報酬として金を幾ばくか出された。


 別に向こうから頼まれた訳ではないのだが、一応貰えるものは貰っておいた。



 まだクレアは目を覚まさない。


 魔力をほぼ全て吸収されたなら丸一日はこのままか?


 魔力を吸収して再度結晶化したゴーレムの核も、それを破壊したからといってクレアに魔力が返還される訳じゃないだろう。



 領主から貰った金で、この貿易都市で一番高級な宿を取った。


 デカくてふかふかそうなベッドの上にクレアを横たえる。


 ……可愛い寝顔だ。


 柔らかそうなほっぺたや唇がぷっくりしている。

 触ってみたい気持ちをなんとか自制する。


 正直、この状態のクレアを殺すのはちょっと考えられない。


 奇しくもあの聖女の言う通りの状況になっているのは腹立たしいけれども……


 これはハプニングだからノーカンだ。



 あまりこの魔法は使ったことないが……



「『魔力譲渡(トランスミッション)』」


 俺の手の平から水色の光が溢れクレアに注がれる。


 暫く魔力を注ぎ続けると、クレアが息小さくを漏らした。


 程なくしてクレアが薄目を開け、寝ぼけたままゆっくり上体を起こした。


 視線を見慣れないベッドや壁に向け、最後に俺を視認すると、びっくりして何度か目を瞬いた。



「おはよう、クレア。体調は?」


 クレアが緋色の双眸をぼぅーっと俺の顔に注ぐと、ようやく状況を理解したのか向日葵みたいな微笑みを浮かべた。



「アゼルが助けてくれたの? ありがとっ」


 そういって俺の腕を引っ張ると、頬に優しく唇をつけて、やっぱり恥ずかしいのかすぐに悪戯っぽく笑った。


 脳が融けそうだった。


「クレア……?」


 キスをされた頬を指の腹で確かめてみるが、何も残っていない。

 呆然してクレアを眺める。



 クレアは斜め下に顔を逸らして、すぐ赤らめた顔を見せた。


「だ、誰にでもする訳じゃないよ……?」



 キュン死した。







 間違えてツインルームですらなく、ダブルルームをチェックインしていたことに気づいた。


 道理でベッドが妙に大きかったんだ。


 クレアは一緒でもいいよ、とか軽口を叩いていたが、ちょっと俺がなにしでかすかわからないので、シングルを追加でチェックインして、昨日はそっちで寝た。


 それにしても、多少俺が好意的にしたからって、そそっかしいというか、危うい奴というか……


「……本気にしちゃったらどうすんだよ……」


 それとも、本気にしちゃっても良いってことか……?


 そこまで考えて、頭をブンブン横に振った。


 もし仮に、万が一あっちが俺に好意があったとしても、だ。

 俺は色欲なんかに溺れちゃいけないんだ。


 そう、そうなのだ。

 あと一歩でもう戻れなくなっていた。

 危ない危ない。



 身支度をして、ほんとにちょっとだけ鏡の前で髪型をいじって、クレアの部屋の扉を叩いた。


 いいよーとクレアの明るい声が聞こえたので扉を開けたら、クレアが着替えをしている途中だった。


 あれ? 俺ちゃんとノックしたよな?



 速攻扉を閉めた。

 確かに肌着ぐらいは着ていたが、だからって着替え途中に男を部屋に入れるか? 普通。


 無防備にも程があるだろ!



「アゼルー? アゼルなら私気にしないよー?」


 ドア越しに声が聞こえる。


 いや、俺が気にすんだよッ!



 まったく、思わせぶりな勇者だ。

応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ