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第六話:地下水道

 馬を駆ること一週間。

 ようやく貿易都市キラドに着いた。


 クレアが乗馬したことがないと言い出すので、仕方なく彼女を俺の前に座らせ、後ろから抱きかかえるような体勢で馬を走らせた。


 左右に揺れる高めに結えられた白銀の髪の奥で魅惑的な(うなじ)が見え隠れするのに幾度となく気が飛びそうになったが、すぐに快走する馬の振動で正気に戻った。




「見てよアゼル! あの船凄くおっきいよ!」


 大通りの奥、この都市の要である港湾には遥か遠くの水平線を覆い隠すかの如く巨大な貨物船が停泊している。


 クレアが貨物船を指差しながら俺の袖を引っ張る。


「まぁ落ち着け。まずは情報収集からだ。ここの領主に話を聞く。勇者の名の下、教会を通せばコンタクトを取れるはずだ」


 幸い俺の顔自体は教会側にも割れていない。

 俺を襲撃してきたやつらは全員殺したし。



 露店商や市場が集まり栄えている商店街を外れた所に、領主の屋敷があった。

 屋敷といってもこの貿易都市の繁栄具合から、もっと栄華を極めたような大豪邸を想像していたのでその屋敷が教会の建物と同じぐらいの大きさで少し拍子抜けしたが。


 とはいえ、流石に応接室に置かれたインテリアは上品で落ち着きがあり優雅さを感じさせる一級品だ。



「教会から話は伺っております、勇者様方。この街の地下水道に巣食う背教団体、彼らはカルヴァドル教団と名乗っています。この国では禁止されている薬物や奴隷の密輸入にも関与しているようで、以前騎士団を派遣したのですが、却って撃退されてしまいました」


 茶髪で彫りが深い顔の男性。

 渋さと活力を併せ持ちかなり若々しさを感じるが、領主に相応しい貫禄も考慮すると40代後半ぐらいだろう。



「奴隷……許せません! 私たちが制圧します!」


「待て。騎士団が返り討ちだと? 背教団体の制圧に駆り出された騎士団が……?」


 聖都のあるファーガン王国はフィル・ナプラム神教を国教とする宗教国家だ。

 邪神に傅く悪辣な背教団体の弾圧は最重要事項、当然それに派遣される騎士団も精鋭揃いのはず。


 狭い地下水道での戦闘に慣れていなかったとしても、ただの邪教徒が撃退できるような相手ではない。



「ええ。一人だけ逃げ帰ってくることができたのですが、どうやら地下水道の至る所に侵入者を撃退するためのトラップが仕掛けられているようです」


 トラップ……物理的な攻撃が飛んでくるなら作動してからでも対処できるが、設置型の魔法や魔導具を用いた罠だと厄介だな。


「判明しているトラップの情報はあるか?」


「少なくとも、致死性の罠ではないようです。恐らく、捕縛した人間をなんらかの儀式の生贄に捧げるためでしょう」


 ……生贄とするために……?


 いや、カルヴァドル教団は奴隷の密輸入も行っているのだから、ただ生きている人間が必要なら奴隷を生贄に捧げるだろう。


 致死性の罠でないのは団員が間違えて引っ掛かったときの保険か?

 だとしたら間抜け過ぎないか?


 大体、有象無象の命をいくつ集めたところで、邪神なんか召喚できないだろ。



「怪しいな……ここは一旦入念な下調べを——」


「生贄ですって!? アゼル、これは一刻を争うわ。今すぐ助けに行かないと!」



 やれやれ。







 クレアが小さな火球を照明代わりに浮遊させる。


 複雑に入り組んだ地下水道の地図を貰ったが、当然邪教徒の仕掛けたトラップは載っていない。


 水路を挟んで横幅一メートルちょいくらいの通路が左右の壁沿いに続き、歩いても歩いても景色の変化に乏しいので分岐が無数にあるような気さえしてくる。


 てか今歩いてるとこ、増水したら下水でひたひたになるくね……?

 頼むから今だけは雨降るなよ……



 幸い、外との通気性が良いのか臭いはそこまで気にならない。

 臭かったらこんなとこアジトにしないし。



「こんな所に本当に人がいるの? こんな狭さじゃ集会も儀式とやらもできないよ」


 クレアの声が地下水道に反響する。

 魔力探知できないなら、せめてもっと小さな話し声にしろよ……


 まぁ、確かにこんな所に大規模なアジトがあるとは思えないな。

 どっかに横穴でもくり抜いてるのか?



 暫く上流に向かって歩いていると、俺の魔力探知に異物が引っ掛かった。


「止まれ。……設置型の魔法だ。魔法陣は掩蔽されているようだな」


 慎重に近づき、魔法陣の術式効果を解析する。


 魔法陣は目視では確認できないよう隠匿した魔力で刻まれているが、トラップがあるとわかっていればそのごく僅かに漏れ出す無機質な魔力に反応するのは難しくない。

 慣れていれば、だけど。



「……魔法陣を踏んだ者の魔力を吸収して結晶化する効果か」


 結晶化した魔力は落ちていないから、まだ誰も引っ掛かっていないか、あるいは誰かが定期的に回収しているか。


 確かに致死性はないが……邪神召喚の儀式に必要な魔力の収集でもしているのだろうか。


 とてもじゃないが、効率的とは思えない。

 隠密性を重視するためか、一踏みごとの魔力の吸収量もそこまで多くないし……



「トラップがあるってことは、一応本拠地に近づいているみたいね」


「そうだな。念のため、俺は後方を見張ってるから。敵見つけてもすぐ攻撃しに突撃しちゃ駄目だぞ」



 声を潜め、体外に放出される魔力を極限まで抑える。


 ひんやりした隙間風が頬を撫でる。


 クレアが出した火の玉は最低限の光量で足元だけ照らして、足音を忍ばせながら進む。




 ……直線距離で三十メートル先、二人いる。


 手で前もって確認しておいた合図を送ると、クレアが静かに鯉口を切る。


 プレノミスの血族に伝わる聖剣テュラントの鮮やかな緋色の剣身が、鞘からこちらを覗くかのように光を放つ。


 その剣の紅は、撃ち倒した魔王の血を吸う程濃くなるという……怖すぎ。



 てかこいつ、人を斬ったことあるのか? あと尋問しないといけないから片方は殺さないで欲しいんだけど、伝えるの忘れてたなぁ……

応援よろしくお願いします!

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