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第十一話:アークライト家

 俺は二歳の時に親に捨てられた。

 どうやら、木箱に入れられて道端に置かれていたらしい。



 その俺を、当時14歳の少年レオニス・アークライトが拾い、アークライト家の養子にするよう両親に説得してくれた。


 アークライト家はサヴァール共和国の地に続く唯一の勇者の血族だったが、アークライト家の血筋から選ばれた勇者は、アークライト家初代当主だけ。


 つまり初代当主が血統関係なく女神の加護を得てから、その血筋からは勇者は輩出されていない。

 しかも、残るアークライトの血族は我が家のみだ。


 その事実に焦燥していたのは義父、つまりレオニスの父親だった。

 父はレオニスを勇者にするため、幼い頃から剣と魔法を教育を施した。


 勇者に選ばれるのは、基本的に15歳から25歳の若者。

 次の勇者選出が事実上ラストチャンスだった。


 アークライト家は剣術道場を経営していて、俺もよく兄の稽古を見学していた。


 他の門下生が帰った後も、夕食を食べた後も、俺と母が寝静まった後も、兄の稽古は続いた。


 まだ小さかった俺の頭を撫でる手は、いつも包帯が巻かれていた。



 俺が養子になって二年後、当時の勇者が魔王に敗れ、新たに女神の加護を賜る勇者が選ばれた——が、それは兄ではなかった。


 ライト・プレノミス。

 歴代で最も勇者を輩出しているプレノミスの血族。


 歴代で一人しか勇者がいないアークライトの血族とはまさしく対照的で、魔王討伐から帰還した英雄は、ファーガン王国の王女と婚約することも多く、地位も名誉も力でさえもその後塵を拝していた。


 ライトはプレノミスの血族でもかなり優秀で、必ず魔王を討伐すると嘱望されていた。



 最後の頼みの綱であった兄が勇者に選ばれず、それに追い討ちをかけるように一ヶ月後に母が急逝してしまい、それ以降父は酷く精神を病んでしまった。


 父が一人で経営していた道場は兄が引き継いだ。


 といっても、元いた門下生の多くは兄より年上で、その殆どが道場を去ってしまい自然と兄は俺に稽古を付けてくれることが多くなった。


 生活は豊かではなかったが、兄はなんとか道場を経営して俺と父を養ってくれた。



 そんな生活が八年ほど続き、魔族の侵攻が活発化してきたある日。


 サヴァール共和国に魔の手が伸びた。


 サヴァール共和国は小国で軍事力も乏しく、雪崩れ込む魔族に次々と壊滅させられた。


 そしてサヴァール共和国で随一の剣士であった父は、長年住んできた街を捨て、兄と俺を捨て、魔族の侵攻を聞きつけたその日の夜の内に誰にも告げずたった一人で家の駿馬を駆って逃げてしまった。



 父が俺らを見捨てたことに絶望している暇はなかった。


 馬もない状態で、最寄りの比較的安全な都市グランツまでは百キロメートル以上離れている。


 食糧はなく、水は兄が魔法で生成したものを飲んで、昼夜問わず俺と兄は走り続けた。



 しかし、グランツまで後数キロメートルという所で魔族に襲われてしまった。

 兄は俺を逃し、たった一人で魔族に立ち向かった。


 俺は必死に走った。

 兄を振り返ることもなく、既に足裏はボロボロだったが一心不乱に走り続け、グランツまで逃げた。



 兄は、俺にとって間違いなく唯一の勇者だった。


 その後、兄と再会することはなかった。









「……一応、聞いておく。レオニス・アークライトで間違いないか?」


 俺の義兄と思しき人物は、猟奇的な嗤い声を上げて肯定する。


「……クククッ、弟よ。まさかこんな所で再会することになろうとはな」


 なるほど。

 あの時俺を逃して魔族に立ち向かった後、兄も生き残っていたのか。



「……クレアを……その勇者を、どうするつもりだ?」


 レオニスはクレアの側にしゃがみ込み、その銀色の髪の一部を持ち上げる。

 サラサラな髪がはらりと手から溢れていく。


 銀色の髪と深紅の瞳は勇者プレノミスの血族の証だ。


「決まってるだろう……? 邪神をこのカスみたいな世界に降臨させて、全てを終わらせるのさッ!」


 目を極限まで見開き、何もない空中を呆然と眺めている。

 ……話し合いは無理だな。


 クレアの魔力浄化は発生している。

 恐らく、ただ魔法で眠らされているだけだ。


 腰にはアークライト家に伝わる秘剣レグナシアが下げられている。

 使い手の雷魔法の威力を増幅する効果を持つ剣だ。


 兄も俺も、攻撃魔法の中では雷属性が最も適性があった。


「……レオニス。最後に言い残すことはあるか」


 黒紫に閃く剣先を愚かな義兄に向ける。


 レオニスはその狂気で歪んだ顔に右手を当て、大仰に高笑いする。


「フハッ、ハハハハハハハァックククククッカカカカカカッ!!! 愚弟よ、口を慎めッ! 俺は今からこの世界を救う救世主なのだッ!!!」


 気にせず右足を踏み込み、一気に加速してレオニスの喉元に斬り掛かる。

 が、レオニスが振り抜いた剣にいなされる。


「おいおい、お前に剣を教えたのが誰か、もう忘れちまったのか?」


 俺の太刀筋は見切られているな。


 しかし、だ。


 残酷な話だが——



 勇者にも魔王にもなれなかった奴に、俺を倒すことはできない。

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