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推しロスしたので、ダンジョンから配信して人生をやり直します  作者: toratarou
第二部10話「やっぱり、配信は良い」
92/93

10−2

 まずシンが詠唱を始めた。呼応するように、リクが前に出た。

 それにニューが続いて、最後にサシャが走り出した。

 フロア中央のアルキスに向かって、最後の攻撃を始めた。


 今度は、さきほどの石柱とは違っていた。

 アルキスを中心に、床から黒く細長い腕のような触手が、床石を割って無数に生えてくる。

 先端に手がついたようなそれは、黒い粒子を撒き散らしながら束になってリクたちに襲いかかった。


 シンの古代魔術が炸裂して、束を切断するように黒い手を押しつぶす。

 しかし手は、ちぎれた断面からくびれながら再び這い出てきて、なおリクたちに向かってくる。


 それでもサシャは避けきれないと判断したものを切り捨て、ニューは進行を邪魔するものを叩き落とし、リクは合間を縫いながら、アルキスの方へ進んでいく。


 シンがもう一度詠唱をしようとしたその時。

 処理しきれなかった黒い手が、前から、横からとシンに襲いかかる。

 いくつかはかわしたが、数の多さに対処しきれず、手に掴まれそのまま地面に叩きつけられた。


 ニューが、行く手を阻む壁のように束になった手を打ち払ったのは三度目だった。

 その壁の向こうに、アルキスの姿が見える。


 目の前まで、あと少し。壁越しに見えたアルキスはなにかを呟いている。

 次の瞬間、地面から突き上げられた見えない力が、ニューの身体を宙へ放り出す。

 ニューは、獲物に群がるように伸びた黒い手に掴まれ、そのまま壁へ叩きつけられた。


 シンもニューも、立ち上がれない。

 残るは、サシャとリク。


 サシャが、リクの横を駆け抜けた。

 踏み込んだ、その足元に黒い手が絡みつく。

 体勢が崩れる。


 アルキスの視線が、サシャを捉えた。

 拳が、振り下ろされる。


「サ――」リクが言葉を発する間もない。


 サシャに、拳が迫る。


 しかしその直前、足を絡め取っていた黒い手を、サシャは短剣で切り払った。

 同時に、アルキスの一撃を身を翻してかわし、その勢いでアルキスへ短剣を斬り上げる。


 サシャの攻撃に合わせ、リクは反射的に距離を詰めた。


 短剣の切っ先がアルキスの体へ触れる。しかしその寸前、サシャの体は急に揺さぶられた。

 黒い手が横殴りにサシャを押し飛ばしていた。


「!」


 リクの拳が魔術障壁に阻まれる。弾かれたのと同時に、アルキスからの拳をもろに受けた。顔が左を向く。

 その視線の先に、黒い手に掴まれたサシャが見えた。

 どんどんアルキスから離れていくサシャが、顔を歪めながら、すくうように、大きく腕を振ったのが見えた。


 何か投げた。

 短剣だ。


 短剣が、一直線にアルキスへ飛んだ。


「っ……!」


 よろめく足に力をいれて、踏みとどまる。


 いまだ。この瞬間しかない。

 右手に力を込める。


 再びのアルキスの攻撃と、短剣が届く瞬間が、重なった。

 魔術障壁が、一瞬だけ消える。


 リクの拳がアルキスの顔面へとめり込んだ。

 圧縮された魔力を一気に解き放つ。

 マナチャで集められた魔力が、圧倒的な質量を伴ってアルキスへ叩き込まれた。


 衝撃でアルキスの体がわずかに浮く。


「き、さま……!」


 アルキスから魔力でリクを押し返そうとする力を感じる。

 ――させるものか。


 リクは前のめりになって、さらに力を込めた。


「……あぁあああ!」


 浮き上がったアルキスの体を、持ち上げるように。

 踏み込み、地面へと叩きつけた。


「――――」


 アルキスが何かを言った気がした。その声は聞こえなかった。


 爆ぜるような衝撃とともに、アルキスの体はくの字になって床へ沈み込む。

 床石が砕けて高く舞い上がり、二人の周囲の床に、蜘蛛の巣のようなひびが走る。


 薄く広がる土煙。パラパラと、砕けた石片の落ちる音がする。

 やがて煙の向こうから、浅く息をするリクが徐々に映し出されるまで、誰もが固唾をのんでその光景を見つめていた。


 その間にも、コメントが流れていく。


『……勝った?』

『終わった』

『倒した……?』


 注目は自然とアルキスへ向いた。床に倒れたその身体は、微動だにしない。


 やがて黒ずみ、炭のように変わっていく。白い亀裂が走り、砕けたかと思うと、塵になって消えた。


 少し遅れて、配信画面に別のコメントが流れる。


『ギルド配信で出てた変なモンスターが消えてる』


 リクは天を仰いで、ゆっくりと深呼吸した。

 そしてユズハたちの方を向いて、ようやく穏やかに笑ってみせる。


「……勝ったみたいだ」


 その言葉を皮切りに、コメントがどっと溢れた。


『倒したー!』

『うわあああああ!!』

『おめでとう!!』

『ほんとに勝ったんだ』


 コメントと同時に、マナチャもぽんぽんと音を立てて投げ込まれていく。

 ユズハはリクへと動きかけた体を踏みとどめて、カメラへ顔を向けた。目にはうっすらと涙が溜まっている。


「みんな……ありがとう……。勝てた、勝てたよ……!」


 画面の外から、ケイの声も聞こえてきた。


「よっしゃ、よかった、まじで!」


 安堵した空気の中、誰からともなくリクのそばへ歩み寄っていく。

 その少し離れた場所で、シンはアルキスがいた場所を覗き込んでいた。


「うん……もともとあまり期待はしてなかったけど、こうも跡形もなく消えてしまうと研究のしようがないな。あと、倒したという証拠が配信映像しかない」


「証拠、ですか」


 サシャが聞き返すのを、シンは「なんでもない」と言って立ち上がる。


「今話すことじゃないさ。とりあえず……どうやってここ出ようか」


 沈黙のあと、ケイが気の抜けた声を出す。


「そりゃあ、歩いて上に登る、でしょ」


「……やっぱり、そうなるよな」


 リクの呟きに、誰からともなく笑いが漏れた。


「じゃあ、みんな。配信、これで切るね……本当にありがとう……! でも、その前に」


 ユズハがリクに目配せする。カメラもそれにつられるように、リクをアップに映した。

 ユズハはマイクを持ったそぶりで拳をリクへ突き出し、


「リクさん、最後に。勝ったあとの、今の気持ちをお願いします!」


 と、深々と頭を下げた。


「え? …………気持ち?」


 リクは言葉に詰まった。こんなふうに、カメラのすぐ近くに一人で立ったことなど、これまでほとんどないに等しい。

 体はボロボロで、左腕はだらんと下がったまま。さっきアルキスに殴られたせいで口は切れ、頬も赤くなっている。

 いまさら大衆の視線を意識すると、何を言えばいいのかわからない。


 しばしの沈黙ののち、リクがどうにかひねり出したのは、


「……お、応援、ありがとう」


 その一言だけだった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

とくに派手な回でなくとも、楽しんでいただければ幸いです。

コメントやお気に入り登録などしていただけると、とても励みになります。

それでは、次回もどうぞよろしくお願いします!

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