配信バズれば一石二鳥なんですよ
翌朝 目が覚めたとき、魔導端末が小さく振動しているのに気づいた。
「……んあ?」
目をこすりながら画面を覗き込むと、『〈ユズハ〉からメッセージが届いています』という文字が点滅している。
そこにはユズハのテンション高めな文章が連なっていた。
半分寝ぼけたまま、ざっと目を通してみると、要するに「昨日の救出劇について、インタビュー配信がしたいから協力してほしい」という内容らしい。
(なんで連絡先...ていうかインタビュー配信……?)
うーん...やりたくはない。
――が、読み進めるうちに、だんだんと別の考えが頭をもたげてきた。
「救出劇はバズりそう」とか「詳しく聞きたい人が多い」とか、派手な言葉がちらほら目立つ。
ユズハならではの“配信者目線”だと思うが、そこに妙な可能性を感じてしまった。
読み終わったころには、頭の中で小さな電球が光った気がする。
◇◇◇
「リクさん、お返事ありがとうございます! 昨日ぶりですね!」
「わざわざ来てもらって悪いな」
「ぜんぜんです! 依頼したのはこっちですし、フットワークも配信者には重要なんで!」
ユズハは椅子に腰掛け、スライムを膝の上に載せてにこやかに笑う。
昨日今日でこんな辺鄙なダンジョンにふたたび来る行動の早さは、やはり配信者としての慣れがあるのかもしれない。
それにしても、今日はずいぶん装いが違う。
昨日は動きやすそうな恰好だったのに、今日はひらひら揺れる短いスカートと胸元が大胆に開いた服の上に、薄く透き通る魔法布で仕立てた上着まで重ねている。
そんな彼女は、部屋をぐるりと見回して、軽く首をかしげながら話した。
「……なんか、このダンジョン、昨日と雰囲気変わってません?」
ここはダンジョン──エリア2。
壁はわずかに整い、松明の柔らかい光が部屋を照らしている。
俺がコアの残りの魔力を使って簡素な丸椅子をふたつだけ作った、即席の応接室(?)だ。
スライムたちもエリア2に勢ぞろいしていて、俺の足元やユズハの周りをぷるぷる揺れながら和ませていた。
「......いろいろあってさ。……でも、どうやって俺の連絡先を知ったんだ?」
ユズハは「えへへ」と照れ笑いながら言う。
「ドラゴン倒したとき、実はリクさん、わたしの配信ですっごい話題になってたんですよ!あの“謎の人は誰だ!?”って盛り上がって……そしたら視聴者さんたちが『リクさんじゃないか』って教えてくれて。有名なパーティーの一員だったんですね!?」
「……まあ、外されたけどな」
「それも視聴者さんが教えてくれましたよ。『Sランクパーティの地味なやつ』が抜けたって! ……あ、すみません、言い方が失礼ですよね。」
「……まあ、事実だから...」
「『人違いかも』って声もあったんですけど、ドラゴンあっさり倒すなんて相当強いじゃないですか。だから“絶対本人だ”ってわたしは信じてたんですよ」
ユズハが嬉しそうに笑う。
「それで、あのダンジョンコアですよ。わたし、配信でちらっと話したら視聴者さんから『コアは最深部にあるもの』『ニセモノでしょ?』って言われまくって……。」
「……普通はコアがあんなところに転がってるわけないからな」
ユズハは「やっぱりそうなんですね……」と納得したようにうなずき、少し身を乗り出す。
「え、じゃあ、あのコア、今どうしてるんですか?」
その質問に、俺は返答に困る。
「……あ、もちろんオフレコにしますから! 教えてもらえたら嬉しいなーって」と、慌てて付け足す。
「……絶対にだぞ?」
「もちろんです! 配信者として、そういうところはわきまえてますから!」
彼女の真剣なまなざしに押される形で、俺は“ここだけの話”という前提でダンジョンコアの概要を簡単に説明し始めた。
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