配信とは、マナチャを得ることでありまする
「へええ……配信で話せば超バズりそう……じゃ、なくて!わたしは言いませんけどね!」
本当に大丈夫か……?
でも、もう話した以上、信じるしかない。
「……それで。相談したいことがある」
コアの話がひと段落したところで、俺は切り出した。
「はい、なんですか?」
「俺に“インタビュー配信しないか”って言ってきただろ? 最初はやめようかなと思ってたんだけど……少し、考えが変わった。」
「おお!? ……それって、やる方向に傾いてるってことです?」
ユズハがぱあっと顔を輝かせる。
まあ、まだ配信と聞くと引っかかりはあるのだが、試してみるくらいは...。
「コアには魔力が必要。だから配信して“マナチャ”を稼げれば、その魔力をコアに注げる......かもしれない」
「そ〜いうことですか!」
彼女は両手をパンと合わせて、興奮を隠しきれない様子だ。
「……このコア、機能は変わってるんだけど見た目は普通のダンジョンコアだし、ダンジョンで配信ってのは普通にあるから、へんなとこさえ見せなければ大丈夫だと思うんだよな。...けど戦闘くらいしかネタが思いつかなくて。」
「ふむふむふむ!実は、戦闘以外にもネタはたくさんあるんです。リクさん、昨日ダンジョンに住むって言ってましたよね?」
「……あー、まあ。コアのおかげで居心地は悪くないし」
「それですよ!」
ユズハが勢いよく身を乗り出す。
「ダンジョン暮らし配信!日常生活の場所として見せましょうよ!」
「俺も配信はそこそこ……いや、かなり見てたほうだけど、ダンジョン暮らしってだけなら、サバイバルとかモンスターグルメ企画とかで既にやってるやつ多いんじゃないか?」
そう返すと、ユズハは「いえいえ、リクさんならではの配信があるんですよ」と反論してくる。
そして、抱いているスライムを指さした。
「こ〜んなかわいいスライム、他の配信で見たことありますか? 襲ってこないモンスターなんて、超レアですよ。ここに“ダンジョン×癒やし”ってコンセプトを掛け合わせるんです!」
「……そんなの、視聴者が喜ぶか?」
「喜びますって!他になにしたらいいかわからないなら、まずはこの路線でやってみましょ! 一歩踏み出すだけでも違いますから!」
まあ、他にアイデアがないのも事実だ。
「……わかった。とりあえずやってみるか」
「オッケーです! ぜひ協力させてください!」
「...どうしてそこまでするんだ?」
「リクさんは命の恩人ですよ? 当たり前じゃないですか! ……それに、もし配信がバズってマナチャもらえたら、わたしにも少し分けてください!共同配信ってことで!」
「なるほど……?」
つまり「あなたを手伝う代わりに配信で稼いだマナチャの一部を渡してね」ということで。
金目当てといえば身も蓋もないが、そういう現実的なところが逆に信用できるのかもしれない。
「わかった。」
「ありがとうございます! わたしもこのダンジョンで盛り上がる企画をいっぱい考えますから!」
「じゃあ、よろしく」
「はいっ、任せてください! あ、そうだ――」
ユズハは不意に立ち上がり、右手をこちらに突き出す。
「握手しましょ?」
「……え?」
思わず面食らってしまうが、ユズハは満面の笑みを浮かべて手を差し伸ばす。
「ほら、共同戦線の証ってことで! 一緒に配信バズらせて、マナチャあつめましょう、ね?」
「あ、ああ……」
少し戸惑いつつも、俺も右手を差し出す。
ユズハの手は意外と温かくて、そっと指先が触れた瞬間に胸がざわつく感じがした。
狙ってやっているのか、それとも素なのか――判断がつかないところが、やっぱり配信者らしいというか……。
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