コアから女の子の声が!
魔力量:1000
エリア数:5(深度1)
モンスター数:10体
手のひらに収まる球体に、ダンジョンの状態がざっくりと示されている。
たったこれだけで『ダンジョンマスター』なんて言えるのか不安になるほど、簡潔なものだった。
とはいえ、そんなめんどくさいことに首を突っ込む元気は、今の俺にはない。
「とりあえず、精神と疲労と...傷心を回復するベッドのほうが先なんだけど……」
思わずそう呟くと、宙に浮かんでいた文字が一斉にスッと消え、代わりに『承認しました』という文章がふわりと表示された。
「……は?」
驚く間もなく、「魔力量」の数値が1000から490へ目に見えて減る。
そして画面に新たなメッセージが浮かぶ。
『エリア1をベッドルームに更新しました』
俺は思わず二度見する。
「マジか……」
さらに親切設計なのか、今度はマップらしきものが投影された。
ダンジョンは通路と部屋が5つだけ、まるで俯瞰図のように表示されている。
...深度は階層か。いまは1Fしかないと。
ってことは1Fのみの5部屋しか存在しないダンジョンということになる。
狭っ。
「ダンジョンってわりに、ずいぶんしょぼいな。……俺が最初に入ったときはもっと広そうな気がしたんだけどな...」
『……初対面でしょぼいとは、なかなか失礼なマスターね』
「……え?」
一瞬、妙に感情がこもった声が聞こえた気がして、思わず周囲を見回す。しかし、当然誰もいない。
『失礼しました。私はこのコアの管理者です。あなたが触れているコアから伝えています』
「コアが喋った」
『それがなにか? さっきのベッドの生成も、要望に沿った結果です。……少し魔力は使いすぎたかもしれないけれど』
「なに?」
『……なんでもありません。ともかく、要望に沿ったエリアの改装を実行しました』
「ああ…まあ、ずいぶん…融通がきくシステム…なのか?」
『ふふ、そうでしょう?――いえ、マスターの要望に応えるのが私の役目ですから、当然です』
なんだこのコア。
『それで、ベッドルームの確認はしないのですか?せっかく魔力を消費して生成したのに』
「ええ?いや行くけど…」
マップを確認すると、エリアという名の小部屋がいくつか表示されていた。
ついさっき“更新”されたばかりのエリア1は、すぐ近くだ。
◇◇◇
薄暗い廊下を進む途中でスライムに出くわした。
さっきコアの画面に“モンスター数:10体”と表示があったから、こいつがそれに違いない。
が、様子が変だ。
「スライムとはいえモンスターなのに攻撃してこない…」
『マスターに攻撃なんてしないし、あなたが指示しなければ侵入者にも攻撃しないわ』
そういうことか
「攻撃してこないならいいか、とりあえずそのままで」
◇◇◇
エリア1に足を踏み入れると、少しだけ空気が違うことに気づく。
来るまでの通路は壁がボロボロだったのに、この部屋だけは石壁がそこそこ整っている。
壁の一部には松明が設置されていて、柔らかな光で室内を照らしていた。
その明かりに照らされる中心には、こじんまりとしたベッドが一台。
高級感こそないが、ちゃんと毛布まで用意されている。
「本当にベッドだ。しかも、ちょっとした部屋っぽくなってる」
『マスターの要望に応えました。それだけです』
「すごいな…」
『……他に用がないなら休んだら?』
システムに休めと言われるのも妙な気がするが、反論する元気もない。
じゃあ寝るか?そう思い始めたとき、魔導端末に通知が飛び込む。
――数日前ステラに入れてたマナチャの引き落とし通知だ。
「ぐああっ」
いきなり精神的ダメージをくらって、そのままベッドに倒れ込む。
『……何してるの?』
「……ちょっとダメージが」
『よく分からないマスターね』
「…………」
しばらく無言のまま突っ伏していたが、コアが再び話しかけてくる。
『…どうしたら回復するの?』
「…回復?…いや、これは」
ぐぅぅるるるるる。
空気を読めない腹の虫が、見事なまでに響き渡る。
落ち込んでても腹は減るもんだ…いつから食べていないのか忘れたよ。
「…食べ物とか……出せる?」
『……承認。』
すると“魔力量”が490から290へ減少し、目の前に高級そうな果物が詰め込まれたバスケットがポンと出現。
「何でもありか」
『ダンジョン内ならマスターの要望にできる限り答えます。それが仕事なので。』
「ずいぶん盛りだくさんだな」
『…あなたが元気になってくれないと、私も困るわ。回復して、マスター。』
まさかコアに慰め?られるとは...
でも、嬉しいもんなんだな。
「……ありがとう」
バスケットの中のリンゴを手に取ってみる。採りたてかというくらい瑞々しくて、ひんやりしている。
これならダンジョン改造して、本当にここに住むのはアリかもしれない
「風呂も出せる?」
『魔力量が不足しています。』
「…魔力さえあればいいってことか?」
『そうだけど、できるの?』
試しに少しだけ集中して魔力を注いでみたものの、コアの数値はびくともしなかった。
『…言ったでしょう。そんな量じゃ何も変わらないわ、マスター』
「こんな調子で部屋を増やしたり設備を整えたりするのは、とんでもない魔力が必要そうだな…」
コアを眺めながら呟いていると、ふとあることを思い出す。
――マナチャ。
あれは視聴者が配信者に魔力を送る仕組みだ。
厳密には、ほとんどの人は金銭を通じて“魔力”を購入している。通貨の代わりに魔力が広く使われるからこそ、そういう流通が成り立つわけだ。
つまり、配信者がマナチャを受け取ると、実質的に魔力を受け取ることになり、それをギルドや各企業が換金保証している。
この世界じゃ、現金を離れた相手に送るなんて普通の人間にはまず不可能だから、“魔力そのものが通貨として扱われている”といっても過言じゃない。
「…コアにマナチャを送ることができたら…?」
そんな馬鹿な話があるだろうか。
『マナチャ?』
「いや……まさかな…?」
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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