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潰す。ぶち壊してやる

 一方、ギルドの酒場。

 わいわいとにぎやかな声が響くなか、隅の席だけは妙に暗い雰囲気に包まれていた。


 テーブルを囲んでいるのは、グレンのパーティ――エリカ、ニール、カリン。

 三人とも険しい顔をして、黙りこんでいる。


「どうして相談もなしに受けたんだよ……」


 最初に口を開いたのは、魔術師のニール。

 声が少し震えているのは、緊張しているせいだろう。


 するとグレンが、ほとんど感情を見せないまま静かに答えた。


「文句があるのか? 討伐ランクはSだ。ここで成功すれば、スポンサーを取り戻せる」


 口調は穏やかなのに、その奥には焦りが透けて見える。

 ニールは必死に食い下がった。


「そういうことじゃ……リクは一応、元パーティ仲間で……」


 グレンは聞く気がないらしく、いきなりテーブルに拳を打ち下ろす。

 その音に、カリンまで一瞬肩をすくめた。


「だからオレ達で始末をつけるんだろう」


 その一言で、あたりがしんと静まる。

 まわりの酒場のざわめきすら、遠のいていくようだった。


 グレンの表情は変わらない。

 でも、その瞳だけは不気味なまでの執念に燃えているように見える。


 ニールもカリンも何も言えず、エリカだけが思わず声を漏らした。


「始末って……グレン、あなた、何を言っているのか――」


「やっほー! 依頼を受けてくれてありがとね〜。ラビちゃんです!」


 とつぜん、軽い声がその重い空気を吹き飛ばした。

 振り向くと、小柄で赤い髪が目立つ少女――ラビが笑顔で近づいてくる。

 彼女の後ろには、白い鞘を下げた男が無言でついていた。


「……」


 グレンが鋭い目つきでラビをにらむ。

 ラビは動じることなく、まるで慣れた様子でテーブル脇の椅子に腰を下ろし、楽しそうに肘をついて話しはじめた。


「Sランクだから大変だと思うけど頑張ってね! ……ただ、集まってもらったのは励ますためじゃなくて、こっちでも助っ人をつけさせてもらおうと思って!」


 グレンの眉間に深い皺が寄る。ニールとカリンは、グレンとラビを交互に見つめるだけ。


 代わりにエリカが、グレンの顔色をうかがいながら問いかける。


「助っ人……ですか?」


「何でもやってくれる冒険者のヨウくんです、よろしくしてあげてね!」


 そう言ってラビが指さした男――ヨウが軽く名乗った。


 タバコに火をつける様子からは、さっきまでの重い空気など微塵も伝わっていないようだった。


「……助っ人なんて必要ない」


「必要だよ〜。いまのパーティじゃ戦力不足だもん」


 その言葉にグレンのこめかみがピクリと引きつる。


 隣にいたニールとカリンも「そこまで言う……?」という表情で、エリカも落ち着かない様子だ。


「……なんだと?」

 

「だってそうでしょ? もともとパーティは5人だったよね? 一人抜けてるし、最近のダンジョン攻略も失敗してるって聞いてるし〜」


「……余計なお世話だ。助っ人なんていらない」


 グレンが低くうめくように言う。だけどラビはそんな空気にも動じず、さらりと言い返した。


「ふーん。じゃあ別のパーティに頼もうかな? 実力も安定してるし、スポンサー的にも安心だろうし――」

 

 グレンが目を見開く。そのまま声を荒らげて、強引に話をさえぎった。


「あいつを潰すのはオレだ!」

 

 激しい勢いで立ち上がるグレンに、テーブルの上のグラスが落ちて派手な音を立てる。

 酒場のざわめきが一瞬で消え、その場にいた全員がグレンを見つめた。


 いきなりのことに呆気にとられたパーティの面々。ラビもきょとんとしている。


「リクだけは……」


 グレンが小さくつぶやく。その拳は小刻みにふるえていた。

 周囲の冒険者たちも息を詰めて様子を見守っている。


 やがてグレンは顔を上げ、怒りをにじませた声で言い放つ。


「……あいつは裏切り者だ!」


 酒場中に響き渡る前に、グレンはさらに続ける。

 

「全部投げ出した、あいつのせいで! スポンサーも離れて、築き上げたものは丸ごとパーだ! リクのせいでオレのキャリアは終わったんだよ!」


 息を乱しながら、グレンはテーブルをドン、ドン、と何度も叩く。


 エリカが「グレン……」と口を開くが、まったく止められない。


「潰す。ぶち壊してやる」


 その声で、場の空気はさらに重くなり、近くの冒険者たちはこそこそと離れ始める。


 ニールとカリンもまるで見たことのないグレンの激昂ぶりに身動きが取れないまま。

 そんな中で、ヨウだけはくわえていたタバコの煙をゆっくりと吐き出した。


「……見苦しいな」


 グレンは即座に椅子を蹴り飛ばし、荒々しくヨウの胸ぐらをつかんだ。


「てめえこそ、助っ人だかなんだか知らねえがSランクの依頼にしゃしゃり出るとは大した自信だな……!」


「……確かめてみるか?」


 ヨウの低い声が、逆にグレンの怒りをあおる。グレンの拳にはさらに力がこもり、今にも殴りかかりそうな気配が漂った。


「まあまあ! それ以上やると、本当に別のパーティに頼んじゃうよ?」


 ラビがタイミングを見計らったように割って入り、グレンの肩にぽん、ぽん、と手を添えて宥めるように言った。


 しばらくの沈黙のあと、グレンは舌打ちして、勢いよく手を離した。


「ヨウとラビちゃんはSランクのダンジョンに潜ったことあるし、きみらよりはベテランだからさ」


「……聞いたことない、そんなパーティなんか」ニールが不安そうに呟く。


「すこし前だったしね〜。あのときは配信もしてなかったし」

 

 ラビの明るい声が、どうにか場を落ち着かせようとする。

 グレンは何か言いかけたが、結局は乱暴に背を向けて酒場を出ていく。


「待って、グレン!」


 ニールとカリンも思わず後を追いかけそうになるが、エリカが制した。


「……私が行くわ」


 二人は困惑しつつも頷くしかない。エリカは荒んだ空気を残して店を飛び出した。


 ――酒場にはラビとヨウ、そしてニールとカリンだけが残る。


「出発は明日かな〜。ヨウ、頼んだよ」


 ヨウはタバコに新たに火をつけながら、心底面倒そうにため息をつく。


「あんな状態でか? どんな依頼も無理だろ。正気じゃないぞ」


「でも、もう受けちゃってるし、グレンは止めても行くでしょ? そこでヨウの出番。何とかしてよ〜」


「無茶言うな。それに、おれはギルドの正式な依頼は受けられないはずだが」


「だから助っ人だよ。ギルドの掲示板にヨウの名前は出ないし、正式には受けてないことになってる。──で、報酬はラビちゃんが払うから安心して」


「ラビちゃんが、ね。……何をさせる気だ?」


「まず一つ目は、あのダンジョンに変な扉があるから、そのさきを確かめてほしいの」

 

「そのさき……?」


「行ったらわかるよ! ヨウもたぶん見たことあるはずだから。二つ目は、グレンたちがちゃんと成功するようにフォローしてあげてほしい。あのままだと空回りして失敗しそうでしょ?」


 ヨウは何度目か分からないほど深く息を吐いた。


「……ふざけた話だな。じゃあ報酬はいつもの5倍だ」


「守銭奴ー!」


 ラビの声が響き、酒場に少しだけ賑わいが戻り始めるのだった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

とくに派手な回でなくとも、楽しんでいただければ幸いです。

コメントやお気に入り登録などしていただけると、とても励みになります。

それでは、次回もどうぞよろしくお願いします!

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