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ギルドに報告するしかないね

 ハヤトがふん、と鼻を鳴らして声を張り上げた。


「実名でもなんでもいい。コアはありましたよね!」


「……いや、ダンジョンコアはないよ。実際、見つからなかっただろ?」


 俺がそう答えると、ハヤトは「はぁ!?」と目を剥いてくる。


「ん〜、配信する前に1Fは見たし、B1Fも見たでしょ。たぶんここにはないんじゃないかな〜。あとは楽しかったから」


 横でラビがぽんやり言った。けれどハヤトは納得できないらしい。


「楽しいって! なんの理由にもなってないですよ! ちゃんと調べてくださいよ! 怪しいとこくらいあるでしょ!」


 その言葉に、ラビはダンジョン内をざっと見回してから、少し眉をひそめた。


「そうだね〜。リクは良い子だと思う。でもハヤトの言うことをきくわけじゃないんだけど、ひとつだけ気になることがあってさ」


 一瞬、空気がぴりりと変わる。ハヤトが「おお!」と期待を込めて食いついた。


「配信したとき、気づいたんだ。このフロアの奥にある“あれ”。ラビちゃんの攻撃を吸われたように見えたのね。でも、そんな仕掛けって見たことないし、どうやって作ったのかな〜?」


 ラビの視線が向かう先は、一見ただの壁。けれどそこには、シエルが封印した部屋が隠されていた。


 あれをどうやって作ったかなんて話になったら、シエルの正体に直結しかねない。しかもここにはハヤトがいるから、本当のことは言えない。


「……あれは、配信用のセットなんだ。 珍しいトラップを仕込んでて、今度ネタにしようと思ってた。だからいろんな魔道具を組み合わせて、ちょっと隠してるだけだよ」


「じゃあ最後に確認させて! それで満足! 帰るから!」


 そう言って、すたすたと奥へ向かおうとするラビの前に立ちはだかる。


「……ネタで使うって言っただろ。配信で出すまでバレたくないんだ」


「ほら! やっぱり何か隠してるんだ、こいつ!」


 すかさずハヤトが口を挟んでくる。声がデカい。

 ラビが軽く手を振ってハヤトを制した。


「ハヤトは黙って!」


 そのままラビは短剣を抜き、さらりと構える。


「ずるいな〜。そう言われると“配信まで待つ!”って言いたくなるし。けどラビちゃんも待つ余裕ないんだよね。近くに行って見るだけだよ」


 そう言いながら、ラビが短剣を振りかぶる。

 俺はとっさにラビの腕を掴んだ。


「……困るんだ。セットが壊れたら大変だろ」


「へえ〜? ラビちゃん、一応監査役なんだけど、それでも見せたくないの?」


「……ダンジョンコアがここにないのは保証するよ」


「ふ〜ん……まあ、分かった。リクがそう言うなら……」


 ラビは唇の端をゆっくりとつり上げ、何かを掴んだように笑う。


 その“やけに素直な”反応が、むしろ不気味だ。嫌な予感が背筋を走った、まさにそのとき――


 ラビは勢いよく腕を引き抜き、短剣を一閃した。


 飛び出した魔力の刃が、ステージ奥の壁へ一直線に飛んでいく。もし俺が反射的に手をかざして弾かなければ、壁を深く抉っていたに違いない。


 わずかなズレで止めたものの、壁はかすめられて波打ち、一瞬だけ奥に扉らしきものが映る。


「きゃ……!」


 すぐそばでユズハが小さく悲鳴を上げ、ケイは「マジか……」と呆然。


 一方、シエルは無表情のまま壁を見つめ、ほんのわずかに眉を寄せている。


 けれど数秒もしないうちに、その裂け目はぐにゃりと歪み、壁と一体化して消えた。


 ラビが険しい顔で沈黙する。ハヤトも唖然としている。


 やがてラビが低い声で問いかけた。


「リク……あれは本当に配信のために用意したセットなの?」


「……そうだ」


「どうやって作ったの? あの術式と、扉と、そのさきの部屋も……」


「……それは」


 口ごもってしまう。

 ラビは短剣を収めつつ、わずかに眉を寄せる。


「……分かった。ダンジョンコアとかっていうより、もっと“良くないもの”を見つけちゃったかもね。放っておくわけにはいかない。だから、もう少し詳しく調べさせてよ」


「調べる……?」


「うん。危険度を確認するのが監査役の仕事でしょ? だからこのダンジョンを一時的に封鎖して、しっかり調べる。数日のあいだは外に出てもらって、配信もお休み、って感じ」


 空気が凍りついた。

 シエルはダンジョンを離れられない。


 それ以上に、シエルが「外に出たらダンジョンも消えるかもしれない」と言ってたのを思い出す。そんなの無理だ。


「……できない」


「少しの間だけだよ」


 ラビは軽い口調だけど、ケイとユズハは固唾をのんで見つめている。

 それでも俺は首を振った。


「だめだ」


「そっか〜。ごめんね、リク。ラビちゃんも仕事なんだ〜。監査役として“危険がある”と感じた以上、放置はできないの。リクたちが協力してくれないなら、ギルドに掛け合うしかないよ」


「おお、そうですそうです! 絶対そっちのほうが――」


「ハヤトは黙って。……ギルドに掛け合うって意味わかるかな……ギルドが“危険”だって判断したら、このダンジョンに討伐依頼が出るかもしれない。」


「……討伐、って……冗談だろ……?」


「冗談でこんなこと言わないよ。もし本当に危険なら、ギルドが討伐隊を派遣してリクたちを強制退去させる。ラビちゃんだって無闇にそんな手段とりたくないけど、一度報告しちゃえばもう止められないし」


 ハヤトが得意げに「観念しろよ」なんて煽ってくる。


 その瞬間、ラビが容赦なくラリアットを叩き込んだ。


「ふんっ!」


「ぐえっ!?」


 ハヤトは情けない声を上げてうずくまる。

 ラビは瞳を見開いたまま、威圧感たっぷりに言い放った。


「黙ってって言ったよね、ハヤト。 それどころじゃないんだから、仕事の邪魔しないで」


 ハヤトは小さくうめき声を漏らし、ようやく黙り込む。


「とにかく、あの部屋をちゃんと調べたいだけ。リクの都合で断るなら、それに見合うペナルティがあると思って。……どうする? 最後に聞くよ」


 俺は返せる言葉が見つからなかった。

 シエルを守りたいなら、ラビの要求なんて呑めない。


 でもギルドから討伐が下れば、このダンジョンを接収されて、強制的に追い出されかねない。


 ラビは俺の沈黙を見て、静かに踵を返す。


「じゃあ、ギルドに報告するしかないね……ごめんね」


 その最後の言葉が耳に残って、どうしようもない焦燥感が胸を締めつけた。


 ハヤトは何も言わず、勝ち誇ったようにこちらを一瞥すると、ラビのあとを追って去っていった。

いつも読んでくださり、ありがとうございます!

リアル引越し作業につき7話開始は2,3日後を予定しております!

ーー

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

とくに派手な回でなくとも、楽しんでいただければ幸いです。

コメントやお気に入り登録などしていただけると、とても励みになります。

それでは、次回もどうぞよろしくお願いします!

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