危ないウサギさんはど〜れだ?
俺が何気なく口にした提案に、その場にいた全員の視線がぱっと集まった。
すると、ユズハが明るい声を上げる。
「じゃ、じゃあ何かゲームっぽいのはどうでしょう? 一本勝負みたいな!」
ユズハがすかさずフォロー案を出すと、声を聞いていたラビは「ゲームかぁ〜、いいね!」とさっそく乗ってきた。
「ラビちゃん、一肌脱ぐよ!」
◇◇◇
「……ということで。このフロアの両端にリクさんとラビさんがいるところからスタートです!
ラビさんの攻撃がリクさんに当たったらラビさんの勝ち。その前にリクさんがラビさんに“タッチ”できたら勝ち――ってルールで、いいですか?」
ユズハがまとめるように提案すると、ラビは「OKだよ〜。ホントの攻撃は配信事故だから、当たったら色が付くくらいにするね〜」と軽い調子で答える。
俺はゴール地点に立ち、ラビたちは反対側のスタート地点に陣取る。
実況はユズハ、解説はラビ、ツッコミ(?)はケイ。見守るのがシエル。そんな配置で準備が整った。
「5、4、3……!」
ユズハのカウントダウンがフロア全体に響く。ケイは視聴者に「みんな準備はいいかー!」なんてあおっている。
一方のラビはと言うと、スタート地点で短剣を床にガリガリやりながら、新しい術式を描いているようだ。
「2、1、スタート!」
合図とともに、ラビがすっと立ち上がり、書き終えたばかりの術式を踏み込んだ。
「わかりやすくしてあげる! ちゃんと避けてよ~?」
ラビが声を張り上げた瞬間、足元からずもももも……と、ウサギの煙がわき立つ。しかも無限に湧いてくるようで、あっという間に俺のほうへ向かってくる。
「いちおう攻撃じゃないから安心してね~。やっぱ、術式は書いてあるとイメージしなくていいからラクだよね」
「オレがさっき出したウサギの上位互換じゃん……」
ケイの言う通り、ラビは魔力を注ぎ続けることで、床の術式を延々と発動させているらしい。
「ケイくんも練習すれば、あれくらいできるみたいだよ!」
「いやいや、あれ一匹出すだけでも気合い入れたのに……」
一方の俺はというと、第五セクションや第四セクションをひょいひょい飛び越えながら前進していた。目指すは第一セクションの先、スタート地点で待ち構えるラビのもと。
ところが無数のウサギ煙がわらわら押し寄せてきて、視界を邪魔され足元を取る。ひとつひとつの威力はゼロだが、数が多いぶんまとわりつかれて厄介だ。
「リクさん、ウサギに絡まれてます! かわいいけど大丈夫ですか?」
スタート地点に立つラビが短剣を素早く振り抜く。
「頭でイメージする術式のいいところは、アドリブが効くことかな〜!」
すると、ピンク色の斬撃がウサギの形をとって一直線に突進してきた。ふわっと見えるのに、正面から迫る気配は鋭い。
当たったら色が付くと言っていた手前、弾いてやり過ごすのはやめておく。
身を捻ってかわすと、そのウサギは俺の頬をかすめてゴール地点まで突き抜け、最奥の壁にぶつかる。そのまま刃の輪郭がぐにゃりと歪み、ピンク色の残光を残して消えていった。
「んんん〜?」
ラビが首をかしげているところへ、ユズハの実況が入る。
「ウサギが襲いかかりました! 可愛いけど怖い!」
「いまのは魔力を飛ばしただけだよ〜」
ラビが軽く言うが、ケイのツッコミは止まらない。
「いや、『飛ばすだけ』って言っても、ヤベぇ動きでしたよ!? 解説になってないっす!」
ところがラビはまったく悪びれず、次のウサギ斬撃を放つべく短剣を構えた。
今度はまるで関係ない場所に何体も撃ち込んでから、天井や床、壁をガリガリ削り取るように反射させ、斬撃の軌道とタイミングを巧みに変えてくる。
それぞれのウサギが同じポイントで交差するよう調整されていて、ラビの容赦なさがうかがえた。
(止まったら集中攻撃されて負ける。前に進まないと……!)
次は第三セクション――飛び石ブリッジ。ハズレ石を踏むと空気砲が飛んできて落とされる仕掛けだが、どれがハズレかもう覚えてない。煙ウサギを払いつつ斬撃をかわしながら飛び出し、無理やり飛び石を踏む。
案の定、シュッと空気砲が発射された。かろうじて気配を察し、隣の石へ跳んで回避する。
「ラビさん、いまのは何でしょうか!」
ユズハが実況で問いかけると、ラビはケロリとした口調で返した。
「ただジャンプしただけじゃない?」
「ふざけんなよぉ!」
ケイが絶叫するのをよそに、ラビは楽しそうに続ける。
「鍛えれば、ケイもあれくらいできるよ!」
「レベル違いすぎるっての!」
ケイが叫ぶ声が遠くで響いていた。
その隙に、ラビが新しい短剣を取り出して構える。
「何本持ってんすか!」
「二本だよ〜。ラビちゃんは危険なお仕事多いからね!」
そう言うなり、ラビは両手の短剣を逆手に構えて、ウサギを二方向へ飛ばしてきた。しかも、今度は白色に仕立てて煙ウサギの中に紛れさせている。
本気で仕留める気なのか、笑顔のまま「にゃはは、危ないウサギさんはど〜れだ?」なんて言っているが、その攻撃ぶりは容赦ない。
直線的に突っ込むウサギと、壁を削って反射しタイミングをずらすウサギ――徹底的に追い詰めようという狙いが見える。
それでも俺は第二セクションの回転床に飛び乗って先へ進まないといけない。踏み込もうとした瞬間、目の前に白色ウサギの攻撃が迫ってきた。
咄嗟にかわしたが、その一瞬の停止で煙ウサギが ずもももも……と何十匹も脚にまとわりつき、足を取られてしまう。
(やば……!)
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