売りさばけば大儲けなんだよ、がはは!
リクとヨウはさらに奥へと足を踏み入れた。先ほどの広間よりは狭いが、そのぶん、出荷準備でもしているかのような雑多な雰囲気が漂っている。
ダンジョンコアらしき球体が袋に詰め込まれ、所狭しと並んでいる“仮置き場”のような場所だ。
リーダーは苛立ちをあらわにしながらリクに袋を押しつけ、乱暴に指示を飛ばす。
「おい、早く手伝え! 運び先で仲間が待ってんだよ!」
リクは指示には従っておけと言われた手前、しかたなく袋を受け取る。試しにひとつ手にとってみると、触り心地はカサカサのただの玉。
ヨウが呆れていた通り、本物と比べればオモチャのように粗悪で、中心部には申し訳程度に青い石が埋め込まれているだけだった。
一方、リーダーは手慣れた様子で袋にコアを放り込みながら、大声で笑い飛ばす。
「コアには魔鉱石のかけらを混ぜてんだ。出来はバッチリだぞ! 売りさばけば大儲けなんだよ、がはは!」
(ヨウは納得してなさそうだったけどな……)
「魔鉱石はこのダンジョンで取り放題だからな! ギルドの連中に見つかる前に掘り尽くして金に変えるんだ。うまくいったらお前らにもおこぼれくらいはやってやるぜ!」
リーダーが気前よく笑うのを横目に、リクは乾いた笑いしか出てこない。その後ろでは、品質にうるさいヨウが深いため息をついていた。
ヨウは入口付近でじっと周囲を伺い、リーダー以外に仲間がいないか探っているが、ほかの人物は見当たらない。ヨウにとっては好都合な状況だった。
そのとき、リーダーがヨウにも声をかける。
「おい、そこのお前! いつまで突っ立ってんだ! ここにある袋を運び出せ!」
ヨウは「……ああ、わかった」と短く返事をし、静かに歩き出す。
その動きに気づいたリクは(まずい……このままじゃヨウがコアを運び出してしまう)と、焦りが脳裏をかすめる。
(今こそ決断するしかない──まずはヨウを倒して、そのあとリーダーを何とかする!)
そう自分に言い聞かせ、リクは思いきってヨウの前に立ちふさがった。しかし、そのタイミングがあまりに悪かった。
コア入りの袋に近づけまいとするリクの行動は、ヨウの目にはリーダーをかばうように見えてしまったのだ。
しかも直前に「おこぼれくらいはやってもいい」とリーダーが口にしたばかり。さらにリクは真剣な表情で、
「……俺は降りるよ、この依頼……」
という宣言を重ね、ヨウは誤解を深める。
「降りる? 何のつもりだ?」
ただならぬ緊張感を察したのか、リーダーも顔を上げた。
リクはきっぱりと告げる。
「何のつもりもない。いま動かなきゃ絶対に後悔すると思ったんだ」
ヨウは「……目先の報酬にとびつきやがったな」
そう言ってヨウはゆっくりと白鞘を構える。
リーダーは「お前ら……何言ってんだ……!?」と声を張り上げるが、もはや静止できる雰囲気ではなかった。
「報酬の問題じゃない! ……まあ、正直ちょっとは惹かれたけど、俺はこっちの正義を通す。だから、ここでお前を止める!」
「……最低かよ」
◇◇◇
「できたわ!」
シエルが達成感たっぷりの声を張り上げ、どん! とテーブルの上にジョッキを置いた。
中に入っているのはトロピカルジュース……ではなく、ドロドロとした赤い何か。
しかも、よく見ると微妙に動いているようにも見える。少し不気味で、どこか生々しい雰囲気すら漂っていた。
「赤汁!」
「青汁じゃなくてな、ハハ」
遠い目をしながら感想を漏らすケイ。一方ユズハは、この得体の知れない代物にもかかわらず感極まったように声を上げる。
「すごいよ! 料理できた!」
その言葉に、シエルはまんざらでもなさそうだ。ユズハが「シエルちゃん、食材刻むのホント上手だね!」と褒めちぎると、さらに得意げな表情を浮かべる。
「じゃあコレはマスターに飲んでもらうとして……」
シエルがそう言い放った瞬間、ユズハとケイは同時に息を呑んだ。
(リクさん……ごめんなさい!)
(……まあ〜?食べられないものは入ってないし……ヘーキヘーキ)
ふたりは心の中でそう祈るものの、自分から「試しに飲むよ」などとは言い出せない。もちろん、“口が裂けても”である。
「さて、次は……」
「えっ……! 次!?」
二人は同時に凍りつく。
「デザートを用意するわ」
キリッと宣言するシエル。その瞳には、まだ闘志が宿っている。
「うわ〜……もう先見えたよ。どうする、逃げるか?」
ケイは隣のユズハに小声で提案するが、ユズハはぎゅっと目をつむり、今にも泣きそうな顔をしていた。
「う、ううぅ〜……」
しばらく逡巡した末に、か細い声で答える。
「……のこる……」
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