わたし、ユズハっていいます!
「あ、あの...!」
うなだれている俺を伺うように、声がかかる。
「……ありがとうございます。助かりました……!」
彼女はふっと息をつきながら、鎖骨あたりまで伸びた金髪をかき上げた。
毛先だけ赤やピンクが混ざった鮮やかなグラデーションが、一瞬きらりと光る。
透き通るようなグリーンの瞳と相まって、なんとも派手な印象だ。
この世界では、魔法技術が飛躍的に発達した影響で、ファッションも独自の進化を遂げている。
魔導端末を使ったリアルタイム配信が当たり前になった結果、「映える服装」が重視されるようになったのだ。
彼女が身にまとっているのは、動きやすそうな素材に魔法の刺繍を組み合わせた、独特なデザインのジャケット。
ショート丈のトップスとホットパンツを合わせていて、胸元には小さな宝石のペンダントが揺れている。
彼女の装いは伝統的な布地や魔力制御のルーンをあしらいつつも、軽快さと華やかさを両立した“今風”のスタイルなのだろう。
小悪魔的というか、目を引く要素が多すぎてどこを見ればいいのか迷う。
「すごかったですね!素手でどかっと!いぶし銀!みたいな!」
それはよく言われてた。端的に地味だ、と。
映えが重視されるのはなにも服装だけじゃない。戦い方も同じだ。
俺の戦い方は、体内にある魔力を圧縮して手や脚に集中させ、その瞬間に爆発的な力を生み出すというものだ。
普通は魔力を身体全体にゆるやかに循環させて基礎的な身体強化をするらしいけど、俺の場合はこれを何十倍にも早くして魔力を一点に収束させ、一瞬で叩きつける形をとっている。
つまり見た目には「ただ速くて強いパンチやキックをしているだけ」にしか映らない。グレンは「地味すぎて配信受けしねぇ」って散々言ってきたし、「せめて剣を持て」と言われても、結局は剣をすごい速さで振るだけになるから大して変わらなかった。
対人戦は案外強いと言ったら、「ダンジョンに討伐する人間はいない」と笑われた。
「わたし、ユズハっていいます! 配信者なんですけど、ダンジョン配信以外にもいろいろやらせてもらってます!たとえばモンスターグルメの食レポとか、変わり種の魔道具レビューとか!」
目をキラキラさせたかと思えば、怒涛のように喋る喋る。
「じつは今回ここに来たのは視聴者さんからのリクエストがきっかけで!『辺境に放置されてるダンジョンしってる?』って聞いて、じゃあもう、これをネタに冒険配信しない手はないって!」
「……ああ、うん。とりあえず配信止めてもらっていい?」
「あ! だめですか?」
「だめっていうか……俺、今めちゃくちゃ落ち込んでてさ。配信ってだけで、心がえぐられるんだよ……」
そう言い終わる頃には、画面のコメントがさらに増えているのが見えた。
カメラの向こうで、視聴者たちが大騒ぎしているんだろう。
「よくわかんないですけど、わかりました!じゃあみんな、今日はここまで〜!大丈夫!インタビューしておくから!あとで報告するからちょーっとだけ待っててね!」
勝手なこと言ってる...。
ユズハは素直に視聴者へ謝りながら端末の配信を切る。
そして宣言どおり「有名な冒険者ですか?」「どうしてここに?」と、立て続けに質問を浴びせてきた。
そのたびに、胸の奥で昨日受けた心の傷がひりつく気がする。
まだ立ち直れていないんだから、やめてくれ……。
早くここを離れたい。そう思って一歩退こうとしたとき、ユズハがさらに畳みかける。
「このダンジョンに詳しいんですか?」
「...詳しくないけど住んでみようとは思ってたかな...」
「え!? それって……ダンジョン生活!?面白そうな企画ですね!」
企画じゃない。
興味津々で食いついてくるユズハから、思わず視線を外した瞬間。
倒れているドラゴンの身体が、不気味な光を放ち始めた。
「……ん?」
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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