あ~推しに課金したい!
ハヤトは憤っていた。
リクにあっさり負けたことが、どうにもプライドを傷つける。なんとかして見返してやりたい――その執念が、彼を駆り立てていた。
(あいつのダンジョンが未登録だったなんてな)
リクの配信をチェックしてみたら、「ダンジョンコアに触れたらゴール」なんて企画をしている。まさかと思い、ギルドで情報を調べてみたところ、登録データが見当たらない。もし本当にダンジョンコアがあって未登録なら、ギルド的にはアウトだ。そこを突けば、リクを叩きのめすきっかけになるかもしれない。
そんな思いを抱え、ハヤトはギルドの一室の扉を乱暴に開け放った。
「ラビ、聞いてほしいことが!」
そこには、小柄な体格に赤い髪がひときわ目を引く女の子がいた。ふわりと軽そうなロングコートをダボッとまとう姿は、幼く愛らしい印象だ。だが、画面に映る配信映像を楽しげに眺めながら「にゃはは」と独特の笑い声をもらし、ハヤトのただならぬ雰囲気など気にも留めていない。
「ハヤトじゃ~ん。どしたどした?」
視線はまだ配信動画に釘づけ。彼女はラビ。かつてSランク冒険者だったが、いまは“ダンジョン監査役”としてギルドに属している。――ただし、やる気の波が激しすぎることで有名だ。
「どう考えても怪しいダンジョンを見つけたんです。調査してほしいんですよ!」
息巻くハヤトをよそに、ラビは「え~?」と気の抜けた調子で返す。
「配信でダンジョンコアがあるみたいな発言してるのに、ギルドの登録がないんですよ!」
「もー、何いってんの? そんなの普通ないんだよ? ギルドが承認してからダンジョンコアって発行されるもんなの」
「だから怪しいんでしょ!? 」
「あ~、配信でコアがあるって言っとけばヨシ!と思ってるだけの配信者かな? 世の中にはアホほど配信好きな人がいるからね~。登録が必要ってコトすら知らない人も珍しくないよ?」
アホほど好きなのはあんたもだろ――と言いかけたハヤトだったが、ぐっと飲み込む。
「いや、リクは……その配信者は元冒険者ですよ。コアのシステムを知らないはずない。しかも、オレ、配信映像でダンジョンコアっぽいのが映ってるのを見ました!」
「む~。万が一、そんなダンジョンあったらダメだよ~? でも“怪しい”っていうだけでしょ。何か事故でもあったの? モンスター大量発生とか、怪我人続出とか」
「まだそういう話は……」
「ないんじゃん。だったら今すぐ行かなくてもよくない? あのねー、ただ怪しいだけのダンジョンに毎回足運んでたら、ラビちゃん何人いても足りないよ。ラビちゃん、今は忙しいんだよね~」
そう言い放ちながら、再び動画へ視線を戻す。
ハヤトはため息をついた。ダメだ、今はやる気の波が最底辺らしい。
「……いま配信見てたでしょ」
「あっ、そういうこと言うんだなっ。そう、いま推しの配信中で〜す。見てよこれ。怖いの苦手なくせに肝試し挑戦しててさ」
「知りませんよ」
「あ~推しに課金したい!もっと見てたい!」
「……リクのダンジョン、行くだけで片道半日はかかるんです。移動中なら配信見放題じゃないですか」
「……半日移動しながら見放題?」
一拍置いて、ラビの瞳がきらりと光る。
「なるほど、そりゃいいね。……む、これは! 怪しいダンジョンだ、ぜったい。よくわかんないけど、きっと怪しい!」
さっきまで面倒がっていたはずなのに、急に勢いよく立ち上がる。
「あ、別の仕事もあったんだった……。ま、そっちはお願いしておけばいいか」
(仕事あるんじゃないかよ…)
「じゃあ行こっか。ハヤトも来るでしょ? 現地で調査するしかないよね~」
「ラビ……場所知らないですよね……」
「そっか、ま、細かいことはあとで考えよ。とりあえず怪しいなら行くしかない。にゃはは!」
ラビのテンションに圧倒されながらも、ハヤトは心の中でガッツポーズを作る。
こうなれば、リクを叩きのめす好機が巡ってきた――そんな期待を抱きつつ、ハヤトは急いでドアを閉めようとしているラビの後を追いかけるのだった。
次回ギャグ回を予定しております。
ラビ登場はおそらく6話以降となります。
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